大阪府池田市にある府立園芸高校で、『花のアレンジ』などを専攻する2年生の鈴木杏奈さん。
彼女は、ある競技で全国の頂点を目指しています。
その競技とは…『全国高校生花いけバトル』です。
全国の高校生が、花を生ける技術で火花を散らす「花いけバトル」。
制限時間はわずか5分で、2人1組となり試合当日に発表される花を使って、即興で作品を完成させます。
出来栄え以外にも所作の美しさや、挑戦する姿勢も審査の対象です。
高校で華道部に所属している鈴木さん。
大会に向けてペアを組むのは、先輩の石川諒さんです。
チームの強みは『斬新なアイデア』。
近畿大会では、器を傾けた花生けに挑戦し、見事優勝。
初の全国の舞台へと臨みます。
■いざ大会に向けて練習! しかし新型コロナの影が…
―12月25日―
全国大会まで1カ月。
まずは各地区代表の研究から始めることにしました。
【石川さん】
「香川と近畿と東北、関東、広島…」
【鈴木さん】
「…」
【石川さん】
「…」
無言が続き、なんだか距離感のある2人。
それぞれの腕前は確かですが、チームワークにやや問題があるようです。
【顧問・湯谷廣子先生】
「チームワークは、こういうところでどれだけ2人が一緒に考えているかってところやと思う」
【鈴木さん】
「ほとんど話したことなくて、(ペアを組むまで)まで1回も話したことなくて…」
【石川さん】
「多分けんかしても僕の方がすぐ謝ります。『すみません僕が悪かったです』みたいな」
花生けバトルで用意される花や枝は、50種類以上。
学校にある豊富な植物たちをかき集めて、本番に近い環境で練習に臨みます。
【石川さん】
「が、頑張れー」
【顧問・湯谷廣子先生】
「終了―。まあこんな感じやな」
大会に向けて練習に励むなか、ある知らせが入りました。
【顧問・湯谷廣子先生】
「ビデオ審査による、オンライン開催の可能性を検討しています」
【鈴木さん】
「審査員が来ないってこと?香川県でやりたい・・・」
『全国高校生花いけバトル』全国大会は、新型コロナウイルスの影響で前例のないオンラインでの開催に。
事前に撮影した動画をもとに、審査員が公開の場で採点を行うことになりました。
■人間関係から学校に行けなくなった中学時代…鈴木さんの支えとなった「生け花」
この日、鈴木さんが大切にしているノートを見せてくれました
【鈴木さん】
「これら(ノート)のどれかは一個机の上に置いてますね。これは黄金比とか計算して、それできれいに見せたいなって」
本人もいくつ書いたか分からないほどのアレンジの数々。
鈴木さんが花に情熱を捧げるようになったきっかけは、高校に入る前のある経験でした。
【鈴木さん】
「中1中2くらいのときに野球部入っていて、男子の中で1人で。そのときになんか、女子から『男好き』とか、男子からは『なんなんこいつ』ってなって。すごい苦しくなって」
人間関係のつらさから、段々と学校へ行けなくなってしまったのです。
【鈴木さんの母・万紀さん】
「野球の練習終わって帰ってきて、そのまま花屋に自転車で行って、とか。最後の糸が切れちゃうってところまで張りつめてやっていて、それが切れないように切れないようにってしていたのがお花だったのはなんとなく感じていました」
その時に支えとなったのが、小学生から続けていた「生け花」でした。
【鈴木さん】
「自分が花で救われたから、他の人も花で救いたいなっていうのがあって」
「花って無くてもいいものだけど、あったら人の心を元気にしてくれる。そういうところが好きなのかもしれない」
■緊張の本番!鈴木さんのテーマは『感謝』…しかしアクシデントも
そして迎えた大会に提出する動画の収録日。
大会スタッフが立ち合いのもと、学校の会議室で予選・準決勝・決勝と3つの花生けを一気に撮影します。
まずは予選です。
流木に器を立てようとするもバランスがなかなか取れない石川さん。
時間がなくなり思うように花を挿せませんでした。
さらに準決勝では、鈴木さんが生けている最中に竹が折れてしまいました。
決勝進出は絶望的に…。
そんな中、最後の決勝用の花生けに鈴木さんはある思いを込めました。
【鈴木さん】
「全国行くって決めたときに、いろんな人に感謝したいって思っていて、それをテーマにしていて、誰かの心に響く作品、1人でもいいからそういう作品を作れたらって」
「収録した日が阪神淡路大震災の日で、当時私が花を渡すとしたらどんな花をつくるんだろうって」
鈴木さんが使った花は、悲しさや不安が取り払われるような、優しく淡い白やピンク。
普段はあまり使わない色で、作品をまとめあげました。
収録を終えると、鈴木さんの目には涙が。
練習の成果を出すことはできず、オンラインでの審査の結果、上位に入ることはできませんでした。
しかし最後の最後、決勝用の作品では届けたかった思いを表現することができました。
【石川さん】
「たぶん鈴木さんと組んでなかったら全国は行けてないと思う」
【鈴木さん】
「自分の無力さを痛感しました。全部考えてやっていかないとなと、またゼロからスタートしようと思いました」
来年こそは絶対優勝する…。
鈴木さんの新たな1年が始まりました。
(カンテレ「報道ランナー」2/1放送)