SBS(揺さぶられっ子症候群)特集

【2020年2月6日】「有罪の根拠」となった証言を、検察側の医師が「撤回」…“乳児揺さぶり虐待“裁判で、相次ぐ「逆転無罪」

SBS論争に「新たな展開」か

乳幼児を激しく揺さぶることで脳に損傷を与える「揺さぶられっ子症候群」(通称SBS)。
このSBSの診断根拠をめぐって、“虐待防止に取り組む医師” と “冤罪防止を訴える弁護士” が法廷で激しく衝突した裁判で判決です。
当時生後1ヶ月の長女を激しく揺さぶったとして一審で有罪判決を受けた母親に対し、大阪高等裁判所は、逆転の無罪判決を言い渡しました。

【大阪高裁・西田眞基 裁判長】
「原判決を破棄する。被告人は無罪」

母親は裁判長をまっすぐ見据え、判決を聞いていました。

生後1カ月…長女への虐待を疑われた母

2014年11月28日。
この日を境に、夫、妻、2歳の長男、そして生まれたばかりの生後1か月の長女の4人暮らしの生活が一変することになりました。

【母親】
「長女をコルクマットの上に置いてままごとでちらかっているのを片付けていた。横目に長男が長女のお尻を拭いている動作をしているのを見て、ちょっと嬉しくて…。おむつ交換の時の真似をしているんやなと。そのまま片づけをしていたんですけど、そしたら放り投げてて…」

当時2歳の長男が、長女を抱きかかえて落としてしまったというのです。

数分後、長女の顔が青白くなり、119番通報。長女は心肺停止の状態で病院に運ばれ、硬膜下血腫、脳浮腫などと診断され、植物状態となりました(2018年に死亡)。

翌年、母親は長女への虐待を疑われて大阪府警に逮捕され、その後、傷害罪で起訴されました。

【母親】
「一番責任感じているのは自分自身ですし、非難されるべきだと思っています。罪名が違う。罪名が違うなって思うんです。過失の部分は責めてほしい」

小脳テントに血腫…検察は“揺さぶりの特徴“と主張

2017年に始まった一審。

検察は虐待に詳しい小児科医の証言に基づき、「4カ所以上の血管(架橋静脈)が切れている。なかでも、SBSの特徴とされる小脳テントにも血腫があり、こうした硬膜下血腫は揺さぶりでしか説明できない」と主張しました。

一方、母親の弁護を引き受けた秋田真志弁護士は、『低い位置からの落下でも硬膜下血腫は生じる。心肺停止になったのは窒息の可能性がある』として、無罪を主張しました。

「冤罪を訴える弁護士」と、「虐待防止に取り組む小児科医」が法廷で激しく衝突。

この裁判をきっかけに、揺さぶりの医学的根拠を問い直す「SBS論争」が巻き起こりました。

「虐待」か、「冤罪」か…衝突する2つの正義

赤ちゃんを模した人形を「1秒間に3往復」で、激しく揺さぶってみせる溝口医師。

最後には人形を机にたたきつけ、こう答えました。

【海外の「虐待医学」文献を翻訳・溝口史剛医師(小児科医)】
「こういうふうにやってんだよ、加害者さんって。これで何も起きないって思う方が不思議なんだけど」

一方で、SBSによる冤罪を訴える秋田弁護士は…

【SBS検証プロジェクト(共同代表)・秋田真志弁護士】
「虐待も世の中ありうるんですけど、今回の事件が虐待かどうか冷静に考えればわかるはずなんです。まず虐待だって決めつけるのは”虐待ありき”」

【溝口史剛 医師】
「やっとたどりついた起訴の中で、冤罪の可能性が混じっていると言われて、ほとんどが冤罪と言われると、子どもたちには申し訳ないと思う。むざむざ殺されている子がめいっぱいいるから」

SBSの裁判は虐待に詳しい医師の見解で決まっているのか、については…

【秋田真志 弁護士】
「(SBS裁判は)検察側が依頼した医者のいいなりになってきている。その発想をあらためてもらわないといけない」

【溝口史剛 医師】
「裁判官、この人有罪ですって僕たちやってるわけじゃないですからね。 98%の可能性でSBSですよって。2%としての可能性がこうした疾患なんだけども、こういった疾患がこの子には一切あてはまりませんよっていうところまでが仕事ですから」

2018年3月、大阪地裁(長瀬敬昭裁判長)は、母親が長女を激しく揺さぶったと認定し、有罪判決(懲役3年・執行猶予5年)を言い渡しました。

【秋田真志弁護士】
「(裁判所が)やってることと言えば検察側証人2人の証言が信用できるといっているだけ。壁は厚いですけど乗り越えます。突き崩します」

母親は控訴しました

 

「揺さぶり虐待」の根拠が…二審でなぜか「一転」

2019年7月。
二審でもあらためて医師の証人尋問が行われました。


一審判決の大きな拠り所となった『小脳テント付近の血腫』。
ところが二審では、検察側の溝口医師が、なぜか“血種の位置“を「変更」。

この点を、秋田弁護士が問いただしました。

【秋田真志弁護士】
「小脳テント付近の血腫の位置、一審のときと場所が違うように見えますけど、違うんですか、違わないんですか?」

【溝口史剛医師(検察側証人)】
「一審のときには、ここの可能性はあるかなと思ってたんですけども、断定できないということで外しました」

さらに、溝口医師は、位置を変更した後の小脳テント付近の血腫の存在も取り下げました。

【秋田真志弁護士】
「そうすると、一審判決が、先生の証言を根拠に、4か所以上の架橋静脈が同時に切断していると認定しているんですけど、それは誤りだったということになりますね?」

【溝口史剛医師(検察側証人)】
「そうですね」

裁判官も溝口医師に対し、確認するように問いかけました。

【裁判官】
「読影が違ったという理解でいいんですか?」

【溝口史剛医師(検察側証人)】
「若干オーバー気味に読影した部分はあったのだろうというふうには思ってます」

そして、2月6日の二審判決。

大阪高裁の西田眞基裁判長は「低い位置からの落下でも硬膜下血腫は生じるし、窒息の可能性もある」と認定し、弁護側の主張を全面的に採用。

さらに、溝口医師が小脳テントの血種を取り下げた点については、「本件で有罪を導く最も重要な基礎となるCT読影に誤りがあったことを自認するものであり、見過ごすことができない」として、揺さぶりの根拠が大きく揺らいでいると指摘。

その上で「1審の判決は明らかな事実の誤認がある」として、逆転無罪を言い渡しました。

「虐待ありき」に?…SBS診断への警鐘も

【母親(判決直後)】
「疑われたらこっちがいくら事実をすべて話してても、自分たち(検察側)の答え、ストーリーに行きつくために否定される。虐待から子供を守りたいのは大事なことだと思うんですけど、私の裁判を通して一体誰が救われたのかなって…。5年は長かったです」



虐待事件の裁判で有罪判決の根拠となってきたSBS診断の正当性が揺らいでいます。

去年10月には、生後2か月の孫を揺さぶって虐待として、一審で実刑判決を受けた祖母に逆転無罪判決が言い渡されています。

この祖母の裁判では、二審で病死(静脈洞血栓症)の可能性があることが判明し、今回の母親の裁判では、家庭内での事故の可能性が認められています。

相次ぐ「逆転無罪」判決により、虐待かそれとも事故・病気かの鑑別が乳児虐待捜査で適切に行われているのか、大きな疑問が生まれています。

今回の判決を言い渡した西田裁判長は、刑事裁判においては「医師の見解に対する厳密な審査」が必要だということをあえて強調しました。

「虐待ありき」のSBS診断にそのまま依拠してきた捜査機関、裁判所に反省を迫った判決といえそうです。

 

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