政治の世界で「男女平等」どう実現? 国会議員の46%が女性のスウェーデン 各党が自主的に取り入れた“クオータ制”とは 【参院選2022】 2022年06月28日
現在の日本では、女性国会議員の割合は全体の14.3パーセント。7人に1人しか女性がいません。
「男女平等」と言いますが、議員の世界でも実現できていないのが現状です。
国会議員の半数近くが女性だという北欧の国を取材しました。
■子供を保育園に送った後は国会へ 女性議員の一日
とある平日の午前7時、スウェーデンのストックホルム郊外に住むイーダ・ドルッゲさん(31)を訪ねました。
5歳の娘リブちゃんと、3歳の息子フォルケ君がいるイーダさん。
朝は、夫のグスタブさん(36)と一緒に慌ただしく準備をして出かけます。
子供たちを保育園に送り届けた後、イーダさんが向かった先は、国会議事堂。
イーダさんの仕事は国会議員です。
スウェーデンの国会議員は、前回の選挙で349人中、約46パーセントにあたる161人の女性が当選していて、高い割合を誇ります。
2021年11月には、初めて女性の首相が誕生しました。
【マグダレーナ・アンデション首相】(6月13日)
「NATOに加盟すべきと決めました」
首相就任後すぐ、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、約200年にわたって維持してきた軍事的中立から方針を転換。
NATOへの加盟を申請するという、歴史的決断をしました。
閣僚も、23人中アンデション首相を含む12人が女性で、自らを「世界初のフェミニスト政府」と名乗ります。
なぜ、ここまで政治の世界に女性を増やすことができたのでしょうか。
国会議員のイーダさんに密着取材をすると、そのヒントが見えてきました。
午前8時15分から、憲法委員会の会議に参加したイーダさん。その後、EU委員会のための会合にも出席しました。
そして、午後3時過ぎに本会議が始まり、この日は、インフラ投資や企業再編に関する法案の決議に臨みました。
スウェーデンでは、本会議は基本的に火曜日から木曜日の間に開かれます。
子育て世代や地方選出の議員が、週末に家族、有権者などとの時間をしっかり取れるようにという考えから、そう決まっているそうです。
■日本の約2.7倍 夫が家事・育児にかける時間
イーダさんが会議で遅くなるため、この日の保育園への子供たちのお迎えは、夫のグスタブさんが担当です。
【夫・グスタブさん】
「毎週、誰が子供を迎えに行き、食事を作るかを決めていて、なるべく平等にするようにしています。彼女は国会で仕事した後、夜は有権者と仕事をするんです。よく有権者や政党と電話で話していますよ」
共働きが当たり前のスウェーデンでは、6歳未満の子供をもつ「夫」が家事や育児にかける時間は、日本の約2.7倍。(出典:男女共同参画白書2020年版)
家事・育児は、徹底的に分担されているようです。
イーダさんは2014年、24歳のときに、国会議員に初めて当選しました。
彼女のような若い議員は決して特別ではなく、全体の63パーセントが50歳未満です。
――Q:なぜ政治家になったんですか?
【イーダ議員】
「(社会を)変えたかったんです。いい方向に」
イーダさんは、議員生活8年のうち、あわせて1年間、育児休業を取りました。
スウェーデンでは、母親と父親で計16カ月の育児休業があり、そのうち3カ月は父親に割り当てられた期間です。(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【イーダ議員】
「男性議員も多くが育児休暇を取ります。でないと、『どうして子供と育児休業を取りたくないの?』と聞かれると思います」
街の人は…
――Q:スウェーデンでは父親も子育てをするのが一般的ですか?
【保育園に迎えに来た父親】
「はい。妻が月曜と火曜に迎えに来て、僕は水曜と木曜です」
【育休中の父親】
「僕は数ヶ月間育休中で、妻の後を引き継いでいます。(育児休業で)子供と一緒に過ごした時間は、自分も妻もほぼ同じ」
■「男女平等」はどのように実現されたのか
社会も、政治の世界も男女平等のスウェーデン。
順番としては、政治の世界での男女平等の前に、社会の男女平等の方が先にあったとイーダさんは指摘します。
【イーダ議員】
「政治は、国民・社会・文化を代表するものです。政治の世界で男女平等を達成するために、まず国民が男女平等になるよう、条件を整えなければなりません」
国会議員も一般市民も“男女平等が当たり前”といったスウェーデンも、昔からこうだったわけではありません。
働く女性が増えた1970年代に国民の意識が変わったと、男女平等政策を発信するカルトルプ大使は、話します。
【ジェンダー平等特任大使 ソフィア・カルトルプ氏】
「女性が労働市場に参入してきたのと同時に、政治や公の場で女性の代表が大事であるという議論が行われました。その結果、女性も代表を務めることが、社会全体にとっても政治にとってもメリットがあることが分かったのです」
その際、政治の世界で女性が力を発揮できるように最も後押ししたのが、政党による“クオータ制(女性割り当て)”です。
スウェーデンの選挙制度は、比例代表制を取っています。
有権者は支持する政党に投票し、政党があらかじめ決めた候補者名簿順に、当選者が決まります。
一部の政党がこの候補者名簿の男女の比率を同等にする方針を打ち出し、1993年には、現在の与党である社会民主労働党も“クオータ制”の導入を決定しました。
候補者名簿で女性と男性の名前を交互に並べるなど、現在はほとんどの政党が、自主的に女性の候補者を多く立てています。
――Q:女性議員を増やすことによるデメリットは? 例えば、優秀な男性が当選できなくなるとか…
【ジェンダー平等特任大使 ソフィア・カルトルプ氏】
「私にとっては、非常にばかげた議論です。もし、人口の半分だけでなく全体から選ぶなら、明らかに、より多くの優秀な人々を得ることになるでしょう。なぜなら、より多くの候補者から選べるからです。なので、私は何もリスクはないと考えています。候補者に女性を加え、性別に関わらず最も有能な人を選ぶということは、メリットしかないと思います」
ストックホルム市民は、現在の政治をどう捉えているのでしょうか。
【男性】
「ミスはあるかもしれないけれど、僕はそれでも公平だと思います。良くない人というのは、男性にもいますから」
【女性】
「政治活動は私たちを反映したものであるべきなので、代表者は、男性も女性もいることが重要だと思います」
スウェーデンでは、2022年9月に総選挙があります。
【イーダ議員】
「有権者は、男性と同じぐらい女性政治家がいる候補者リスト、つまり男女平等の候補者リストを期待しています。誰もが社会形成に参加できれば、政治も社会も良くなると思うのです」
日本の今回の参議院議員選挙では、すべての政党を合わせた「女性候補者」の割合は約33パーセントでした。30パーセントを超えるのは、戦後の国政選挙で初めてのことです。
政党ごとに見ると「候補者男女均等法(2018年施行)」にのっとり、候補者を男女同数にしたり、可能な限り近づけたりした党もあります。
また、公約で、今後政党として女性議員をどう増やしていくかに言及した党もあります。
女性議員が増え活躍する国会を望むのか、これもまた有権者の「判断」に委ねられています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月28日放送)