20日午前、宗教団体「エホバの証人」の元2世らを支援する弁護団がこども家庭庁を訪れました。 教団内で信仰を背景とした虐待、「宗教虐待」が行われているとして、独自の調査報告書を提出し、その中身を公表しました。
【エホバの証人問題支援弁護団 田畑淳弁護士】
「子供をこれ以上の被害から救うため、虐待についてはすぐに止めさせなければなりません」
「エホバの証人」は1870年代にアメリカで発足したキリスト教系の宗教団体です。教義として「聖書」の教えを厳格に守る、いわゆる“原理主義”があるとされ、教団によると日本にいる信者は約21万人とされています。
弁護団は2023年5月から2カ月にわたり全国の元2世信者(10~70代)など500人以上にアンケートを実施しました。その結果、調査に応じたほとんどの家庭で「宗教虐待」と考えられる行為があったことが分かったのです。弁護団が特に問題にしているのは「輸血の拒否」と、親などによる子どもへの「むち打ち」です。
調査結果によると輸血拒否カードを持っていた経験があると答えた人は8割以上に上りました。教団は聖書の教えとして“輸血を受け入れるべきではない”としていて、内部資料には「親は『血を避ける』ことを固く決意し、子供のために輸血を拒否しなければならない」と記されています。
■輸血拒否は “本人の判断だ”
信者の家庭に育った夏野ななさん(仮名)は、教団側から輸血拒否カードを配布され、常に首にかけていたと証言します。
【エホバの証人元3世信者 夏野ななさん】
「輸血拒否カードが毎年1回、会衆(信者団体)宛に送られてきて、長老の立ち合いのもとで、サインして更新する。漠然と事故にあったら死ぬんだなと思っていました」
2022年12月には厚生労働省が輸血拒否が「虐待にあたる」と指針を出しましたが、2023年8月になっても、子どもに輸血を受けさせないよう信者に促していることがわかりました。 教団が幹部に指示した文書には、早産の赤ちゃんについて、「医師に輸血以外のあらゆる方法を駆使して治療を受けられるようにお願いしてください」などと記載してあります。一方で教団による強制ではなく、“本人の判断だ”と強調する言葉もあります。
病気で医師から輸血が必要だとされても、両親が信者で拒否され続けたという男性は、信者が自ら判断することは難しいと訴えます。
【両親が信者 輸血拒否された男性】
「この言葉があるからって、(輸血拒否の教えを)拒否することは絶対無理だと思います。特に輸血拒否で苦しんでいる子どもがいたら、それは絶対に見過ごせないことで、教団もちゃんと改善してほしい。そう強く願います」
■集会で集中できないと「むち打ち」
9割以上の人が受けたことがあると回答した「むち打ち」。 教団はホームページで聖書の言葉として「むちを控える人は子供を憎んでいる」という一文を紹介しています。 回答した人は「親が教団の教えに反すると判断した場合に受けた」、「教団施設でも打たれた」と証言しています。
【エホバの証人元3世信者 夏野ななさん】
「エホバの証人は週3回、集会という教義を勉強する会があり、子どもにとっては長くて苦痛で、そこで居眠りをしたりとか手遊びをしたり、集中できていないとみなされると、(教団施設の)廊下に連れ出されてお尻を叩かれるということがあった」
1954年に発行された教団の出版物でもむち打ちについての記載があり、弁護団は「教団のむち打ちへの組織的関与は否定しえないもの」と判断しています。
【エホバの証人元3世信者 夏野ななさん】
「革ベルトの平面の部分ではなくて、側面の固い部分で乱打みたいになるので、背中に当たって、背骨とかもすごく痛かったです。みみず腫れになって血も出るので、お風呂とか座るとか日常動作にも支障が出る。信者たちの間でむちが虐待という認識がそもそもないはず。今も行われているという話を耳にしたことはあります」
■こども家庭庁に対して教団が虐待に関与したか調査するよう要望
11月20日、弁護団はこども家庭庁に対し、教団が虐待に関与したか調査するよう求めました。 さらに教団が宗教法人法の解散事由にあたるか検討することや、宗教法人が児童虐待に関与した場合に規制できる法律の整備を求めています。
【エホバの証人問題支援弁護団 田中広太郎弁護士】
「(国には)とにかくこの問題への理解を深めていただいて、何をするのかを決める正確な情報を蓄積していただきたいというのが、いろんなエホバの証人問題を聞いている者としての正直な気持ちです」
苦しんできた当事者は一刻も早く救済を進めてほしいと訴えます。
【エホバの証人元3世信者 夏野ななさん】
「私は保護してほしかった。親元から離れて、宗教と関わらずに生活したかった。警察にこういうことあるといっても『宗教だから』と取り合ってもらえなかった」
元2世たちは「革ベルトでお尻を乱打され、みみず腫れで血も出た」「(輸血を禁じられているので)両親に手術を拒否された」などと証言しているのですが、こういった行為は児童虐待として規制はできないのでしょうか。
現状の児童虐待防止法では、子供への虐待を規制する対象は、保護者、つまり親や養護施設職員となっています。これについて問題支援弁護団は「虐待行為に教団が関与した場合の関連法規がない」として「児童虐待関与の法改正の検討をいただきたい」と訴えています。
■児童虐待関与の法改正の課題
宗教法人自体を児童虐待の規制対象に追加することについて、どのような課題があるのでしょうか?
【関西テレビ 神崎博報道デスク】
「むち打ちをした場合などは暴行や傷害で罰することができます。でも、宗教団体側から児童への輸血拒否と言われた場合、輸血拒否は虐待にあたるといわれていますが、児童虐待防止法で罰そうとしても、宗教団体の人は親・保護者ではないので罰することができません。弁護団は児童虐待防止法の対象に宗教団体も含むべきだと言っていますが、保護者ではない人をその中に組み込むのはハードルが高いと思います」
「現在は、子供を救うために宗教問題があったとしても、児童相談所なども介入していくという方針を政府が決めています。とはいえ、やはり現場では宗教問題については躊躇する場面が多いのが現実ですので、もっと積極的に関与するように動いていくことがポイントになると思います」
(関西テレビ「newsランナー」2023年11月20日放送)