10月2日、大阪・北区に新しい病院が誕生しました。東淀川区の「医誠会病院」と城東区の「城東中央病院」が合併してできた「医誠会国際総合病院」です。この新しい病院は、42の診療科があり、ベッド数は560床、救急患者も同時に12床受け入れ可能という規模の大きさを誇ります。さらに、劇場やカフェ、24時間ジムも併設。“行きたくなるような病院づくり”を目指しています。
開業の前日、統合前の二つの病院にいた入院患者全員がわずか1日で一気に引っ越しをしました。総勢469人のスタッフと、223人の入院患者による大規模な“病院の引っ越し”を追いました。
■本番さながらのリハーサルで課題も
今回の引っ越しを取り仕切るのは、戦略総務部の里内美和子さん。普段は病院や院内保育園の運営、職員寮の管理などの担当者です。「ドキドキします。がんばります。絶対に達成します」と、大規模な引っ越しに向けた意気込みを語りました。
この日、10月1日の引っ越しを前に、リハーサルが行われました。スタッフが患者役となり、救急車を使って本番さながらの予行演習です。始めのうちは、順調に新しい病院へ患者(役のスタッフ)を運んでいましたが…。
【病院スタッフ】
「3号車入れないんですよ。どうします?前に行っちゃいます?」
「ここは抜けれるからいいんですけど、前に出してほしいんですよね」
【里内さん】
「(1号車)もうちょっと前に出してもよくないですか?」
【病院スタッフ】
「本当は前に出して置いておきたかったんですけど、運転手さんいなくなったんですよ」
降車場で詰まってしまい、救急車が出られない事態に。患者を新しい病院に送り届けることばかりに気が取られていたため、送り届けたあとの空になった救急車をそのまま放置していたことが原因でした。
【里内さん】
「かなりバタバタしたので、気合いを入れないとみんなしんどいかなと思いました。ストレッチャーの乗せ換えで少し渋滞してしまったので、ストレッチャーの(乗せ換え)場所を増やすとか、そういった対応ができるかなと思うので、課題は見つかったかなと思います。安心・安全に患者移送を行わなければいけないという、私たちの責務がありますので、気を引き締めてやりたいと思います」
■人手不足解消にAIロボットの導入
今回の引っ越しで、新たに導入したものの一つがAIです。
AIロボットの「ホスピー」は、指定した場所まで薬や検査で採った血液などを運んでくれます。また、エレベーターの乗り降りを自動でできるので、フロア内だけでなく、別の階まで自由自在に移動することも可能。最近は病院でも人手不足が課題となっていて、このようなAIロボットが省人化に一役買っているのです。
他にもAIを導入したのが、薬を処方する調剤室です。これまでは、医師から出された処方箋をもとに、薬剤師が一つ一つ薬を用意していくのが当たり前でした。そこで導入されたのが…。
【医誠会本部薬剤部 統括薬剤部長 藤原豊博さん】
「注射薬のピッキングマシーンです。(注射薬の)処方データが飛んできますと、トレーが流れてきますので、(マシーンの中に並ぶ注射薬の)ボトルが必要であれば、アームがボトルをつかんで、トレーの方に落とします」
AIの導入によって、作業時間が大幅に短縮。時間に余裕ができたことで、薬の処方内容やカルテとの照合を丁寧にすることができ、ミスを減らすことに繋がるそうです。
■患者の容体急変など予期せぬ事態も
いよいよ引っ越し当日の10月1日。
【里内さん】
「変更点がいくつか出ておりますので、口頭で申し上げます。519番に移動いたします。この方はコロナの陽性者になりました」
患者さんを運ぶ前から、いきなり予定変更。果たして、うまくいくのでしょうか?同じ頃、患者さんを運び出す医誠会病院では、開始からわずか4分でトラブルが発生していました。病室からベッドを出そうとすると、ドアノブに引っかかってしまうのです。廊下でもベッドがぶつかり、身動きがとれません。一人の患者さんを病室から出すだけでもひと苦労です。
数日前に救急患者として運ばれた男性は、まさか病院が引っ越しするとは思っていませんでした。
【入院患者】
「(引っ越しすると聞いて)一言目は“マジ?”です。結構年配の方も多いですし、寝たきりの患者さんもいる中で、どうやって引っ越しするのかなというのはちょっと楽しみでもありながら、ちょっと不安でもあります」
そう話した男性は引っ越し当日、新病院の病室に到着すると、そのきれいさに驚いた様子でした。
【入院患者】
「お~、ホテルみたい」
【病院スタッフ】
「どうでした?新病院」
【入院患者】
「きれいですね。ホテルみたい。ちょっとびっくりしてるんですけど」
【病院スタッフ】
「私たちもめっちゃテンション上がってるんですよ。すごいなと思って」
続々と車が到着する新病院ですが、リハーサルから大きく変えた点が2つあります。まず、スタッフを400人から469人に増員。そして、スタッフの一部を降車場に配置し、救急車の出入りを誘導してだんご状態になるのを防ぐ作戦です。この作戦が功を奏したのか、とても順調です。
ほとんど病室で過ごしていたという高齢の女性は、あまり外に行くことがないため、引っ越しの最中、少し緊張した面持ちで車の外の景色を眺めていました。
【入院患者】
「(Q.無事到着しましたが、今のお気持ちは?)ほっとしましたよ。やっぱりなんぼね、大丈夫やいうてもね、やっぱり行ってみないと分からないから。落ち着いたらいっぺん外見てみよか」
患者さんの引っ越しがはじまってから4時間半。本部に動きがありました。
【看護介護統括管理部 上野ゆかり本部長】
「SCUに入る予定の患者さんが時間通り来るんだけど、一旦ER(救急室)に入って、MRI撮って、それからなので、病室に行くのは遅れます」
病院に運ぶ前に容体が急変した患者さんが新病院に到着しました。急いで救急へ運びます。
【病院スタッフ】
「血圧測らせてね。無事ついたからね、大丈夫よ」
【入院患者】
「痛い」
【病院スタッフ】
「どこが痛い?」
【入院患者】
「お腹痛い」
腹痛を訴えていましたが、痛みが落ち着いた後、MRIの検査室へ。無事処置することができました。一方で、予想もしていなかったこんな患者さんも…。
【病院スタッフ】
「“診察券1番を発行したい”とおっしゃる方がいらっしゃって…どうしたらいいですか?」
診察券の“患者番号1番”が欲しいという人が、入り口で待っているようです。
【里内さん】
「医誠会病院の番号の最後から、新しく来てもその番号の続きからになりまして、新しい1(番の診察券)っていうのは発行しないんです」
患者さんにそう説明すると、すんなり分かってくれたようでした。予期せぬハプニングも起きましたが、滞りなく最後の救急車が新病院に到着しました。
その到着に「来た来た」と、誰からともなく拍手が起きました。「お疲れ様でした」と、マスクごしに安堵の笑顔を見せる里内さん。8時間以上かけて、無事に入院患者223人の引っ越しが完了しました。
【里内さん】
「よかったなと思うのと、日が明るいうちに終わったので、晴れ晴れしい気持ちです。決して引っ越しがゴールではなくて、そこがスタートなので。私たちはスタートがきちんと切れるようにして、そこから新しい仕事をしていかないといけないので、まだまだです。がんばります」
同病院では充実の設備のほか、先端医療を提供する“医療ツーリズム”の受け入れも行うとのこと。今後世界的にも注目を集めそうです。
(関西テレビ「newsランナー」2023年10月9日放送)