陣痛をやわらげる無痛分娩は、欧米では広く普及していて、日本でも年々増えてきています。
一方で、妊婦や赤ちゃんが亡くなる事故も相次ぎました。
無痛分娩で2人の子供を産んだ母親の体験から、課題を探りました。
2人目も…「無痛分娩」を選択した女性
大阪市に住む鈴木優子さん(39)(仮名)
今年、2人目の子供を妊娠しました。
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「高齢出産なのがあって、やっぱり産んだ後にすぐ体力が回復しやすいとかそういうことを聞いていたので、もう一度無痛分娩をしたいなと決めてました」
日本で年々増加している無痛分娩。
陣痛が和らぎ、産後の回復が早いとされています。
無痛分娩は、背中に注射をして、脊髄を取り巻く硬膜と呼ばれる部分の外側に麻酔薬を注入。
意識を保ったまま、陣痛を和らげます。
フランスではお産全体の82%、アメリカでは73%が無痛分娩で、欧米では、広く普及しています。
1人目の出産は…「麻酔医が不在」だった
1人目を出産した3年前にも、無痛分娩をした鈴木さん。
しかし、その分娩は思っていたものとは違いました。
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「痛みはやっぱり6割7割はあったんじゃないかなという感じでした、陣痛の最後、出てくるとこらへんあたりは、やっぱり痛くて…どうしようもなかったですね」
夜間の分娩になったため、麻酔科医が不在で、薬の調整ができなかったのです。
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「勝手にイメージで『大丈夫、ちゃんとしてくれるだろう』っていう甘い認識というか、そういうのはありました。…全然わかってなかったですね」
無痛分娩で「母子死亡」のケースも
鈴木さんに不安を感じさせる出来事もありました。
無痛分娩で妊婦や赤ちゃんが死亡する事故が相次いで明らかになったのです。
大阪府内のクリニックで3年前に無痛分娩を行った長村千惠さん(当時31)。
麻酔の直後に呼吸困難となり、10日後に低酸素脳症で亡くなりました。
【千惠さんの父・安東雄志さん】
「(千惠が)ここはすごく体制がしっかりしてるんだと、きちっと色々調べたら、いろんな形で専門医がいてとか、いろんなことを私に説明するんですね」
しかし、実際に分娩に立ち会った医師は、産科の院長だけだったということです。
【千惠さんの父・安東雄志さん】
「現状は結局野放し状態じゃないでしょうか。国もあるべき姿はこうだから、そういう形で法整備を進めるとか監視するとか、管理するとかは一切行われていない状態」
安全性には「施設によって大きな違い」が
日本では無痛分娩の麻酔の8割を産科医が行っているのが実情です。
無痛分娩に詳しい医師は、「安全性は施設によって大きな違いがある」と指摘します。
【大阪大学医学部附属病院麻酔科 大瀧千代教授】
「マンパワーが何か起こったときには、一番大切なので、どんな優秀な先生でも一人でやられていると、何か起こった時に手が足りませんので。2つの生命を守らないといけない、麻酔科医としてももし危ないことが起こったら、かなり高度な蘇生というか技術がいる」
事故が相次いだことを受けて、厚生労働省の研究班は、2年前、「麻酔を行う医師が研修などで技術的水準を担保し、チームとして対応できる診療体制を確保するよう努めるべき」といった提言を出しました。
「私たち女性は手が小さいですので、二人法をお示しします」
提言を受け、関係する学会などが設立した団体、JALAでは、無痛分娩の講習会を定期的に開き、安全性を高めようとしています。
大阪大学医学部附属病院は4年前から、新たな取り組みをスタートしました。
麻酔科医が24時間体制で立ち会い、産科や新生児科の医師と連携して、チームで無痛分娩に対応しています。
【大阪大学医学部附属病院麻酔科 大瀧千代教授】
「色んなスタッフがいるところに集約化されたところに麻酔科医がかかわっていくのが一番安全だと思います」
自然な陣痛に合わせて麻酔をかけることができるほか、分娩中は麻酔科医が薬の量や種類を調整するため、痛みもより緩和されるということです。
阪大病院では無痛分娩を選ぶ人がこの4年間で約5倍に増えました。
同じ無痛分娩でも…1人目の時とは「全然違う」
【大阪大学医学部附属病院麻酔科 大瀧千代教授】
「入れるのはここれぐらいの細いチューブになります」
「結構細いんですね」
鈴木さんも、2人目の出産は阪大病院を選びました。
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「麻酔科の先生が必ずいてるし、1時間に1回は見に来るということで、前回とは全然違うなと感じました」
9月16日午前2時半―
陣痛がきて病院にかけつけた鈴木さん。
新型コロナウイルスの影響で、立ち会いができないため、一人で出産に臨みます。
【大阪大学医学部附属病院麻酔科 大瀧千代教授】
「もうはじめますからね、麻酔」
「麻酔です」
「カテーテルいれます」
麻酔科医が背中に処置をして、約20分―
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「こんなに違うのっていうぐらい」
【大阪大学医学部附属病院麻酔科 大瀧千代教授】
「楽になりました?」
本来なら痛みが激しい時間帯にも関わらず、鈴木さんが分娩の様子を話してくれました。
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「もう痛みがほとんどない状態になりました。10で例えても1にいかないくらいですね。子宮の収縮はわかる程度の痛みがちょっと残ってるっていう感じ」
【大阪大学医学部附属病院麻酔科 大瀧千代教授】
「このままたぶん赤ちゃん生まれるまで、(薬の量は)これぐらいでいけると思います」
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「先生はちょくちょく声をかけにきてくれています、感覚とかどうかなとか、『もうちょっとたしますね』といって麻酔足してくれたりして、すごく心強いですし、ものすごく安心感あります」
陣痛がはじまってから、約5時間後
【助産師】
「おめでとうございます」
男の子が誕生しました。
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「お外の世界だよ~頑張ったなあ。先生ありがとうございました、最高の出産になりました」
施設の技術などを「理解して選ぶ」必要がある
4日後、無事退院した鈴木さん。
【鈴木優子さん(39)】(仮名)
「(前回と)全然違いましたね、体力の消耗具合が全然違って、回復力もすごく高かったですね。ほぼほぼ理想どおりの痛みなく産めたなっていうのがあります。高齢出産も仕事で増えているので、産後すぐ働きたい方がいらっしゃるなら絶対無痛分娩をオススメするなと思いました」
安全面の向上を目指している日本の無痛分娩。
各施設の技術や診療体制を理解した上で、選ぶ必要があります。