生まれつき茶色い髪の生徒に対する「黒染めの強要」はあったのか?
今、学校の頭髪指導のあり方について、議論が巻き起こっています。
【高校3年生の母親】
「先生がいうなら(黒染め)します。規則なので」
【高校1年生】
「たかが髪色なので。(髪染め禁止の校則は)いらないと思います」
【就職活動中の大学生】
「黒髪の方が好印象なのかもしれない」
【アパレル系に勤務する女性】
「社会性を学んで、ルールを守るという点で必要。茶髪くらいなら問題ないが、金髪だとあんまり印象がよくない」
【記者リポート(懐風館高校前)】
「ここ大阪府立懐風館高校では、生徒が先生から髪を黒く染めるよう何度も指導されて不登校となり、
そうした指導が適切だったかどうか裁判で争われる事態となっています」
女子生徒が受け続けた学校の指導とはどのようなものだったのか?
取材班は懐風館高校の生徒が多く通う、羽曳野市内の美容院へと向かいました。
【KR2S古市駅前店・羽瀬光宏店長】
「(懐風館の生徒の場合)光に当たって茶色っぽかったらダメと僕らは言われていたので、真っ黒にするしかない。
男の子でも地毛のトーンが明るい子がいるが、周りが黒だから目立つので黒染めしているという子がいたくらいなので。
学校がそういう基準だから、地毛が明るいのが悪いと思って、自分で黒染めするというのはどうなのかと思ってしまいます。
明るい髪の毛に(自分で)黒染めした場合、髪の毛が切れたり、地肌が荒れるというのは確実にある」
美容院の認識からも懐風館高校が求める「黒髪の基準」は厳しいことがうかがえます。
【記者リポート】
「生徒が黒く染めるよう指導を受けた日に撮影された写真が裁判で証拠として提出されています。
写真を確認しましたが、髪の色の見本で言う4から6くらいの明るさで、私には黒髪にしか見えませんでした」
裁判資料などから見えてきた、厳しい黒染め指導の実態は―?
訴状などによると、生まれつき茶色っぽい髪の毛だった女子生徒。
中学3年で黒く染めるよう強要されていたことから母親が入学前に高校に配慮を求めましたが…
「その髪の色では登校させられない」
入学直前、生徒証の写真を撮る段階で教師からこう言われ、黒染めを繰り返してきました。
しかし、2年生になった頃、かゆみやかぶれなど、頭皮にも影響が。
美容師から注意を受け、母親が学校に伝えましたが、
学校は「ルールを守ってもらわないと登校させられない」と応じませんでした。
そして夏休み。
黒染めを続けたせいで髪の色素が抜けていたことから茶色っぽく染めてなじませようとしたところ、教師が厳しく叱責。
帰宅後に過呼吸で意識を失って倒れ、救急車で運ばれました。
2学期が始まり、前日に黒染めして登校するも…
「黒染めが足りない」
4日後も…
「黒染めが足りないから4日以内に染め直してこい」
4日に一度のペースで黒染めの指導が続き、およそ2週間後…
「もう黒染めしたくない。地毛が茶色いだけでなんでこんな目にあわなあかんの」
涙を流して訴えた女子生徒に対して教師は…
「学校やめるか黒染めしてくるか選べ」
と突き放したといいます。
その後の文化祭や修学旅行にも、参加が認められなかった女子生徒。
3年生に進級後、学校に戻ろうと面談に行くと、
学校玄関に置かれていた出席名簿に女子生徒の名前はありませんでした。
女子生徒は、去年9月から学校に行けない状態が続き、
話し合いで解決できないことから、大阪府を相手に裁判を起こしました。
先月、関西テレビの取材に対して学校側は…
【懐風館高校・高橋雅彦教頭】
「(学校に)問題はなかったのではないです。問題はあったのでしょう。
多くの生徒さんのプラスになると思ってやってきましたけども、理解してもらえなくて。
法治国家なので最終的には司法の場で…」
大阪府の教育庁は…
【大阪府教育委員会・向井正博教育長】
「学校側は生まれつき黒髪であったことを前提として指導したということ」
大阪府は、裁判で全面的に争う姿勢を見せています。
なぜ、ここまで「髪の色」について厳しく指導する必要があるのか。
別の大阪府立高校の現役教師は、背景に「学校の評判を無視できない現状がある」と話します。
【府立高校教師】
「最近校則厳しくなっているのではないかという声を聞く。
学校の評判落ちて志願者減って学校つぶされるかもしれないという話が出ているなかで(髪色を)気にしている。
茶髪多い学校にいかせて大丈夫かという親御さんがいるのではないかと考えてしまう」
そして、今回の懐風館高校の指導については…
「本人は自分の髪の色がこういう色だと言っても、周りの人が本人の色だとみるか実際の場面ではわからない。
茶髪の生徒がいることが独り歩きしてしまう、ということが起こりうる中で、そういう指導がなされたのではないか」
校則と子どもの人権に詳しい専門家は…
【同志社大学・大島佳代子教授】
「生まれながらの身体的特徴を強制的に変えなさいと言われているのなら、憲法13条が保障する自己決定権の侵害。
(こうした校則が)黒髪はいい子という偏見を、助長する役割を担っているということに気づいていかないと、
おかしいと思っていることが変わっていかない。
厳しいルールを硬直に適用していると「いじめ」の土壌につながるのではないか」
おととい、あらためて学校側に取材を申し込みましたが、
「厳しい指導だったとは思っていない。裁判で事実関係を争っているので、これ以上は答えられない」と話しました。
黒染め指導の違法性が問われているこの裁判。
今もわたしたちが持っている「偏見」の見直しを迫っているように思えます。