文書を開示しないのは「適法」と大阪地裁判決 森友文書改ざん 原告弁護士は「民主主義が働くような環境を守らない方向に向かう判決」 改ざんの「財務省本省内の経緯」が明らかになるかもしれなかった文書の公開が遠のく 2023年09月14日
森友学園をめぐる財務省の公文書の改ざんを命じられ、自殺した赤木俊夫さん。自殺の真相を知るために赤木さんの妻が、財務省が検察に提出した書類の開示を求めて起こした裁判で、大阪地裁は14日、訴えを退けました。改ざんについて、財務省の内部でどのような経緯があったのかが明るみになるかもしれなかった文書が表に出る可能性が、大きく遠のきました。判決内容と記者解説です。
2017年に社会を揺るがしたいわゆる「森友学園問題」。当時、検察は、“2つの疑惑”で国を捜査していました。
一つは、森友学園に大阪府豊中市の国有地を8億円以上値引きして売却したことによって、国に損害を与えた背任の疑い。
もう一つが、売却に関する公文書を組織ぐるみで改ざんした疑いです。当時、財務省近畿財務局で働いていた赤木俊夫さん(当時54)は、公文書の改ざん・破棄を指示され、うつ病を発症し自殺しました。検察が捜査していた”疑惑”はどちらも後に、不起訴処分となりましたが、この捜査の過程で、財務省と近畿財務局は検察に対し、関連する書類を任意で提出していたとみられ、実際、赤木俊夫さんの上司は妻の雅子さんにこう“証言”していました。
【赤木さんの直属の上司】
「検察に対して文書を提出する際に、赤木さんから相談を受けて、これまでの過去の経緯、東京からどういう指示を受けて、どういう修正があって、前後、きれいにきちんとまとめておられた。それ以外にも、例えば、データとかあったとは思うんですけど、普通に隠さず、全部(検察に)出てますから」
こうした証言から、赤木さん自身がまとめていた書類、通称「赤木ファイル」以外にも、財務省などは様々な書類やデータを検察に提出していたはずだと考えた雅子さん。この文書の開示を、2021年、財務省と近畿財務局に請求しました。
しかし出てきたのは「特定事件における捜査機関の活動内容を明らかにし、あるいは推知させることになるため、その存否を明らかにしないで開示請求を拒否する不開示決定とする」という回答。「書類があるかないかも答えない」というまさに、“ゼロ回答”だったのです。
雅子さんは、「捜査は既に終了していて、不開示決定は違法だ」として、国に対して文書を開示するよう求め、裁判を起こしました。
そして迎えた14日の判決。大阪地裁(徳地淳裁判長)が言い渡したのは、雅子さんの訴えを退ける判決でした。
大阪地裁は、「文書を公開すれば捜査の手法や内容がわかる恐れがあり、今回と同じような事件や行政機関が対象となる事件で、証拠隠滅が容易になる可能性があり、将来の捜査に支障が及ぶ」などと、国の主張を全面的に認めました。
この判決を聞いていた雅子さんは椅子から崩れ落ち、立てない状況になり、その後に予定していた記者会見は中止に。
弁護団の会見のみが開かれました。
【原告弁護団 会見】
生越照幸弁護士「国の主張をそのまま丸呑みしたような形なので、赤木さんじゃなくても聞いていて非常に気分が悪い判決理由」
松丸正弁護士「情報公開は、民主主義の根幹だというところから生まれた情報公開法なんですが、それに対する無理解、それが極まった判決という感じがしました」
生越照幸弁護士「きょうの判決は民主主義が働くような環境を司法は守らないといけないのに、逆に守らない方向に行ったということ」
もし、文書の開示が命じられていたら、夫が自らの命を絶った理由につながる新たな事実が明らかになっていたかもしれない裁判。
雅子さんは控訴する方針です。
【解説:諸岡陽太記者】
裁判の後、雅子さんは記者会見をキャンセルしないといけないほど、体調が悪くなりました。ただ、ほんの少しだけ、話を聞くことができたのですが、雅子さんは判決を聞き、突然耳に幕がかかったよう何も聞こえなくなり、目の前にシャッターが下りたように見えなくなって、気が付いたら弁護士の足にしがみついているような状態だった、と話してくれました。体調にこんな異変が現れるほど、ショックは判決だったのだろうと思います。
赤木俊夫さんは財務省の中の近畿財務局で働いていました。要するに現場の「実働部隊」でした。赤木さんは、問題となった文書改ざんの経緯について、赤木さんが知りうる範囲で記録してまとめていて、これが「赤木ファイル」と呼ばれています。その資料は、今は世に出てきています。ここに書かれているのは、主に近畿財務局の中のことです。しかし、文書改ざんという、非常に大きなことについて、現場の資料だけで実態を見ることはできません。財務省本省の幹部・キャリア官僚の誰が関わっていて、どんなやり取りがあったのか。佐川元理財局長が方向性を決定づけたと言われていますが、では、どんな指示があったのか、財務省の調査報告書の中では具体的に書かれていません。佐川さんのさらに上の立場の人の関与があったかどうか、についても分かっていません。
この財務省本省内のことについて書いたものが、検察に提出された資料の中にあるかもしれません。関連するメールや、会議の議事録、などがあったかもしれません。それらの開示が、今回の判決で認められませんでした。その意味で「遠ざかってしまった“真実”」と言えると思います。
今回、雅子さんから、俊夫さんの遺品をお預かりしました。手帳です。その手帳に「国家公務員倫理カード」が挟まっています。公務員の皆さんに配られるものだそうです。カードには心理行動基準セルフチェックという、いくつかのチェック項目が書かれています。例えば「国民の疑惑や不信を招くような行為をしていませんか?」などと書かれています。このカード、擦り切れていますが、俊夫さんは毎日、持ち歩いていたようです。
俊夫さんの死後にこれを知った雅子さんは「やっぱりまじめな公務員だったんだな」と感じたと同時に、改ざんに手を染めてしまったことをこんなに悔やんでいたんだと思ったということです。このカードを大事にしているような現場の公務員はたくさんいるんだろうと思います。そういう人にとっては、情報公開請求に対して「あるかないかも言えない」と応じたり、黒塗りで資料を出したりする作業はどれほどつらいことだろうか、そういうことを二度と繰り返してほしくない、雅子さんはそう話していました。
判決後に、財務省側から「森友学園問題については引き続き真摯にできる限りの説明をしてまいりたいと考えております」というコメントが出ました。その通り、本当に、真摯に説明を尽くしてほしいと思います。
(関西テレビ「newsランナー」2023年9月14日)