休眠状態の宗教法人が売買対象に 税免除の「優遇措置」目当てか...ネット上には『特別セール』などのうたい文句も 「8000万円まで申告しなくていい」 2024年02月11日
「これが宗教施設ですよっていうことで、(税金が)タダになっていますね」
「“坊主丸もうけ”の世界ですね」
金もうけのために宗教法人を利用?その被害は一般の人々にも…。
“信教の自由”という高い壁の向こうで、何が起きているのでしょうか。
■休眠状態の宗教法人が不正の温床に
閑静な住宅街にある一軒家。中には、物が散乱したキッチンに、足の踏み場もないリビング…。
実はここ、“宗教法人の本部”なのです。
代表は大阪在住のA氏(64歳)。20年間活動せず休眠状態だった宗教法人を、知人からわずか数万円で手に入れました。
【宗教法人代表 A氏】「これが宗教施設ですよっていうことで、(税金が)タダになっていますね」
宗教活動で得た収入や、土地建物にかかる固定資産税などが免除されるという“優遇措置”目当てに、宗教法人が売買されているのです。
インターネット上には「早い者勝ち」「特別セール」といったうたい文句と共に、数百万円から数億円の価格がつけられた宗教法人の名前が並びます。
こうした事態は国会でも議論になっています。
【立憲民主党 渡辺 創議員】「脱法的な行為という風におそらく考えているはずですが、法人格の売買が横行してしまっている。宗教法人の優遇を温床にする形で脱税やマネーロンダリングなどが誘発されている」
【岸田文雄首相】「第三者によって法人格が不正に取得され、脱税や営利行為などに悪用される。こうした可能性が広がることは、あってはならないことだと思います」
政府も、後継者不足などで休眠状態の宗教法人が不正の温床になることに危機感を持っています。
書類上で活動の実態が把握できない宗教法人はおよそ1万5千件に上り、文化庁は2023年3月、所管する自治体に休眠法人の整理を進めるよう、通達を出しました。
■普通の家を“宗教施設風”に 市は宗教法人と認定
宗教法人を知人から譲り受けた大阪在住のA氏。
【宗教法人代表 A氏】「収入があっても申告しなくていい。8000万円までは。坊主丸もうけの世界です」
Q.信仰心はある?
【宗教法人代表 A氏】「ありますよ。私はあちこち神社仏閣とかずっと回っていましたからね」
こう忌憚なく話すA氏。実は3年前に手に入れた法人が…。
【宗教法人代表 A氏】「代表者が死んで、20年間放置プレイやったんです」
代表が不在で施設もない休眠状態だったゆえに、解散命令を請求されかけていたのです。
2023年10月、旧統一教会にも出された“解散命令請求”。
宗教法人法では、法令に違反して著しく公共の福祉を害する行為をした場合だけでなく、礼拝施設や代表者が存在しない場合にも解散命令を請求することができます。しかし…。
【宗教法人代表 A氏】「その監督しているところに聞いたら“3年間猶予するから、その間に土地建物を買え”って話だったんですよ」
所管する官庁は、「3年の間に礼拝施設など活動実態が示せれば、解散は免れる」と示したのです。そこで活動実績作りのために用意したのが、先述の一軒家でした。
場所はA氏が住む大阪から遠く離れた、北海道札幌市。かつて宗教法人があった札幌市に、新たな施設とするための一軒家を1380万円で購入したのです。
【宗教法人代表 A氏】「普通の中古の家を買って、ここにこういう神殿とか拝殿を作って、宗教施設だということにしていますね」
ここに29歳の知人男性を住まわせ、管理を任せています。大阪から頻繁に北海道に行くことが難しいからです。
キッチンやリビングは、ごみや服が散らかり放題。しかし、ある部屋を見せてもらうと…。
【宗教法人代表 A氏】「こっちは礼拝堂ですね。ここで手を合わせるっていう感じです。このパウチしているの(紙)が神様の名前なんでね。大己貴命とか国常立命、少彦名命。うちの神様」
一見普通の洋室の一角に、祭壇のようなものが設置されています。さらに、別の部屋も見せてもらいました。
【宗教法人代表 A氏】「ここが神殿ですね」
“神殿”と呼ばれる部屋。通販でそろえたという祭壇や、干からびたかぼちゃなどのお供え。並べられたお札はA氏が別の神社で買ったものでした。
ただの一軒家を神道系の宗教施設に仕立て上げたA氏。税務調査のためここに訪れた札幌市の職員は、この家をどのように見たのでしょうか。
【宗教法人代表 A氏】「仏教っぽいでしょ?そういう雰囲気を出さないとあかんからね。札幌市(の職員)は写真を撮っていましたね。分からないから、『そうなのかな』って言って。(Q.特に指摘はなかった?)なかったですね。(札幌)市の税務課が見に来た時はね」
特に疑問も持たれず“宗教施設”と認定され、固定資産税などは免除されました。
さらに、休眠状態でないことを所管する北海道にアピールするために、こんなことも。
【宗教法人代表 A氏】「(知人を)大阪から全部連れてきたのでね、写真を撮るために。撮らなあかんから交通費はこっちで持ってあげて」
知人を撮影し、“信者”たちが参拝している実績として報告。宗教施設に備え付けが義務づけられている書類に名前を連ねているのは、ほとんど会ったこともない人だといいます。
それでも北海道は活動実態があると認め、解散命令請求は見送られました。
今や、堂々と宗教法人の代表の座に就くA氏は…。
【宗教法人代表 A氏】「なんか怪しい金あったら全部、宗教法人に寄付したことにしたらいい」
Q.別の事業の収益も宗教法人に?
【宗教法人代表 A氏】「そうですね、やりますね。(Q.税金は?)かからないですね」
宗教法人の魅力、税の優遇措置を最大限利用するつもりです。
■納骨堂の経営破綻で約770人の遺骨が…
こうした宗教法人の売買・譲渡が放置されると、思わぬ影響が出てきます。
2022年、札幌市の納骨堂が経営破綻。利用者770人ほどの遺骨が放り出されてしまいました。破綻して初めて、運営していた宗教法人の実態が分かったというのです。
夫の遺骨を預けていた松田彰子さん(63歳)。
Q.代表は宗教家ではない?
【松田彰子さん】「はい。(Q.いわゆるお寺ではない?)それはただただ、お寺をやっていた人から買ったということもその後で知った。今回のこの事件の内容をひも解いていく時に知りました」
宗教家ではない代表が、A氏のように宗教法人を買ったというのです。そして、多くの利用者が困り果ててしまう結果に。
【松田彰子さん】「(夫は)なかなか何をしたいというのを、いつも周りに気を使って言うタイプではないのに、最後だけ頑としてそれは(納骨堂に入れてと)言い張ったので。何だかね」
A氏の宗教法人と、納骨堂の宗教法人を所管する北海道は…。
【北海道石狩振興局総務課 髙畠知秀課長】「宗教法人法は信教の自由を最大限に保証するということで、あくまでもわれわれは認証。事務手続きの書類がそろっていたら基本的には認めると」
「解散命令請求自体が結構ハードルが高いものですから。もちろん、今後少しずつやっていかなきゃいけないというのは事実でありますね」
「信教の自由」に守られる宗教法人。実態が伴わない法人への有効な手だてはあるのでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年2月8日放送)