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2017年6月21日(水)

覆される市民感覚・・・裁判員制度の課題

「市民感覚の反映」などを目的として始まった裁判員制度。

一審の裁判で、3人の裁判官と一緒に、私たち一般の市民から選ばれた6人の裁判員が判決を下す制度です。

全員の意見が一致しない時は多数決で判断しますが、少なくとも1人の裁判官が賛成していることが必要です。

制度が始まってから8年が過ぎましたが、最近、裁判員裁判の判決が、相次いで覆されています。

 

5月、大阪地方裁判所で開かれた模擬裁判。

参加者は本物の法廷を使って「裁判員裁判とは、どのような裁判なのか」を体験しました。

検察官、弁護人、そして被告も参加者が務めました。

裁判員は、被告に直接、質問もします。

 

裁判員裁判では、3人のプロの裁判官とともに20歳以上の市民から選ばれた6人の裁判員が判決を下します。

しかし、市民が参加するのは一審のみ。

二審以降は、制度が導入される前と同様に、裁判官だけで判断します。

 

ことし3月、大阪高等裁判所で、裁判員裁判では死刑だった判決が相次いで覆されました。

大阪・ミナミで5年前、男女2人が殺害された通り魔事件。

裁判員裁判では「被告には完全な責任能力があり、凶悪かつ重大な無差別殺人」として

死刑が言い渡されましたが、二審では「計画性が低く、精神障害の影響を否定できない」として、

無期懲役となりました。

 

さらに、神戸市長田区で女の子がわいせつ目的で誘拐され、殺害された事件。

裁判員裁判では「生命軽視の姿勢が甚だしく顕著である」として死刑が言い渡されましたが、

二審では「犯行に計画性はなく、性的な被害がない場合、過去にも死刑が選択されていない」として

無期懲役となりました。

 

兵庫県稲美町に住む荻野美奈子さん。

8年前、長女の友花里さんを失いました。

【荻野美奈子さん】

「唯一無二。何にも代えられない存在だったということを分かって欲しいなっていうのが第一で。
だけれども実際に裁判になった時にね、娘の命がことごとくゼロ以下にされてしまったというかな」

 

当時、大学生だった友花里さん。

自宅に侵入した男に殺害され、放火されました。

裁判員裁判では、男に「死刑」が言い渡されました。

【荻野美奈子さん】

「(検察官が)裁判員裁判という制度がこうやって出来たんだから、お母さんお父さんの気持ち、
それから友花里さんの気持ちを裁判員たちにわかってもらいましょうよ(と言ってくれた)。
死刑という制度が日本にはあるから私たちは死刑しか望まないし。
だから私は勝ち取れた(一審の)死刑だったと思うんですね」

 

しかし二審では「被害者が1人で、殺害行為に計画性がない場合は死刑は選択されない」との判例にならい、
無期懲役となりました。

【荻野友花里さんの父・卓さん】

「(二審は)先例が重視されている。色んなことが進歩していっているのに、
いつの先例を言うてるんかいう感じでね。どの遺族も我慢しているんちゃうかなと思うけどね」

 

裁判員裁判による死刑判決が覆されたケースは、荻野さんの事件を含めて、これまでに5件。

判決が覆ることについて、現役の裁判官は。

【大阪地裁・柴山智裁判官】

「私たちは有罪だったら懲役何年とか無期懲役とか決めなきゃいけないんですけれども、
その場合にも自由に決められるわけではないわけですね。
東京の裁判所では同じことをやって懲役5年で、大阪では懲役10年だと、
それはやっぱりおかしくて(裁判が)信頼できなくなりますよね。
ですから同じようなことをやった人に対してはある程度同じ様な刑が科せられなければいけないということで。
量刑はある程度、従前からの傾向というのを考慮せざるをえない。
(裁判員裁判の判決は)そこの理解が違ったから取り消されたんじゃないかなと」

 

しかし、専門家からも疑問の声があがっています。

 

【甲南大学法科大学院・渡辺修教授(弁護士)】

「(内容が)全く同じ事件なんて裁くわけないじゃないですか。(裁判官に)反論したらいいんですよ。
同じ事件裁くんですかと。証拠から何から全部同じですかって。全く同一なんですか?
あり得ないんですよそんな事件は」

「万が一にも(裁判員裁判による判決に)大きな誤りがあるのであれば、それを示した上で、
その誤りはさせないようにした上で、私はもう一度市民の手に委ねるべきだと思います。
(裁判員による判決を)破棄したうえで(高裁が)自ら判決するのではなく「差し戻し」という道があるわけであって、
裁判員裁判についてはその道を選んで市民参加の中で新しい量刑を作っていくという
この制度の趣旨を生かすべきだと思います」

 

覆されるのは死刑判決だけではありません。

裁判員裁判による判決が破棄される割合は上昇傾向を続けていて、
ほかの裁判の判決が破棄される割合を上回っています。

 

課題は他にもあります。

京都地方裁判所で6月26日から始まる、筧千佐子被告(70)の裁判員裁判。

青酸化合物を使って男性を殺害した罪などに問われている筧被告の裁判では、
48回の公判が予定され、実際の審理の期間は135日にも及びます。

京都地裁は586人に呼び出し状を送りましたが、結局431人が辞退しました。

 
街の人に裁判員について聞きました。

Qもし裁判員に選ばれたら?

【20歳代女性】

「(責任が)重すぎるかなって。自分には決められない。
もし(担当する事件が)かなり重い罪とかだったら、
自分も一生それを思っていくと思ったらやりたいとは思わない」

【20歳の男性】

「僕は全然。経験できるんやったらいつでもしてみたいなとは。そういう気持ちはあります」


【20代女性】

「(裁判員は)もう絶対に無理やと思う。裁判の間、この子をどうするのという感じやし」

 

市民が参加する制度であるにも関わらず、開始から8年が経った今も、
関心が高まっているようには見えません。

制度についての学習会などを開いている市民団体・裁判員ACTのメンバーで、
かつて裁判員候補者だった川畑惠子さんは、裁判所の取り組みが足りないと指摘します。

 

【裁判員ACT・川畑惠子さん】

「(裁判所に求めるのは)市民との対話っていうことですね。
裁判員に選ばれるかもしれない市民は、こんなにたくさんいるわけで、
市民と“どんな裁判員裁判が良い裁判か”っていうコミュニケーションをしっかりしてほしいと思います。
だって私たちどんな裁判が良い裁判かって知らないですもん。
そのために自分たちがどういう役割をもって参加するかということをちゃんと教えてもらっていないから、
そういう説明をもっとしてほしいと思います」

 

私たちは、どのように向き合えばいいのでしょうか。

【甲南大学法科大学院・渡辺修教授(弁護士)】

「こういう制度がある以上は、市民の方には頑張って頂いて、くじけずに自分たちなりの量刑判断をしてほしいんです。
その前提の中で市民の声を無視できないものにしていくという、そういう頑張り方をせざるをえないと思うんですが、
他方でプロの裁判官たちは(裁判員裁判の)理念に立ち戻って、自分たちの量刑相場を押しつけるような
控訴審での判断の仕方は、絶対にやめるべきだと思いますね」

 

裁判員制度開始から8年…様々な課題が今、浮き彫りとなっています。

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