コロナ渦でも観光客ひしめく大阪・生野区「コリアタウン」 1歳女児が死亡の “悲惨な事故” 「一番心配していたことが起こってしまった」と地元住民 1日2回『車の通行禁止時間帯』は40年以上前から見直されず 歩行者と車が交錯する商店街の課題は? 2022年08月12日
韓国に行った気分を味わえる人気スポット”コリアタウン”。
コロナ禍でもたくさんの観光客であふれています。
歩行者天国かと思いきや、時間によっては車も通ります。
歩行者と車が入り組む商店街。
その課題をツイセキしました。
■「通行禁止時間帯」になぜ車が? 観光地”コリアタウン”で起きた悲劇
大阪市生野区にあるコリアタウン。
キムチ店やコスメショップなどおよそ120の店が建ち並び、年間200万人以上もの観光客が訪れる人気スポットとしても知られています。
8月1日この場所で、悲惨な事故が起きました。
商店街に入って来た一台の車が1歳の女の子と接触し、逃走。
女の子は病院に運ばれましたが、死亡しました。
車の通行は禁止されていた時間帯のことでした。
ひき逃げなどの疑いで逮捕されたのは、韓国籍の固城義和こと鄭仁煥容疑者(74)は、「通行禁止時間だとは知らなかった」と話しています。
■なぜ?1日に何度も変わる「通行規制」 しかし…車は時間帯を問わず“出入り”
この道は、午前10時から正午までと、午後4時から午後6時までの1日2回、車の通行が禁止される時間帯があります。
しかし、看板は道の端に置かれていて、入り口にバリケードなどもないため、時間帯を問わず車が自由に入れてしまいます。
なぜ車が通れる時間と通ってはいけない時間が混在しているのでしょうか。
【大阪コリアタウン 由良英明副理事長】
「昔は普通の商店街で、昼間は昼食の買い出し、夕方は夕食の買い出し(があったから)その時間帯は危ないということで(車の進入を)止めていた。今は形態が変わって、普通の買い出しの商店街から、ほぼ観光地ということで逆に(車が)通れる時間帯がお客さまが多くて危険だ」
警察によると、この通行禁止時間が設定されたのは、今から40年以上前のこと。
当時は、在日コリアンを中心とした近隣住民の台所としての役割を担っていて、それに合わせた通行規制が行われていたのです。
しかし、近年、韓流ブームなどにより、終日多くの人が訪れる”観光地”へと変わりました。
■普通の商店街から観光地へ… コリアタウンの「通行禁止時間」 今の実態に合っているのか?
40年以上見直されなかったルールは、今の実態に合っているのでしょうか。
実際に、記者が車が通れる時間に走ってみると…
【酒井麻衣記者 リポート】
「12時半過ぎです。通行可能時間帯なのですが、多くの人が歩いていて、車での通行は非常に危険な状況です」
通行してよい時間帯でさえも車は観光客たちの間を縫うようにしか進めません。
観光客もこの状況に困惑しています。
–Q:車が通行できると知っていましたか?
【観光客たち】
「知らなかったです。(車が)通れないものだと思ってました」
「まさか通って来ると思わないですね。さっきもぴゃーって走っていってたし。人ごとじゃない」
「この時間、結構人通りあるんで通行止めにしてもらった方が、子供達も安心して通れると思う」
車の通行禁止の時間帯には、進入しようとする車を商店街の人が必死で止めることも…
【進入しようとする車の運転手】
「ここもう道あらへんがな」
【止めている商店街の人】
「バックしてもらうしかない」
【進入しようとする車の運転手】
「バックできひんねん。バック危ない。今日初めて来たから辛抱してくれ」
交通心理の専門家は、車の通行禁止時間の設定について、「分かりにくいのでは?」と指摘します。
【帝塚山大学 蓮花一己学長】
「ドライバーにとっては不便ではないかと感じますね。ある程度、連続的な時間がいいと思う。時間設定は、いろんな利害関係者の声を聞いてドライバーも含めて決めたらいかがでしょうか」
■商店街が「通行禁止時間帯」拡大を警察に陳情も… 反対の声も
しかし、商店街もこの問題を放置していたわけではありません。
【大阪コリアタウン 由良副理事長】
「警察の方に陳情に行きまして、(車が)通れる時間帯がお客様が多くて小さな事故が多発して。なんとか『朝から夕方まで止めれないか』ということでお願いに行きました」
商店街によると、5年前、警察に対し通行禁止時間の拡大を訴えましたが、公道の通行規制を拡大するには、商店街だけでなく近隣住民の意見をまとめることを求められ、先延ばしになってしまったということです。
【大阪コリアタウン 由良副理事長】
「あまりにもハードルが高すぎて。私たちも仕事してますので、なかなか進まず今に至ってしまった。危ない箇所を見つけたら、国民市民の安全のために先に動いてくれる。それが(警察の)本来の姿だと思う」
しかし、生活のために商店街を道路として利用する住民もいます。
【近隣住民】
「うちは困りますね。主人も車いすだからね。商売に関係のない者は、取り締まり(規制を)きつくされたら便利悪いです」
–Q:生活に影響が?
【近隣住民】
「ええ」
観光地であり、生活道路でもある商店街ならではの通行規制の難しさがあるようです。
【帝塚山大学 蓮花学長】
「生活道路で地域の人たちが、中心に過ごしているところは時間規制しやすい。ただ商店街の場合は、単純な生活道路で地域住民だけが過ごすという空間だけではなくて、消費者がたくさん来る。それを求めているわけですから…そこを規制をかけるのは、よほど色んな側面を検討しなければいけない」
■車以外にも…コリアタウンの「課題」 歩行者阻む”せり出す台やテント”
課題は通行規制だけではありません。
道路には、商品が並ぶ台やテントがせり出していて、店の一部のようになっています。
それにより道幅が狭まり、歩行者が道の真ん中を歩かざるを得ません。
公道では、道路上に物を置くことは”道路交通法違反”に当たる可能性もあります。
【大阪コリアタウン 由良副理事長】
「みなさん自分の商売が大切なので、我々が回ってお願いしたにもかかわらず、なかなか改善できていないというのが実情。
ちゃんとされている商店の方も多いんですよ。自分の敷地内できっちり。そういうお店からすれば、自分のところ(路上にせり出しているお店)が目立ちたいから、お客さんを多くとり入れたいからということで、不公平感がある。
お客さまの安全にもつながるのできっちりと自分の敷地内でやるように理事会の方でも進めていかなくてはいけないと」
■商店街の安全…どう守れば? 近隣住民とタッグの東大阪の商店街「取り組み」 時代の変化に合った“対策”求められる
一方で、事故を減らそうと近隣住民と協力し、通行規制に取り組んでいる商店街もあります。
東大阪市にある商店街。
朝7時までは何台もの車がアーケードを通り過ぎていますが、店が開く時間になると、それにあわせて看板を出し、車が通行できないようにしています。
【商店街の人】
「だいたい店開けて営業する時間と同時にくらいに(看板を置いています)。もう慣れました」
もともとは路線バスや車が通る国道でしたが、商店街側が車両の通行禁止を訴え、近隣住民やバス会社、警察などと協議して、午前7時から午後8時まで車両の通行を禁止にしました。
商店街の人の協力を得ながら、無理のない範囲で看板を設置し、対策を続けてきました。
コリアタウンでも以前は看板を置いていましたが、壊されたり盗まれたりすることが多く、また店の人の協力も得られなくなり一時中止。
しかし、今回の悲惨な事故を受け、再び看板を置くようになりました。
こうした実態に行政は…
【生野区役所 筋原章博区長】
「区役所の方でコリアタウンにかかる安全対策の検討会議を、8月中にも早急に立ち上げて進めていきたい。行政、警察、近隣住民ら関係者を集め、適切な対策を考えていく予定です」
犠牲となった小さな命。
安全で便利な商店街とは。
観光地と公道が重なり合うこの場所に、”時代の変化にあった対策”が急がれます。
(2022年8月11日放送)