1月、大阪の淀川河口にマッコウクジラが出現しました。水面から体を出し、時折、潮を吹く姿に連日、多くの人々が見物に訪れました。一方、東京湾では、防波堤でくつろぐトドや、100頭近いイルカが出現。
一体、何が起きているのか…そんな海の異変はほかにも。
和歌山が誇る高級食材・イセエビが記録的な不漁に。深刻化する海の異変をツイセキしました。
■高級食材イセエビが不漁 地元漁師「しんどい…」
紀伊半島の東側に位置する和歌山県那智勝浦町。生マグロ水揚げ日本一で知られる一方、周辺では秋から春先にかけて旬を迎える高級食材・イセエビの水揚げ量も全国有数です。
地元の宿では、イセエビ料理を打ち出したプランが人気です。また、他にも10年以上前から「イセエビ祭り」を開催し、観光資源としてPRしていました。
しかし…近年、イセエビの不漁が続き「祭り」が中止に追い込まれています。
港にいた漁師に話を聞きました。
–Q:何しているんですか?
【勝浦漁協 片谷匡組合長】
「イセエビの捕る網を修理しているんです」
–Q:今年のイセエビ漁は?
【勝浦漁港 片谷匡組合長】
「駄目ですね…5年前ですか?それからもう一年一年、ものすごい速いペースで、もう本当に肌身に感じて(海が)変わっていっていますね」
周辺では、本来まだシーズン中なのに早めにイセエビ漁を終えてしまった漁師もいました。
【串本町の漁師 小川正博さん】
「いいときは10キロとか15キロもかかる。ことしはほんまに駄目やった。この5、6年前からもう不漁やもんね。もうやっててもやるに及ばんっていうような感じや。もうしんどいだけや」
那智勝浦町で5年前(2018年)には年間6.2トンあった漁獲量は年々減り、2022年はなんと半分以下の2.9トンになりました。
漁師たちがいう5年ほどの間、南紀の海では何があったのでしょうか…
■南紀の海に起こった“黒潮大蛇行” 海水温にも影響が…
和歌山県の水産資源について調査研究を行っている水産試験場によると…
【和歌山県水産試験場 資源海洋部 小川満也 副主査研究員】
「今こういう最新の海流ですけれども、黒潮が大蛇行しているわけですね」
「黒潮大蛇行」と呼ばれる“異変”。
暖かい海流・黒潮は通常、九州から関東にかけて本州に沿うように流れていますが、2017年8月頃から四国沖で大きく南に蛇行、紀伊半島から離れてしまっているのです。
このため黒潮にのってくるといわれるイセエビの子どもが寄りつかなくなり、イセエビ漁に影響を与えている可能性があるのです。
実際に水産試験場の調査では黒潮大蛇行の後、潮岬沖でイセエビの子どもが5分の1程度に激減しています。
–Q:幼生(イセエビの子ども)が減るのと、大蛇行のタイミングは重なるのですか?
【和歌山県水産試験場 資源海洋部 小川満也 副主査研究員】
「まさにその通りです。特に今回の大蛇行で(イセエビが)減っていることへの対策は特にないんです」
さらに海の環境自体にも影響が…
黒潮は大蛇行によって紀伊半島から大きく離れていますが、実は、関東に向かって北上するとき一部が紀伊半島の東側に流れ込み、その地域では水温が高くなっているのです。
実際に比べてみると、15度だった水温が18度と高くなっているのが分かります。
わずか3度の違いがもたらす海の変化とは…
関西テレビは2021年7月に、この影響を取材していました。
海の中を潜ると…海藻がまばらで岩肌が丸見えになっていて、水温が上がったことで伊勢エビや貝のエサとなる海藻が枯れ、海底では“磯焼け”が進んでいました。
【漁師 今出和之さん】(※2021年7月に取材)
「餌となる海藻がないですね。サンゴとかが、沖縄の海のように増えてくるのでは。海藻がなくなって、熱帯・亜熱帯みたいな海になるのでは、数十年後とか…」
この南紀で大事な観光資源だったイセエビ、戻ってくる日は来るのでしょうか?
■“過去最長”…5年半に及ぶ黒潮大蛇行 もはや異変ではない?
実は黒潮大蛇行は、記録があるだけでこれまでに5回観測されています。今までの多くは1、2年程度で終わっていましたが今回はすでに5年半と期間が観測史上、過去最長となりました。
その影響について専門家は・・・
【海洋研究開発機構 美山透 主任研究員】
「元々、地球温暖化で温暖化しているところに、黒潮大蛇行が長期化しているので、二つの原因が重なって非常に悪い環境になっているということですね。地球温暖化が、これから何十年と起こることを先取りした形で、今やってきているというようなこともいう風に言えます」
さらに、現在も終わる兆候は見えていません…
–Q:長期化による影響は?
【海洋研究開発機構 美山透 主任研究員】
「藻場とかが枯れた状態が長期化し、藻場に住む魚の生態系に非常に大きな影響が残ることが考えられます。仮に黒潮大蛇行が終わったとしても、すぐに回復しないということも考えられる」
和歌山県では藻場の育成に補助金を出して、地元の漁師たちとともに少しずつ海の環境の改善に取り組んでいます。
黒潮大蛇行の長期化の理由は分かっておらず、この状態がもはや“異変とは呼べない”未来が来るのかもしれません。
(2023年2月20日放送)