【解説】「吉村人気」だけではない 維新が躍進した3つの理由 大阪での「足腰」の強さで組織的な選挙戦が可能に 【衆院選2021】 2021年11月01日
2021年衆院選の大阪選挙区は全国から見ると異様な光景に映ったのではないか。
自民党と維新が争った15の選挙区ですべて維新が勝利。自民党候補者が小選挙区で一つも議席を獲得できないという前代未聞の選挙となった。
維新が「大躍進」した理由は何か。
■大きかった「吉村人気」
1つ目の理由は、大阪府知事の吉村洋文副代表の人気であったことは間違いない。
精力的に応援演説をこなしたが、どこに行っても人だかり。
立憲民主党の辻本清美副代表が2回連続小選挙区で議席を確保している全国屈指の激戦区、大阪10区(高槻市・島本町)にも2回にわたって吉村副代表が応援に入った。
1回目の高槻駅前での応援演説の際は、平日の夜にもかかわらず4重5重の列ができて、 まるで野外ライブ会場のようで、ものすごい人気だった。
維新陣営からは2012年の橋下元代表の時よりも人気高いのではないか」という声も聞かれた。
吉村氏は2019年の知事就任後に日本維新の会副代表に就任。
その後、大阪都構想の住民投票や新型コロナ対応などを経て、国政政党としての「維新の顔」にもなっていった。
ただ、今回の維新「躍進」の理由は、吉村副代表の人気だけではない。
■「岸田政権」との対立構図の発信
2つ目の理由は、異例の短期決戦となった今回、維新が有効な「争点」設定に成功したように思える。
9月、岸田さんが自民党総裁に選ばれた日に、吉村知事に岸田さんの「新自由主義からの脱却」を掲げていた岸田さんの主張について質問した。
すると、知事としてはコロナ対応でしっかり連携していきたいと答えていた吉村知事は、政党の「顔」として「岸田さんで日本が良くなるとは思えない」と発言。
近い総選挙をにらんで一気に自民との対決姿勢を鮮明にし、「改革を先送りする古い自民VS改革政党の維新」としての対立構造を積極的に発信した。
これまでの安倍・菅政権に対しては、政府との連携の含みを残すためか、ここまで批判色を強めたことはなかったので驚いた。
結果的には、与党批判票の有効な受け皿にもなったと感じられる。
■大阪での「足腰」の強さ
3つ目の理由は、組織として選挙戦を戦う「足腰」が強くなっていることが挙げられる。
大阪維新の会立ち上げから11年。
この間、首長や地方議員も増えて、国政選挙では地元の市議や府議などが自らの手で国会議員を通そうと一体になって応援できる体制が整ってきている。
維新幹部も、「今回の選挙戦から、情勢の変化に応じて重点区に機動的に人を集まる体制が取れるようになった」と胸を張る。
今回の選挙の演説では「大阪の地方政治での実績」をアピールし、「批判ばかり」の野党ではないことを強調。
演説に足を止めた有権者も大阪での「実績」に一定の評価を置く声が多く聞かれた。
前回衆院選では大阪では接戦で逃した選挙区も多く、今回急に「躍進」したというより大阪では元々強いと言える。
新しく立てた大阪の候補者も、府議や市議で経験を積んだ人が複数いて、これまでの候補者よりも「地方の実績」をもとに戦える候補者を並べている。
背景として大きな要素は、「大阪の利益を代表する」政党として定着してきているということ。
つまり、維新(の首長)が大阪の利益を最大化するために国と交渉し、大阪府と大阪市など府内の利害調整を果たす政党として、府民から認知されている。
これにより、国政を中心とした他党との差別化が図られ、今回の大阪での圧倒的な強さを生み出しているように今回の選挙戦取材を通して強く感じられた。
■躍進…そして今後の課題は
維新の今後の課題も、この延長線上にある。
すなわち、大阪「以外」の地方の利益をも代表する政党として認知されていくかどうか。
「大阪」の代表としてのブランド化に大きな成功を収めたことが、逆に足枷になりかねないのが、維新のジレンマと言えそうだ。
今後の戦略はどうか。
10月31日の維新開票本部での会見で、松井一郎代表は「選挙に魔法の杖はない。地方議員を増やしていくしかない」と話した。
今回は大阪以外で初めて小選挙区からの当選者を出し(兵庫6区)、今年7月には、維新が推薦した知事も当選しているのが兵庫県。
維新が大阪以外で勢力を拡げることができるのか。
兵庫県を大きな足掛かりとできるかどうかが試金石となりそうだ。
(関西テレビ報道局 大阪府政キャップ 上田大輔)