8月、外国人の支援のために大阪を訪れた女性の姿がありました。
【日越ともいき支援会 吉水慈豊さん】
「会社の社長に胸ぐらは何回ぐらい引っ張られた?」
【技能実習生】
「2~3回。前にもあった。社長の暴力で逃げた人もいる」
日本に住むベトナム人をサポートする団体「日越ともいき支援会」の吉水慈豊さんはトラブルを抱えた実習生らの相談を受け、必要な場合は自らが僧侶として所属する東京の寺で保護しています。
保護された技能実習生らは吉水さんの寺で共同生活を送り、日本語を学びながら、再就職先を探します。
この日もトラブルの相談が舞い込んできました。
「殴られた?」「暴力を受けたの?」こう問いかける吉水さんに、相談に訪れた技能実習生のベトナム人のタンさんは、うなずきました。
【吉水さん】
「それでやめたの?何回ぐらい」
【技能実習生タンさん】
「いっぱい」
タンさんは、職場での暴力を理由に逃げ出し、在留資格が切れる前に、吉永さんの元を訪れたといいます。
技能実習生は来日前に母国の「送り出し機関」で研修を受けなければなりません。その際、ベトナムの場合、平均年収の約5倍にあたる150万円の費用を、借金をして支払う人もいます。
そして日本では、3年の期限の中で「監理団体」のサポートを受けながら、計画に沿って企業で“実習”を行うことになっています。
技術を習得するとともに労働にも従事するため、事実上、貴重な労働力となっていて、社会保険加入の義務化など、日本人労働者と同等に扱うことが規定されています。
そんななか、顕在化している問題があります。
–Q:みなさん妊娠何カ月ですか?
「わたし6カ月」「4カ月」
【吉水さん】
「いま現在保護しているのは3人いるけど、実際は外で並行して支援しているのは全部で8人です。多いですね、だだっと増えた。」
いま、妊娠した技能実習生たちからの相談が急増しています。
彼女たちが語ったのは驚くべき実態でした。
【吉水さん】
「ベトナムで妊娠しちゃダメって言われた?」
【保護されたベトナム人女性】
「来る前に言われた。」
【吉水さん】
「言われるよね」
【保護されたベトナム人女性】
「日本で働いているときは、妊娠したらベトナムへ帰らなきゃいけないって言われた。仕事もできない。お金も稼げないよって言われた。それで妊娠できない」
「労働者」として認められているはずの妊娠・出産する権利。
しかし、彼女たちは「送り出し機関」や、「監理団体」から「妊娠すれば帰国しなければならない」と言われ続けたと話します。
2017年からの3年間で、実習生が妊娠や出産を理由に実習を終了したケースは少なくとも637件に上ります。
【吉水さん】
「妊娠することが悪いことと思ってる子のほうが多い。だからどうしても逃げ出しちゃったりだとか、帰国を選んだり、強制的に帰らされたりとか。夫になる彼が働くことができて、こちらがサポートすれば日本で産むのは難しいことじゃない」
こうした現状は悲劇を招いています。
2021年7月、わが子の遺体を遺棄した罪に問われたベトナム人技能実習生に有罪判決が言い渡されました。
判決文などによると実習生は妊娠がわかりながら、相談も通院もせず、自宅で双子の赤ちゃんを死産。
遺体をタオルでくるみ、段ボールに入れ、自室の棚に置きました。
2人のそばに添えられた手紙には付けるはずだった名前や弔いの言葉が記されていました。
有罪を言い渡した熊本地裁の裁判官は判決の中で
「帰国を恐れて妊娠を周りに告白できず犯行に及んだ、同情の余地が十分にある」と指摘しています。
【石黒大貴 弁護士】
「実習生のお母さんたちが誰にも言えないまま孤立して死産に繋がった。今後も(こういうケースは)起こっていくんだろうなと思う。」
日本とベトナムの政府は2020年、「技能実習生の妊娠や出産を理由にした不当な取り扱いを禁止」することで合意しました。
しかし・・・
取材班は日本にいる、ベトナムの送り出し機関の一人に接触。
自ら関わっている組織の実情を話しました。
--Q:妊娠や出産を理由に会社を退職させたり技能実習制度を終わらせることはできないはずですけど実態は?
【送り出し機関の男性】
「発覚した場合は、監理団体で話し合って、(妊娠した実習生に)“これからどうするの?仕事できないでしょ。
もう帰るしかないんじゃないの?これはあなたの責任でしょ” そういうもっていきかたで(自主的に)帰国にもっていく」
ーーQ:なんでプレッシャーをかけるんですか?
【送り出し機関の男性】
「監理団体も受け入れの企業様もずっと面倒を見るのはできなくなる。だからそういうのは無難に帰ってもらうのが一番困らない」
「(企業は)実習生が妊娠する問題を起こしたら、ベトナム側の送り出し機関がしっかり教育やってないじゃないかと。やってないから(実習生が妊娠する事態)になってるんだと」
男性が関わっているなかで、企業や監理団体の意向が働き、今も辞めさせる方向にもっていく現状があると話します。
その一方で、複雑な心境を語りました。
【送り出し機関の男性】
「僕はベトナム人の中の一人なので、サポートする団体があればありがたい、妊娠される場合は誰が面倒を見るのか、今のところは僕もよくわからない」
技能実習制度に詳しい専門家は、制度のひずみがこうした問題を生んでいると話します。
【斉藤善久 神戸大学 大学院国際協力研究科 准教授】
「技能実習制度は本来は余裕のある企業が国際貢献の一翼を担うために、海外の若者を呼んできて、自分たちの仕事もする一方で、実習生に技術を覚えさせるという話だが、実際は余裕がない、日本人が定着しない企業が即戦力を一定期間確保するという目的で技能実習生に入ってもらっているという現状があるので、そこで妊娠されると計画が狂いますよね。だったら帰ってもらいたい。辞めてもらいたいというところに実習生を追い込んでいく」
国際貢献のための「実習」名目だった技能実習制度、実態は零細企業を中心に「労働力」を補うための手段になっています。
そのなかで命の危険が生まれています。
【吉水さん】
「若い世代の人たちが日本に来て、なにもないというのはないですよ。共存して生きていくためには人として見ることがとても大事、それが外国人だろうが、日本人だろうが、なにかアクシデントが起きたときに、支援できる体制があるというのが大事」
外国人技能実習生が妊娠・出産できない問題。
これは日本で起きている日本人の問題です。
(2021年9月16日放送)