コロナに始まり、コロナに終わった菅政権。
在職わずか1年あまり。菅前首相は、私たちの暮らしに何を残したのか?また、数ある大きな決断の裏側には、何があったのでしょうか?
関西テレビ「報道ランナー」の新実彰平キャスターが、菅前首相に聞きました。
■就寝ベッドのそばに電話3台
――Q:ひとまず官房長官、総理大臣9年あまりお疲れさまでした。
「疲れました」
――Q:(首相を辞めて)ちょっと気は楽になられましたか。
「それはものすごく楽になりましたね。(心身共に)よくもったなって思いますね。官房長官の時は、内閣の危機管理全体の責任者ですし、総理大臣は1年、これも大変だったんですけど。就寝ベッドのすぐのところに電話は3台置いてましたね」
――Q:予備ということですか。
「予備も含めてですね、そういう意味で緊張でしたよね」
■総裁選挙はやるべきじゃないと思っていた
まず聞いたのは、コロナ対応を理由にした、突然の自民党総裁選不出馬の表明です。
――Q:最終的に総裁選にもう出ないとお決めになった決め手は。実際のところ、何が最後心折れた要因だったんですか。
「心が折れたというよりも、やはり緊急事態宣言の中で私は総裁選挙っていうのはやるべきじゃないと思ってましたね。まぁ現職の総理大臣が出て何やってるんだって、これ当然言われますよね」
――Q:あくまでコロナとの両立?
「そこです」
2021年は、宣言の再発令や延長が繰り返されました。コロナ対応などが評価されず、菅政権の支持率は急降下し、8月には、いわゆる危険水域手前の32.1%に。総裁選の候補者からも厳しい声が聞かれていました。
――Q:不出馬の理由は本当にコロナ対応のためだったのでしょうか。実際問題、再選に向けて厳しい状況という中での(不出馬という)現実的な判断ということではなかった?
「それはもちろんそうですよ。だけどやはり選挙を戦ってやるというのは、現職の総理大臣としてやるべきじゃないと」
■根拠のないことは政治ではだめだ
総裁選不出馬は、厳しい戦況を見極めた上での決断でもありました。在職期間384日。わずか1年あまりの菅政権は、何を残したのでしょうか?
2020年10月、就任早々、脱炭素社会の実現を宣言した菅前総理は、その後も、携帯電話料金の値下げ、不妊治療への保険適用など、次々と独自の政策を実現させました。
――Q:例えば不妊治療の保険適用というのは、どんな方からどんな声を聞いて、これはやらないといけないと思われたんですか?
「これは若い夫婦の人。凄く衝撃的だったんですけど、まぁ子供がほしいと。それで共働きをして。しかし、共働きしても(これまでは不妊治療の保険適用に)所得制限があった。少子化対策はまさに待ったなしですから、私はこれ極めて大事だと思ってましたんで」
――Q:いま結構政界ではEBPM(Evidence-based Policy Making)というんですか、エビデンスに基づいた政策決定、根拠に基づいた政策決定が求められていると。すごくよく聞く言葉だと思うのですが、菅さんはこれを大事にされていましたか。
「やっぱり理屈の通らないことはやるべきじゃないというのはありますね。それと私、まぁよく言うんですけど、国民から見て当たり前のことっていうんですかね。それを頭に入れながら進んできていると。根拠のないことって、やはり政治ではダメなんでしょうね」
■ワクチン1日100万回 根拠はインフルエンザワクチン
実は国民の多くが当初は懐疑的だったあの発言にも、菅前首相の一定の根拠がありました。
ワクチンの1日100万回接種です。
「私の根拠は、インフルエンザ。これが最高1日60万回したことがあると。それからすれば、国を挙げてやるから、そこは大丈夫だろうとなという自信はものすごくありましたね」
――Q:インフルエンザはみんな打つわけではないが、60万打ってる実績があったと。
「ですから、その数字を聞いたときに、これは。と思ったんですよ。だけど自分が(会見で)発言するまで3回ぐらい確認しましたよ。あれ間違いないな。もう1回調べてやろうとか」
その1日100万回は、自治体や医療関係者の努力もあり、表明からおよそ1カ月後に達成。世界から出遅れたワクチン接種率は、一気に世界トップレベルにまでなりました。
■裏目に出たコロナ対応「説明しきれていなかった」
自身の中で一定の根拠と信じる数字に基づいて、政策を進めてきた菅前総理。しかし、コロナ対応においては、しばしば、それが裏目に出ました。
2020年7月、疲弊した観光業界を支援するために始めた「GoToトラベルキャンペーン」。この事業が感染拡大の原因と指摘され、国民からも中止を求める声が相次いでいましたが、菅前総理は継続にこだわってきました。
「(専門家から)聞いたときは移動では(コロナは)うつらないという、感染しないという見解だった。しかし、だんだん(新規感染者が)増えてくると、そこ(GoTo)がある意味で1つの原因みたいにされてきた。だけど当時ですね、(約)8000万人の方がGoToトラベル利用されて、発症した人は(約)400人だったんですよね。だけどそこに焦点が当たって専門家の皆さんも(意見が)変わってきましたから」
結局、2020年12月。国内の感染拡大により、さら強まった専門家と国民の声に押される形で、事業を断念することに。
――Q:いわゆる菅さんが大事にしてきたエビデンスと国民感情に乖離が生じていたと。これはコロナゆえだと思うのですが、なぜだという風に分析されますか。
「いや、皆さん、怖いんですよね。具体的なことって、なかなかつかみきれてないし。もちろん説明しきれてないし。分からない部分がすごく多かったんですよ」
■国民への説明は足りていたのか
国民の漠然とした恐怖心を、自身への批判の理由の1つとしてあげた菅前総理。しかし、菅さん自身の言葉でその恐怖心を安心感に変えることはできなかったのでしょうか。
――Q:海外見て評価されているトップというのは、ニュージーランドのアーダン首相や、ドイツのメルケル前首相も感情に訴えて国民に対して呼びかけたりとか、あるいはメッセージを打ち出したり、安心感を与えると。菅さんがそこはどうですか、やりきれなかったという思いは。
「あれだけ言われればそう思いますよね。ただし、元々政治家の仕事をやって結果を出すのが仕事だと思っていました。しかしあれだけ多くの皆さんが批判されると、そこ(説明)は足りなかったんだろうなと思いますね」
――Q:どうしたらよかった、ああすればよかったというのは。
「でもそこはあんまり考えてないですよね。自分がやろうとしたことをやり遂げることができましたので、あとはみなさんにお任せすることですよね」
(関西テレビ「報道ランナー」2021年12月27日放送)