自衛隊ミサイル部隊の配備進む南の島 “仮想敵国”になりつつある中国の野望に日本はどう備える? 「逆さ地図」から見える東アジア情勢とは 最前線を新実キャスターが取材 2022年12月26日
防衛費の大幅な増額、“反撃能力”保有など、大きな転換点となった2022年。日本の安全保障を取り巻く環境が劇的に変わりつつあります。
その日本の防衛の重要拠点の一つが、鹿児島県の奄美大島。リゾート地として有名な奄美大島が、なぜ今、日本の防衛における重要拠点なのか。最前線を取材しました。
■自然豊かな島の自衛隊
九州と沖縄のちょうど中間地点にある奄美大島。人口は約6万人、亜熱帯の森林や美しい海に囲まれ、生き物の楽園ともいわれています。2021年に世界自然遺産に登録されたこともあり、毎年多くの観光客が訪れます。
自然豊かなこの島に3年前に開設されたのが、陸上自衛隊・奄美駐屯地です。
約600人の自衛隊員がいる奄美大島。こちらではミサイル部隊が展開し、有事の際に戦闘機など空からの攻撃に対抗するため、「地対空ミサイル」が配備されています。
【新実彰平キャスター】
「対空ミサイルの発射機がこちらに来ています。ミサイルを搭載している部分が45度を超えて…こんなに真上を向くんだ、ほぼ90度。発射の部分が上を向きました」
【第344高射中隊 鴫山圭祐中隊長】
「航空機および巡航ミサイルを対象にしています」
【新実キャスター】
「ミサイル迎撃も可能性としてはあり得る?」
【第344高射中隊 鴫山圭祐中隊長】
「その通りです。実弾につきましては2年に1回、米国において実射を実施しております」
島の南西には、船からの攻撃に対抗するための最新型「地対艦ミサイル」を配備。2つのミサイル部隊が、空と海の両面から日本を守っています。
■中国から見た南西諸島
なぜこれほど警戒するのか。その理由は、東アジアの地図を見ると、分かります。よく目にする地図を逆さにすると、日本周辺が全く違って見えるのです。
【奄美警備隊長 兼 奄美駐屯地司令 日高正暁一等陸佐】
「一般的な地図と違って、中国大陸・朝鮮半島から日本側を見たときに、どう映るのかという地図です。太平洋に関心のある中国が、どういうふうに考えて我々の南西諸島を見ているのか。これを教育等で使っています」
【新実キャスター】
「太平洋をにらんだときに、日本列島があって南西諸島があって…中国から見たら邪魔な位置にあるんだということがよく分かりますよね」
中国が太平洋に出ようとすると、沖縄本島や宮古島などだけではなく、鹿児島の奄美大島も防衛の最前線になっていることが分かります。これらの島々には自衛隊が常駐し、奄美大島や宮古島などにはミサイル部隊が配備されています。
【新実キャスター】
「ここ数年で一気に、南西諸島への新たな部隊配置というのが進んでいますが、端的にいうとどういう思惑、狙いがありますか?」
【日高正暁一等陸佐】
「南西諸島というのが“第一列島線”上にあるということで、どうしても与那国島や宮古島、そういった島しょ部の作戦を支えるための中継的な位置付けで、この奄美大島は非常に重要になってきていると」
“第一列島線”とは、中国が太平洋に進出するため、独自に設定した軍事境界線のこと。九州の南から南西諸島に沿って台湾へと伸びています。一方的に主張しているこのラインは、日本のEEZ(排他的経済水域)などを無視していて、尖閣諸島など一部の領土は中国側に含まれています。
12月にも、中国軍の測量艦が鹿児島県屋久島周辺の領海に侵入。また、空母「遼寧」が沖縄本島と宮古島の間を抜け、太平洋上で戦闘機の発着を行っていたことが明らかに。この現状については…
【新実キャスター】
「奄美では、東側の海峡を抜けようと意図するものが想定されるわけですか?」
【日高正暁一等陸佐】
「そうですね。多いのは、奄美の北側にトカラ列島があるんですけど、トカラ列島の間を中国の測量船等が通峡しているという状況が近年あります」
【新実キャスター】
「ある種の仮想敵として中国というものを表現すべき状況に、近年なったという感じですか?」
【日高正暁一等陸佐】
「防衛白書の記述が年々変わってきているので、その通りだと私は思っています」
【新実キャスター】
「ご自身も肌で感じるところですか?」
【日高正暁一等陸佐】
「はい」
11月、奄美群島の徳之島では、日本の自衛隊とアメリカ軍による国内最大規模の共同演習が行われました。島民たちが見守る中、“離島奪還”を目的とした訓練が公開されました。
演習は、中国を念頭に、島が不法占拠されたという想定。海と空から突入し、奪還するという訓練です。
【日高正暁一等陸佐】
「『海外や沖縄、南西で起きていることなので我々は関係ない』ともしお考えの方がいたら、そうじゃない状況が、近隣諸国のやっている行動であると理解していただくことも大切なのかなと思います」
■島に暮らす人たちは
自衛隊の存在をどう思っているのか、地元の人に聞きました。
【女性】
「半々ぐらいですかね、賛成とも反対とも…優柔不断だけど。自衛隊の方は、夏に北海道から家族が来て、子供たちがマンゴーがおいしかったからまた送りたいとか。経済効果は私はあると思いますよ」
【親子連れ・母】
「船がよく来るんですけど、(自衛隊のイベントが)あったらいつも行って、みんなで乗って。大好きだよね、将来の夢自衛隊だもんね」
【新実キャスター】
「将来、自衛隊になりたいの?」
【親子連れ・子】
「うん。(Q:何に乗りたい?)船」
【新実キャスター】
「自衛隊があることで攻撃の対象になる可能性が高まるというのが戦略上言えるんですけど、それと自衛隊がいてくれる安心感と、プラスマイナスどうですか?」
【親子連れ・母】
「あまり深く考えたことなかった…でもいてくれた方がいいのかな。守ってくれるんじゃないかなって」
話を聞いたほとんどの住民は自衛隊に好意的でしたが、有事についてはそれほど深くは考えていないようでした。ではもし有事があった場合、離島の住民避難はどうなるのでしょうか。
日本は武力攻撃を受けた場合、国民の生命・財産を守ることを目的とした「国民保護法」に基づき、自治体が避難計画を策定し住民を保護しなければなりません。
奄美大島では有事の際、「鹿児島県本土へ直接避難」とありますが、具体的な輸送手段、経路などは書かれていません。これに対して鹿児島県の担当者は…
【鹿児島県 危機管理課 中川寿男課長】
「離島の場合は輸送手段に大きな制約があるということがございますので、国・市町村・関係機関と連携して、輸送力の確保に取り組む必要がある。本県では今年度から来年度にかけて、屋久島町を対象とした武力攻撃事態を想定した訓練を実施すると。そういった訓練を通じて、国民保護計画の実効性を高めるという観点で詳細を詰めていっているところです」
具体的内容はこれからだという離島の避難計画。地元の人に聞いてみると、計画の存在自体を知らない人が多くいました。
【新実キャスター】
「市町村が避難計画を作るとなっているんですが、気にされていますか?」
【男性】
「いや聞いてない」
【新実キャスター】
「一応奄美市も作っているんですけど、島の外にどうやって出るかとか、具体的なところは検討できていなくて…」
【男性】
「初めて聞いた」
【新実キャスター】
「避難計画があるのは聞いたことありますか?」
【男性】
「聞いたことない。そこまで深く考えていなかったですね。そういう状況であるのであれば、必要であればすぐ決めるべきだし、もうちょっと発信してほしいとは思いました」
緊迫する日本の防衛の最前線、奄美大島。何かあったとき、住民の命をどう守るのか。最優先で解決すべき課題は残されたままですが、有事に向けた備えは着々と進んでいます。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月26日放送)