大阪市生野区。焼肉店やコリアタウンでにぎわう鶴橋駅のすぐ近くに「鶴橋鮮魚市場」があります。地域の食を支えてきたこの市場に、今、存続の危機が。
老朽化を理由に立ち退きを求める市場の建物会社と、営業を続けたい店舗側で対立が深まっています。再建か、立ち退きか。レトロな市場が直面する危機をツイセキしました。
■大阪の食文化を支えてきた「鶴橋鮮魚市場」に今、問題が…
鶴橋鮮魚市場の歴史は、1940年代、終戦直後の闇市から始まったとされています。近鉄が遠方で獲れた新鮮な魚を大阪まで運ぶために「鮮魚列車」を運行したことでにぎわい、大阪の食文化を支えてきました。
鮮魚店を営んでいる永井さん。父親の代も含めると60年以上、この場所で商売を続けてきました。愛着のあるこの市場に、今ある問題が降りかかっています。
【永井商店(鮮魚) 永井浩さん(54)】
「老朽化で(市場を)退去してくれ、ということで。(話し合っても)キリがないからとりあえず一回出ていけと。再建計画は、出ていってから考える、と」
この建物を所有している会社「株式会社 鶴橋卸売市場」が行った調査で、建築から60年以上がたち、耐震性に疑問があるという結果が出たのです。
【永井商店(鮮魚) 永井浩さん】
「建て替えるという意見には反対ではなかった。コンクリートの耐用年数はだいぶ過ぎているので…多少、雨漏りすることもある」
再建案も話し合われましたが、物別れに終わり、建物会社側は、300万円を支払う代わりに、店舗に立ち退くことを要求。立ち退いた後は、不動産業者に土地を売却するという計画でした。
永井さんら店舗側は、この計画に反対しました。
【永井商店(鮮魚) 永井浩さん】
「鶴橋市場はどうなるんですか?僕らの生活もある。仕入れに来てくれている客のニーズもあるし、そういうことはどうなるんですか?と言っても(会社側は)そういうことも一切考えない。お客さんは魚もあれば、マグロもあって野菜もあって肉もあって、鶴橋に来たら全部仕入れられるよ、と。これがぼく一軒になって、個人商店、街の中の魚屋さん一軒になったら、どうしても集客力も弱くなるし売り上げもダウンする」
市場の利用客はこの状況について…
【男性客】
「割烹料理屋をやっています。毎日来ています。40年以上、親父の代からここで仕入れやっているんで、なくなったら困る」
【女性客】
「私、おすし屋さんです。(市場がなくなったら)困る」
双方は折り合わず、2020年には建物会社側が店舗側に立ち退きを求めて、大阪地裁に提訴。法廷で争いが続いています。
そして、ここにきて、土地の売買を巡り大きなターニングポイントが訪れました。
■市場の土地売買めぐり具体的な「売却案」が…
今回取材で独自に入手した、11月に会社側が会社の株主に対して送った「臨時株主総会」実施の案内。議題は「土地建物の売買契約について」となっています。
案内と共に送られてきた売買契約書案には、大阪の不動産業者A社におよそ9億円で売却するとの記載が。
しかし、その後には「土地の引き渡しまでに、店舗側との訴訟などが解決しない場合は、4億1千万円を値引きして売却する」と記されています。解決のめどはたっていないため、再建案のない実質4億9千万円での売却案でした。
【永井商店(鮮魚) 永井浩さん】
「最初は嘘かな、と。(売却価格は)かなり安いと思います。かなり足元を見られているというか…いろんな方が会社に『何で(A社に売る)?』と聞きにいっても、かたくなに『もう遅いんや』とか『いまさら何言うてんねん』とかで断られる。その理由が分からないので疑心暗鬼」
【市場でマグロを扱う 藤田伸司さん(65)】
「みんなが損する。株主も配当も損する、店子(店舗側)も店なくなる。将来、まっくらけじゃないですか」
会社側は、この契約の承認を12月10日の株主総会で求める方針です。どういった経緯でこのような事態になったのか。市場からすぐそばの場所で鮮魚店を営む、建物会社の社長が撮影しないことを条件に取材に応じました。
■なぜA社?建物会社社長の“真意”は
【建物会社社長】
「市場を再建する案を当初は考えていた。しかし、店舗側は『再建中の代替地代替え地がないと応じられない』の一点張りだった。このあたりでそんなまとまった土地はない。交渉の不調が続くうちに、会社の資金繰りが悪化して、売却を早く進めないと倒産してしまう危機に陥った。老朽化の問題は深刻で、会社としては営業をずっと続けてもらうわけにもいかない」
建物会社側の売却案を知った店舗側も対策を打ちました。市場の土地を9億円で買い取ってくれる別の不動産会社B社を探し出してきたのです。値引きの条件などはなく、最終的には大手不動産会社が買い取るということで話がまとまっていて、「一部の土地で市場を再建する」という交渉も進んでいます。
【永井商店(鮮魚) 永井浩さん】
「誰がどう比較しても、なんでこっち(店舗側の案)を取らないの?と普通に思う」
店舗側の売却案について、建物会社の社長の受け止めは…
【建物会社社長】
「4億9千万円で売りたいわけではない。けど、これまでの関係性などもあるし『A社さん、高く買ってくれるところ見つかったんでもういいです』とは言えません。株主総会ではA社の案を株主の皆さんに問いたいと思っている。不動産業者との変なつながりは絶対にない」
取材の最後に、社長は「立ち退きのお願いを店舗側にすることになったことは申し訳ない。力不足です」とも話しました。
鶴橋で70年以上続く市場の行く末はどうなるのか。株主総会の結果とその後が注目されます。
(2022年12月8日放送)