大阪・西成のヤミ露店 医薬品の密売人を直撃取材 生活保護の医療扶助で出された薬がヤミに回る 密売人は「この仕事に誇り」 専門家は「レイプドラッグなどにつながる懸念も」とリスクを指摘 2022年09月23日
大阪市西成区の路上で数々の怪しげな薬が販売されています。本来、それらの薬は医師の診断がなければ入手できないはず…
ツイセキ取材班が密売人に話しを聞くと…
【密売人】
「月の売上は軽く80万円くらいはいくやろうね。これも3錠4錠飲んだら(過剰摂取すると)下手したら呼吸停止になる恐ろしい薬」
医師や薬剤師の資格を持っていない男らが、どうやって薬を入手し、販売しているのか。
そのカラクリをツイセキしました。
■未明の西成・あいりん地区 街の一角に露店が出現
古くから日雇い労働者の街として知られた大阪市西成区にある「あいりん地区」。ここ数年は近くに観光向けのホテルも多く立ち、街並みが徐々に変わってきています。
しかし街のある一角では…
【記者リポート】
「平日の昼間は特に何もないこちらの場所ですが、週末の未明から早朝にかけて、ある店が開かれます」
ある週末の午前2時過ぎに、男が路上に何か並べていました。そして午前3時半頃に訪れた男性客が何か商品を購入しました。ライトを照らしながら、商品を品定めしている客らしき姿もありました。
【記者リポート】
「午前3時半過ぎとは思えないくらい人が集まってきていて異様な光景となっています」
露店では一体、何が売られているのか。炊飯器や衣服。さらに違法なわいせつDVDも。
■別名“泥棒市” 薬の無資格販売も
ここは夜な夜な西成で開かれる闇露店。昔は盗品なども多く売られていたことから“泥棒市”とも呼ばれています。
そんな中、取材班の目に留まったのは…「くすり屋」と書かれた文字。無造作に置かれていますが、薬を扱う露店での看板です。
この周辺の闇露店では薬を扱う店が複数あります。
どんな薬を置いているのか。露店を出している男の1人に声をかけました。
–Q:何の薬?
【露店の密売人】
「眠剤薬・胃薬・精神安定剤…」
–Q:病院で出るやつ?
【露店の密売人】
「そうそう」
売られていたのは、睡眠薬や精神安定剤など、本来であれば医師の処方が必要な薬。なぜこんなところで売られているのか。尋ねようとすると…
突然、強面の男が「兄さん何? ポリ(警察)ちゃうやろな?」と声をかけてきました。
【記者】
「違いますよー」
見張り役なのか、相当警戒しているようです。引き続き、取材しようとすると、男たちが取材班の様子をずっと見ています。この日は、取材を打ち切りました。
■警察が闇露店の摘発へ 逮捕前の密売人は「月80万は軽くいく」
そんなある日、警察が西成闇露店の摘発に乗り出しました。
【記者リポート】
「大阪府警の捜査員が差し押さえた商品を調べています」
警察はこの日、医薬品を無許可で販売した疑いで、竹内雅也被告(41)を現行犯逮捕しました。(麻薬及び向精神薬取締法違反の罪で起訴)
実は…取材班は、逮捕される前の竹内被告に話を聞いていました。
【竹内雅也被告】
「こういった具合で…」
【記者】
「めちゃくちゃいっぱいありますね」
【竹内雅也被告】
「これは…シャブやってる人とか、覚醒剤に溺れている人が、この手の薬を買っていく。こっちは…1番人気商品、睡眠導入剤やね」
2021年4月頃から密売を始めたという竹内被告は、多くの薬を常備していました。薬の知識は密売仲間から教わったと言います。
–Q:早朝から朝にかけてやる意味は?
【竹内雅也被告】
「警察対策やね。薬剤師の免許持っていないし、医者の免許を持っているわけでもないから、色んな法律に引っかかるから」
–Q:1カ月の収入は?
【竹内雅也被告】
「軽く80万円くらいはいくやろうね、50万~80万は絶対あると思う」
■密売人語るカラクリ 薬の“入手ルート”は生活保護!?
なぜ薬を入手できるのかと問うと…
【竹内雅也被告】
「生活保護者が売りに来るので。医療扶助を受けているので。みんな、それ(医療扶助)を使って普通に薬を処方してもらって。あえて自分は飲まないで、高値で売れると分かっている。色んな病院を渡って同じ薬を上手に集めている人もいるから」
–Q:そんな簡単に病院で薬もらえるもの?
【竹内雅也被告】
「う~ん、役所が緩いんやろうね。働きたくないから生活保護受けているわけではない、働けない体やから生活保護受けているので。だからその人らは病院に通っている。役所の人らも生活保護の人らに緩いところは緩いですよね」
何と“生活保護制度”を悪用しているというのです。
生活保護受給者が病院に行く場合、役所に行って申請し、医療券などが発行されます。その医療券があると病院での治療費や薬代がかからず、支払いはすべて税金で賄われるのです。
この制度を悪用して竹内被告に薬を流していたのが、水内雅士容疑者(51)。
警察が把握しているだけでも、水内容疑者は10カ月でおよそ380回病院を受診し、なんと5万3000錠もの医薬品を手にしていました。
これが西成闇露店で薬が流通するカラクリで、闇露店で売られているのは、主に睡眠薬や精神安定剤などです。
■医薬品の闇流出 専門家「次の犯罪に使われてしまう」リスクを指摘
医薬品の不適切流通に詳しい専門家は「精神科で処方される、こうした薬だからこそ簡単に入手できる」と言います。
【金沢大学 吉田直子 助教】
「本人が『眠れない』と言えば薬を出しましょう、ということになると思います。『ちゃんと飲んでるの?』と聞いて、『飲んでます』と言われたら出すしかない」
–Q:薬を出す側は気付かないですか?
【金沢大学 吉田直子 助教】
「あまりにも度を超えた量を欲しいとなれば、本当に1人で飲んでいるのかと疑う可能性はあると思います。『転売目的じゃないの?』と聞ける関係にあれば別ですが、よっぽどじゃないとそんなこと聞かないと思いますし、聞いても『自分で飲んでいる』と言われたら、『そうなんだ』と理解するしかない状況にあると思う」
さらに吉田助教は、闇で流通する“薬”には、新たな犯罪が起きるリスクもあると指摘します。
【金沢大学 吉田直子 助教】
「処方箋無しで入手できるので、足が付かないし、簡単に買うことができる。オーバードーズ(過剰摂取)で死に至ることもありますし、レイプドラッグなどの犯罪に使われてしまう懸念も十分にあると思います」
■「慎重な対応が必要」と大阪市長 密売人は「誇りを持っている」?
闇露店で薬を買う客はどんな人物なのかー。
薬物やアルコールなどの依存症に苦しむ人たちを支援する団体で、現在、回復プログラムを受けている元覚醒剤常用者のAさん(42)は、以前、闇露店で薬を買ったことがあります。
Aさんは19歳から覚醒剤に溺れていました。
【Aさん】
「覚醒剤剤を使うと寝られなくなるので。寝られなくなった時に、睡眠薬や安定剤が必要となる。どこか手に入るところがないか、となる。体に覚醒剤が入っているので病院に行くのが怖い。体に覚醒剤が入っているときはやっぱり西成。近くで探すよりも西成行った方が確実なので」
Aさんは闇露店で購入した薬を使って5年前に自殺しようとしたこともあったということです。
【Aさん】
「オーバードーズ(過剰摂取)っていう感じだったんですけど、睡眠薬を80錠、酔い止めを70錠準備して途中で気絶したので60錠弱くらい。西成で睡眠薬を買って薬局で酔い止めを買って東京に持ち帰った」
社会をむしばんでいく、闇で流れる薬。
生活保護制度が悪用されることについて、西成区役所に聞くと「捜査中のため答えられない」とのことでした。
そこで、市のトップである松井市長に見解を聞きました。
【松井市長】
「例えばいったんは、医療費をいくらか支払ってもらって、後に還付するとか。そういう制度があればこういうことも少しは抑えられるんじゃないかと思うけど、(医療扶助に)規制をかけることにどうなんだという意見もあるので慎重な対応がいると思います」
税金を元手に横行する闇での薬の流通はなくならないのかー。
逮捕される前の密売人の竹内被告は、薬の違法販売について悪びれずにこう言い放ちました。
【竹内雅也被告】
「胸張って誇り持って働いているから、この商売を僕は一生続けていこうと思っているので。いくら刑務所にぶち込まれようと罪悪感は全くないです。罪悪感があったらこの商売やってないです」
生活保護受給者の多くは医療扶助を正しく使っています。それだけに、違法な医薬品の流通が、適正な医療扶助を圧迫しないように対策が必要です。
(2022年9月22日放送)