【新実キャスター】「茅葺のお家を見たことはもちろんありますが、どんな作業してはるのかは…ちょっと初めてなんですよね。こちら、立派なお宅ですね…え、見事!」
【新実キャスター】すみません、お世話になります。よろしくお願いいたします、関西テレビの新実です」
【中野さん】「ああどうも、よろしくお願いします。美山茅葺の中野と言います」
【新実キャスター】「中野さん。今どういう作業なんですか?」
【中野さん】「葺き直し、葺き替えです」
この方が、伝統産業に革命を起こしている、
美山茅葺(みやまかやぶき)株式会社の社長、中野誠(なかの・まこと)さん。
美山で生まれ育った、生粋の美山っ子です。
美山茅葺は、重要伝統的建造物群保存地区「かやぶきの里」を始め、
全国各地にある茅葺屋根の修復作業などを行う会社なんです。
ところで茅葺屋根は、そもそもどのように作られているのでしょうか?
【新実キャスター】「おはようございます。あっ中の骨組み!」
【中野さん】「見えてるでしょ?」
【新実キャスター】「むき出しになってるの初めて見ました。あの骨組みにもうダイレクトに?」
【中野さん】「だから通気性もあるんですよ」
【新実キャスター】「雨、通さないんですね?」
【中野さん】「通さないんですよ。これはススキなんですけど…」
【新実キャスター】「茅葺っていうけど、“茅”っていう植物があるわけじゃないんですか?」
【中野さん】「ないんですよね。ススキとかヨシとかそういうものの総称を“茅”って言うんですよね」
まず竹で組んだ基礎の上に、茅の束を乗せていきます。
そして、茅の束を竹で押さえ、基礎に結び付けて固定。
この作業を繰り返す事で、頑丈な茅葺屋根となるのです。
一面葺き替えるだけで、かかる期間はおよそ2週間。
夏場は炎天下での作業。かなりの重労働です。
【新実キャスター】「これ、どういう作業なんですか?」
【中野さん】「これね、今ね、並べた茅を屋根の面にこう合わせて、叩いていってるんですよ」
【新実キャスター】「あ、そっか、最初こう仕切ってたから、ここに線ができちゃっているけど…」
【中野さん】「ですよね?段がついてますよね?」
【新実キャスター】「屋根に合わさなあかんということか…」
【中野さん】「合わすんですよ」
私も体験させてもらいました。
【新実キャスター】「これはホント力仕事ですね…こんな滑らかにならへんわ。ガタガタになる」
【中野さん】「はい、いきなりできたら!(笑)」
【新実キャスター】「しんどいですよね?」
【中野さん】「はい、しんどいです」
【新実キャスター】「いや…(新実キャスターが作業した後で)直しますよね?」
【中野さん】「はい、直します」
【新実キャスター】「遠くからみたらピシーッと綺麗に揃ってるように見えるんですね。芸術ですね。実際の所どうですか、数としては減ってるのか…?」
【中野さん】「減っていますね」
【新実キャスター】「やっぱ、減ってるんですか…」
茅葺屋根を取り巻く環境は、決して良くありません。
職人の数は、全国で150人ほどしかいないそうで、高齢化も進んでいると言います。
そんな中…
【新実キャスター】「中野さんはおいくつでらっしゃるんですか?」
【中野さん】「僕は51ですね」
【新実キャスター】「51」
【中野さん】「はい、うちはみんな若いですよ、平均年齢31ですから」
【新実キャスター】「31!?」
【中野さん】「一番若いので…うちの会社は21かな」
【新実キャスター】「若い!」
実は美山茅葺では、10人の職人が働いているんですが、
平均年齢は31歳という若さ。
中野さんが積極的に若手を雇う、その理由は…
【中野さん】「やっぱり文化を伝えるためにはもう人ですよね。やっぱり若手を育てるっていうのがもう一番の想いですよね」
日本の原風景、茅葺屋根を守るという事は、若手職人を育てる事だという中野さん。
私、現場でこんな光景を目にしました。
【中野さん】「こう入れてから、こうせんとダメ」
【若手職人】「はい、それでこう押さえていく…」
【中野さん】「茅が寄ってしまうやろ?だからちょっと長いものを入れてあげないと…」
【新実キャスター】「ちゃんと言葉でお伝えになるんですね。後輩の方にも」
【中野さん】「昔は“見て盗め”やったんですけど」
【新実キャスター】「やっぱり」
【中野さん】「今の時代はやっぱりそれは僕はダメやなと思って。もう、分かる事はどんどん教えています。伝統文化やから昔のままって言うわけにはいきませんね、こんだけ変わればね。やっぱり変えていかなあかんもんは変えていく。だからこそみんながこう楽しくなっていくんかなと思ってます」
【新実キャスター】「いい会社ですか?まったく、忖度なしに」
【31歳6年目】「いい会社だと思います。未来の事を話せるというか」
【23歳1年目】「どういう人生を歩んで行こうかということを、考えるきっかけにもなったんで」
いわゆる「昔かたぎの職人」ではない、時代にあった育て方を心がけている中野さん。
今なお、一人親方、個人事業主が圧倒的に多い茅葺職人の世界。
そんな中で、中野さんは12年前に株式会社を設立したんです。
【中野さん】「給料制でもらって、雇用保険とかそういういろんな福利厚生の設備もちゃんと整えて、会社組織にすることが職人のこの地位をポンと上げることやなっていう。それが無かったらやっぱり次の世代が育たないと思いましたしね」
地方から来た職人には社員寮を提供するなど、
職人が安心して働ける環境作りを目指しています。さらに…
【中野さん】「今回夏休みを1ヵ月取ったり…」
【新実キャスター】「なんですかそれ?」
【中野さん】「みんなの社員のモチベーションやら、2倍も3倍にもなって意欲を駆り立てて、そうなっていって仕事が早く終わると言うことは、利益が出るわけですよ。みんなの力によってね。休みを取ることができるっていうのをひとつの会社の魅力にしたかったんですよ」
【新実キャスター】「働き方改革で、労働生産性を上げて、利益率をアップする…素晴らしい経営者ですね!」
【中野さん】「いやいや(笑)」
【38歳12年目】「安心して働けるというか。やはり福利厚生もしっかりして頂いてますし、仕事に集中できる」
【31歳6年目】「やっぱり家族もいるので、そこでの不安が1個減るだけでもやっぱり自分なりの負担っていうのがすごい大きく減るので」
【中野さん】「村の人がすごく大切にしてくれて、もう村の人は自分の子供の様にしてくれはりましたね、僕のことを。だからそれがやっぱりあったんで、この村で何かできる、この村でしかできひんことっていう風に思ったときに…」
【新実キャスター】「茅葺を残すとか、人を残すっていうのは、つまり故郷を残すっていう事につながるんですか」
【中野さん】「そうですね、はい」
【新実キャスター】「やっぱり大好き?故郷は?」
【中野さん】「大好きですね」
若手職人を育てる事で茅葺屋根の伝統を守る。
その思いは茅葺の里に暮らす人たちにも伝わっています。
【京都・美山北村かやぶきの里保存会 会長 中野忠樹さん】
「ここの出身者だけで守っていくなんていうそういうレベルでは無いなと。この景観が残すべき価値があると思う人が一緒になって残していくという。将来につなげてくれているという点では、本当にたくましいというか、頼もしく感じてます」
美山茅葺の紅一点、岡さんも、中野さんの考えに魅了された一人です。
学生時代に美山で行われた茅葺屋根の体験イベントで中野さんさんと出会い、
3年前、社員になりました。
【岡さん】「仕事面でも生活面でもすごい充実している」
実は岡さん、この春空き家だった茅葺屋根の一軒家に引越し、
一人暮らしを始めたんです。
【新実キャスター】「気持ちいい!ちょっと待って、土間が…本当にここで生活してるんですか?」
【岡さん】「はい、生活しています」
【新実キャスター】「外より涼しくないですか?」
【岡さん】「すごい涼しいです、茅葺屋根の下は。屋根と建物自体はくっついていないので、すごい風通しがいいんですね。夏は扇風機1個で十分足ります」
【新実キャスター】「そうですね」
【岡さん】「設計士の資格も取りたいと思っているので、住むからこそ分かるアドバイスっていうのを設計関係の面で活かしていきたいなと」
【新実キャスター】「すごいな、もう未来見てるんですね」
社員が未来を見据え安心して働ける職場作りに奮闘する中野さん。
その裏には苦い思い出があると言います。
高校を卒業後、サラリーマン生活をしていた中野さんですが…
【中野さん】「そこで組織人間ではないって言う事を感じて、自分にしかできない事をって思った時に、たまたまイギリスに行く機会があって…」
その時、イギリスでも茅葺屋根の建物を見つけ、衝撃を受けたそうです。
そして…
【中野さん】「ふっと日本を振り返るとあるんですよね」
【新実キャスター】「逆に言うとイギリスに行くまでは地元の茅葺を素晴らしい物と思ってなかったっていうことですか?」
【中野さん】「思ってないですよね、近くにありすぎて」
帰国後すぐ、働いていた職場を辞め、美山の茅葺職人に弟子入りしたそうです。
しかし…。
【中野さん】「一番反対したのは僕のおばあちゃんで。雨が降ったらできひんぞ、社会的にも見下されたような仕事で…“屋根屋”って言ったんですよ」
【新実キャスター】「屋根屋?」
【中野さん】「“屋根屋”みたいなもんやめてくれ…言うて泣いて反対しましたよね。でも結局そうなんやなっていうのはやっぱり心のどっかに残ってますね。だからこそ変えるべき所であるっていう思いがあるんですよね」
【新実キャスター】「今後の目標は?」
【中野さん】「これを世界遺産にしたいなっていうのが夢で」
【新実キャスター】「世界遺産ですか」
【中野さん】「はい、手探りですけどどんどん前に進んでいる感覚はあります。根拠のない自信ばっかりで来ましたから。根拠の無い自信は誰にも潰すことができませんからね、根拠が無いんで。これほど強いもんはないです」
【新実キャスター】「それ秘訣かもしれないですね」