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2017年6月8日(木)

事件通訳ミス なぜ起きたのか

中国人の男の殺人事件の裁判で、警察の取り調べの通訳ミスが明らかになりました。

なぜミスは起きたのか。通訳人の現状を取材しました。

 

【逮捕された中国人の男】
「もう少しで妻を絞め殺してしまうところだった。」

逮捕直後、男が警察の取調室で中国語で話した内容です。


しかし、その場にいた通訳人は

【通訳人】
「死なせようとして、首を絞めた」

と、殺意があったかのように通訳。さらに、

 

【逮捕された中国人の男】
「殺すつもりはない」

男は殺意について否認しましたが、通訳されず、調書にも記載されませんでした。

 

これは大阪地方裁判所の法廷の場で明らかになった、事件捜査の通訳ミスです。

大阪市平野区に住む中国籍の王延華被告(69)は、
去年2月、自宅で妻(当時64)の首を絞めて殺害した罪に問われています。

 

王被告は裁判で「首を押さえているという認識はなかった」と無罪を主張。

弁護人が、王被告の主張と警察の調書の内容が異なることに疑問を感じ、
録音録画されていた取り調べの映像を見ると…

【王被告の代理人・清水伸賢弁護士】

「(王被告の)中国語が長いけど、日本語訳は一言」

弁護人が通訳を不審に思い、裁判所に取調べ映像の鑑定を請求。

すると、およそ20か所の通訳間違いと、雑談を含めておよそ100か所の通訳漏れが指摘されたのです。

 

5月に大阪地裁は、判決で、警察の調書の殺意について書かれた部分は、信用性がないと指摘。

一方で医師の所見などから殺意を認定し、懲役7年の有罪判決を言い渡しました。

 

【王被告の代理人・植田豊弁護士】

「(外国人事件は)冤罪を生む恐れが十分あるということは、今回の事件が物語っていると思います」

 

取り調べで通訳を担当したのは民間の女性で、2年半前に警察の通訳人の登録試験に合格。

様々な事件の通訳をトラブルなく行い、今回初めて殺人事件を担当していました。

 

女性を訪ね、取材を申し込みましたが「取材を受けるつもりは一切ありません」と回答がありました。

通訳ミスはなぜ起きるのか―

警察などの依頼で、30年以上ベトナム語の事件通訳をしている落合幸子さんは、
どんなにキャリアが長くても、取調室という特殊な環境で通訳ミスが起きやすいと指摘します。

【ベトナム語の事件通訳人・落合幸子さん】

「通訳人が分からない単語もある。
そのときは(通訳人に時間の)余裕を与えて頂ければ、辞書を調べたりするけど、
その余裕を頂くことは私たちは捜査側に迷惑かかってるんじゃないかと、プレッシャーを感じる。
待って下さいと言えない。
たくさん答える時間を被疑者に与えると、上手な(嘘の)答えが返ってくる可能性がある」

Q.落合さんくらい30年以上のキャリアでも言いづらいですか?

「言いづらい」

 

王被告は殺意について語っていないのに、殺意があるかのうように誤った通訳がされたことについては…

「センテンスは長くて分かりにくいところがある。それで誤訳してしまった。
もう一つは、この人は犯人だろう、殺しただろうと前提で推測してそういう風に訳したと思います。
二つ原因があります。レベルの問題と思い込みの問題です」

 

王被告が「殺すつもりはない」と話した言葉が通訳されなかった理由については…

「なんでこんなことを言っているのか、たぶん混乱してしまって、どうしたらいいか分からない。
頭真っ白になる。どうしたらいいか分からないうちに次のやりとりにはいってきたんだと思う」

 

元兵庫県警の警部で、中国語の通訳なども担当していた清水真さん。

清水さんは、通訳が必要な事件は冤罪を生む危険があると感じ、3年前に警察官を退職。

そして事件の通訳人を育てる養成所を作りました。

【関西司法通訳養成所 清水真 代表】

「誤訳であったり、または捜査員に迎合をしたり、そういうような通訳の方も中にはおられる。
警察の通訳すれば謝金・報酬がある。
報酬が出ているのは、警察、検察、そういうところから頂いているというところから、
捜査員・取調官がこういう風に言って欲しいだろうという思い込みですね、こういうことから、誤った通訳をしてしまう」

 

【スペイン語の事件通訳人を目指す受講生】

「直接登録して急に現場にいくよりも、授業というか下準備をした方が
自分なりに安心して現場に行けるのではないかと思う」

 

清水さんは、王被告の取り調べで通訳ミスが起きたことについて、警察側にも問題があったと考えています。

 

【関西司法通訳養成所 清水真 代表】

「被疑者が長くしゃべってるのに、一言で日本語で片づけた。
捜査員は、長さや表情は分かるんですから、違うんじゃないかなって気づくべきですよね。
氷山の一角だと言われてもやむをえないんじゃないかなと思います。
たまたまこういう風な形で表に出たって言われても仕方ないと思います」

 

また、警察などの依頼でベトナム語の事件通訳をしている落合さんも、捜査機関が気を付けるべき点を指摘します。

【ベトナム語の事件通訳人・落合幸子さん】

「完璧な100%正しい通訳を出来る人は多分いないと思います。
いくらベテランでも。犯人だろうと、思い込みがあって、そうすると悪い情報ばかりピックアップして伝える。
これは冤罪になる、そういう心理は私たちは人間だから、避けられないことではないかと思う。
一番危険なことではないかと思う。
ミスを防ぐためには、大事なところは取り調べ官が何度も角度を変えて何度も質問すること」

大阪府警は、今回裁判で通訳ミスが指摘されたことについて
「控訴されて公判中の事件のためコメントは控える」としています。

 

しかし、捜査関係者からは、

「雑談の通訳ミスもカウントするなど被告側は意図的だ」

「判決でも最終的に殺意は認定されていて問題ない」などという

声も聞かれます。

 

実際には話していない調書の内容で、人が裁かれてしまうかもしれない恐ろしさを
見つめ直す必要があるのはないでしょうか。

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