20年ぶりにノリの生産日本一に輝いた兵庫 それなのに喜べない理由とは? 生産者を悩ます魚による「食害」に「後継者不足」 国産のノリ生産量維持のためにさまざまな取り組み 2023年06月17日
身近な食材の「ノリ」。日頃から食卓にあがる家庭も多いのではないでしょうか。実は、昨年度、兵庫県のノリが生産枚数・販売額ともに日本一になりました。これは20年ぶりの快挙です。
しかし、明石ノリの生産組合のトップは「兵庫県が日本一となっているけど、ちょっと喜べるような数字ではない」と話します。
ノリの生産日本一になった兵庫県。それなのになぜ喜べないのか?さらに、もしかしたらおいしいノリが気軽に食べられなくなる日が来る恐れも!?
一体、何が起きているのか?ノリ養殖のいまをツイセキしました。
■全国1位だった佐賀県が歴史的不作 20年ぶり兵庫が日本一に なぜ喜べない?
2022年まで19年連続で、ノリの生産1位の座を守り続けていた佐賀県。有明海でつくられるノリは香りもよく、なめらかな口どけで知られていますが…
【佐賀のノリ生産者】
「最悪です。43年間ノリ(養殖)をして一番の最悪」
雨があまり降らなかったことなど天候不順が重なり、ノリの成長にかかせない栄養塩が有明海全域で不足。
ノリの質が低下する色落ちが確認され、生産枚数、販売額ともに昨シーズンの半分程度に落ち込む歴史的な大不作となりました。
これにより、兵庫県が生産・販売額で20年ぶりに全国1位に。しかし…兵庫県の明石ノリの生産組合のトップ・明石市漁業組合連合会 大西賀雄会長は、全国的にみると、昨シーズンは目標の半分ほどしか取れていない状況を懸念し、ノリの不作に危機感を持っています。
【明石市漁業組合連合会 大西賀雄会長】
「兵庫県が日本一となっているけどちょっと喜べるような数字ではない。やっぱり宮城、瀬戸内海、九州・有明の方、これが良くないとね…。その年の天候にもよるし色落ちが原因だね。海がきれい過ぎになっている。きれい過ぎるということは栄養がないということで、窒素・リンが全くないような状態。だから色が落ちる」
■ノリの生産日本一の兵庫の取り組み しかし新たな問題「食害」が発生
近年、日本では環境対策が進み、海に流れる工場排水などの水質が「きれい過ぎる」という皮肉な問題が起きています。
兵庫県では2019年度からあえて「きれい過ぎない下水」を流し、ノリの成長にかかせない窒素やリンを含んだ栄養塩のレベルを維持する取り組みを行っています。
この全国初の試みにより、ノリの色落ちを防ぎ、芳醇な香りを保っているのです。生産数の維持にも一定の効果が出ています。
そんな中、新たに生産者を悩ます課題が出てきました。それは…クロダイがノリを食べてしまう「食害」。特に「新芽」と呼ばれる生産の初期にできる高値の初摘みノリをクロダイに食べられてしまうことが、生産者には痛手なのです。
この被害を防ぐため、兵庫県の水産センターではクロダイの生態を調べ、対策に乗り出しています。
【兵庫県水産技術センター 高倉良太さん】
「一番クロダイの食害で、生産者の経済的ダメージとして与えているのが生産初期の新芽の時期なんですね。基本的にはノリは一番最初が高くて、最初に取れる高い金額のノリを食べられるので、もし食害を抑えることができたら、最初の売り上げとしては延ばせるのではないかなと」
食害の影響はこんなところにも…
神戸市・中央区にある高級鮨店でも、初摘みのノリを使っています。
【寿志 城助 中山城助さん】
「(初摘みは)色・つや・香り全て違う。特に明石の初摘みは、1番やわらかくて口どけもいい。初摘みは量も少ない、手に入りにくい状況ですけど何とか使いたい」
■クロダイから高級な初摘みノリ守るには? 3年前からGPSをつけ生態調査
魚による「食害」…どう守っていけばいいのでしょうか?
兵庫県は3年前からクロダイの生態を知るために、発信機をつけ行動を調査。ほとんどデータのなかったクロダイの特徴が少しずつ明らかになってきました。
5月、ノリの養殖が終わった時期でも、クロダイが養殖いけすの周辺に生息しているのかどうか、調査しました。
【兵庫県水産技術センター 高倉良太さん】
「全部で9匹取れました。前はノリを食べにきているのかと思ったけれど、通常の移動経路になっているというのが何となく分かりました」
早速、研究室に戻って、クロダイの生態をさらに調べることに・・・
【兵庫県水産技術センター 高倉良太さん】
「ほとんど何も入ってないですね。おなか空っぽ状態。元々、海藻類も食べる魚なのでノリを食べるのは全然自然なことではあるんですけど、でもノリ養殖が始まると本当にノリでパンパンになっている」
調査では、高級なおいしいノリが取れる“初摘み”の時期に捕獲したクロダイの腹の中を見たところ…ノリでいっぱいになっていました。
【兵庫県水産技術センター 高倉良太さん】
「一番おいしい新芽の時期に、よく食べにくるんですけど、やっぱりおいしいのを知っているんじゃないですかね。まずはその漁場に居ついているクロダイを一定量水揚げすることで、食害を軽減できないかなという方向で動いています」
初摘みノリを狙うクロダイ。水産センターはノリの収獲期に食害が出ないようクロダイを捕獲していく方針です。
■ノリの生産者が抱える後継者問題 国産のノリを減らさないためには?
兵庫県全体で取り組んでいるノリの生産。しかし、生産者は後継者不足で国産のノリそのものが減っていっていくのではないか、と心配しています。
【明石市漁業組合連合会 大西賀雄会長】
「(生産者は)減っていくばかり。しまいに(ノリ養殖)する人がいなくなってくる。いま、韓国から(ノリが)20億枚ぐらい入ってくる。減った分が入ってくるから(国産と販売枚数が)逆になる可能性もある。それだけは避けたい。やっぱり日本のノリを食べてほしい」
地元の飲食店も、おいしい料理を提供するため、今後も国産のノリはかかせないと話します。
【開化亭 周遵興社長】
「天むすなんですけど、こだわりが須磨ノリ。風味がいいし歯ごたえがすごくいいし食べたらすぐ分かる。ほとんどの人が注文する。他のノリに変えるつもりもないし、これからもずっと須磨ノリ」
20年ぶりに日本一に返り咲いた兵庫県のノリ。日本の食文化を守ることはできるのでしょうか。
■ノリの生産量維持するために兵庫県がさまざまな取り組み 新たな課題も…
19年連続でノリの生産トップだった佐賀県が天候不良などで不作だったことから、20年ぶりに兵庫県が日本一に返り咲いたわけですが、ノリの生産量を維持するため、さまざまな取り組みをしています。
下水処理場に協力してもらい、「キレイすぎない下水」を海に放出してノリの栄養源にしています。また、高級な“初摘み”のノリを食べるクロダイをノリの収穫期に合わせて一定量捕獲する方針です。
生産者も品質のよいノリを維持しようと努力しています
さらに、いま新たな課題も出ています。
水産庁によると「海水温の上昇」がノリの養殖に悪影響を与えているという問題です。
海苔は秋に養殖が始まるのですが、最近は海水温が上昇しているためノリの苗が育たないといいます。
水温が下がらないと苗が育たないので、開始時期が遅れ、結果、養殖期間が短くなり、その分、ノリの成長も遅れ生産量が減ってしまいます。
そこで、いま進められているのが、「海苔の新品種の研究」です。海水温が24℃でも耐えられる品種を開発していて今後、実用化に向け実験段階にあるそうです。
私たちが何気なく食べているノリですが、国産の海苔を積極的に食べることも生産者を守る意味で大事なことかもしれません。
(2023年6月15日 関西テレビ「newsランナー」放送)