■殺人事件の容疑者に生活保護費を不正支給
去年11月、堺市で生活保護受給者が殺害され、隣人の男が殺人の疑いで逮捕された事件で急展開です。
3月20日、背任の疑いで生活保護業務を担当していた区役所の職員4人が書類送検されました。
殺人事件の被疑者に対し、生活保護費を不正に支給した疑いがもたれています。
関西テレビは書類送検前、複数の職員を直撃。
-Q:免許取得費の支給は役所として適切だった?
【課長補佐】
「分からないですね。適切だったとも不適切だったとかも分からない」
【別の職員】
「振り回されましたよ。1人ではつらかったです、正直」
さらに、職員4人のうち1人は、殺害された男性に暴行した疑いでも書類送検されたのです。
【課長補佐】
「暴行の定義が分からなくなっている」
■ 生活保護行政の現場で一体何が
去年11月、堺市中区の集合住宅で無職の唐田健也さん(当時63歳)が殺害された事件。
殺人の疑いで逮捕されたのは隣人の楠本大樹容疑者(33)でした。
2人はともに生活保護を受けていて、同じケースワーカーが担当していました。
楠本容疑者は唐田さんの生活保護費の大半を受け取るなど金銭的に支配。
さらには唐田さんに日常的に暴行を加えるなど主従関係にあったとみられます。
暴行は担当ケースワーカーの目の前でも行われていて、2人の異常な関係を職員は容易に把握できたはずですが…
【堺市中区役所・西川明尚区長】
「従来から2人で行動されることが多いとケースワーカーは認識していて。ある意味、相互扶助の関係にあると」
暴行についても「当事者間の“いざこざ”だと思っていた」との説明を繰り返していて、ケースワーカーが警察に通報することはありませんでした。
しかし20日、事態は急展開しました。
担当ケースワーカーの上司である課長補佐が、唐田さんへの暴行の疑いで書類送検されたのです。
課長補佐は去年11月、唐田さんが鍵をなくしたと担当ケースワーカーから呼び出された際に、唐田さんの肩を上下に揺さぶり、自宅の扉を蹴りつけ、「じじい!われ何しとんねん!」と怒鳴りつけた疑いがもたれています。
書類送検前、関西テレビの取材に課長補佐は…
-Q:職員が唐田さんに暴行を加えるのはありますか?
【課長補佐】
「”職員が”ですか?危害は加えない。支えたりとか。暴行の定義が分からなくなっているが、手が触れるとかはあっても危害を加えるというのはない」
-Q:自身もない?
【課長補佐】
「それはお答えが難しい」
-Q:定義があいまいだから?
【課長補佐】
「そうですね。触れたことはあるんですけど、暴行に当たるのかというのと。捜査に関係があるかもしれないのでお答え難しいかと思います」
調べに対し、課長補佐は「当時唐田さんが鍵をなくしたことで、私や部下が長時間の対応を強いられてイライラし感情が高ぶった。蹴ったのは唐田さんに対する威嚇、脅しの意味だった」などと話していて、警察は一方的に怒りをぶつけたとみています。
■ 容疑者の対応も問題か 警察が捜査
職員と受給者の問題はこれだけではありませんでした。
3月13日、大阪府警は区役所を捜索。
そして20日、課長補佐、担当ケースワーカー、係長、課長の職員4人を楠本容疑者に対し、生活保護費を不正に支給した背任の疑いで書類送検したのです。
これは去年6月、楠本容疑者が区役所に提出した書類。
“就労のために必要である“として、運転免許の取得費を申請した書類ですが、よく見ると、ほとんどが空欄。
職員らは就職先を十分確認せずに、現金およそ26万円を支給した疑いがもたれています。
生活保護制度に詳しい専門家にこの書類を見てもらうと…
【花園大学・吉永純教授】
「少なくともどこに就職するか。必要な品目として『普通免許』、生業の見通しというのは就職の見通しですから。例えば来年4月からこの会社に入社して月給15万円もらうとかですね。そのことは書かないといけない。要は具体的にそこに就職するんですねということが分かるために、こういう書類を求めているので。空白なのはなぜなのかというのはよく分からないですね」
警察によると楠本容疑者は本来、就職先に記入してもらうべき書類を自分で記入。
それは担当ケースワーカーの上司にあたる係長の目の前で行われていたというのです。
書類を偽造していたことを黙認していたのか。
係長に話を聞くと…
【係長】
「まだ物事が進行している段階なので。うっかり言ったことが捜査に影響出るとかあかんのです。そこを本当に分かってほしい」
空白だらけの書類は、課長補佐などの決済を経て、楠本容疑者に保護費は支給されました。
課長補佐は書類の不備に気づいていたのでしょうか。
-Q:免許取得費の支給は役所として適切だった?
【課長補佐】
「わからないですね 適切だったとも不適切だったとかもわからない」
-Q:楠本容疑者だけを優遇したことは?
【課長補佐】
「それはない」
-Q:ほかの方が同じ書類を出しても同じような申請の流れに?
【課長補佐】
「なると思いますよ」
警察の調べに対し、「支出は正当なものだった」と容疑を否認している課長と課長補佐。
しかし、書類送検された4人のうち1人は取材に対し、苦しい胸の内を明かしました。
【係長】
「(楠本容疑者には)振り回されました。自己中心的で人の話を聞かないですから。ただその当時はここまでのこととは思っていなかった。一人ではつらかったですよ、正直。ただ正当化するような筋合いはないです。できないことが山ほどあったし」
係長は警察の調べに対し「楠本容疑者が無理にでも急いで就労することで、生活保護を打ち切り、容疑者と区役所の関係を解消できると思った。これまで容疑者の対応に手を焼いていたので、私の手から離れて対応しなくてよい環境にしたかった」と容疑を認めています。
■ 背景にあるケースワーカーの実態は
なぜ職員は楠本容疑者に毅然とした対応をとれなかったのか。
5年間、ケースワーカーとして働いていた男性は「従うしかなかったのではないか」と指摘します。
【元ケースワーカーの男性】
「先入観を排除して支援しないといけないという気持ちはあるんですけれど。(例えば)元暴力団という歴をみると身構えないというのは嘘になる。最悪の状況が重なって、組織としても担当ケースワーカーの相談を聞いてくれないとか、体制が整ってないと自分で何とかするしかないと思って、暴力的な人の対応は自分がいうこと聞いたほうが楽というか従ってしまうのはあったのではないかなと思います」
■ ケースワーカー 最大の課題は「人員不足」
堺市以外の自治体の実態はどうなっているのか。
関西テレビは大阪府内のすべての自治体に対し、ケースワーカーに関するアンケートを実施して30の市から回答を得ました。
法律ではケースワーカーが受け持つことができる標準の世帯数は1人あたり80世帯までと定められていますが、調査の結果、8割を超える市(26市)で1人あたり80世帯以上を抱えていることがわかりました。
さらに、100世帯以上を担当する市は6割(18市)に上ることが明らかとなりました。
ケースワーカーに危険が及んだ事例について聞くと、「どう喝・恐喝などで長時間拘束された」「突然包丁を持って切りつけられた」「酔っ払った受給者が職員を殴打した」など生々しい事例が次々と出てきました。
対策のため、7割近くの市が「警察OB」を配置しているということです。
また、ある市の担当者は「国や大阪府は、市への『支援・指導』をする立場だが、実際は『指導』が主になっている。『支援』を得られる体制を」と回答しました。
生活保護行政への支援が求められます。
(2023年3月20日 関西テレビ「報道ランナー」放送)