ごみ捨て場から、許可なく持ち去られる空き缶。
条例で禁止している自治体もありますが、一律禁止には課題も…
各地で問題になっている、空き缶の持ち去り。解決策はあるのでしょうか?
■早朝からパトロール 狙われる“アルミ缶”
午前7時ごろ、大阪府・吹田市。
【吹田市 職員】
「あれちゃうか? トラックが(道を)右に入っていきよったな」
早朝から車に乗り込み、パトロールを行う吹田市の職員。
彼らが警戒しているのが、アルミ缶をはじめとする資源ごみの持ち去りです。
車を降り、持ち去りを行った疑いのある男性に声をかけます。
【吹田市 職員】
「吹田市役所 環境部 事業課なんですが、今何をされていましたかね? 勝手に資源物を取る行為っていうのは絶対しないようにしてください」
吹田市では車2台に分かれて、午前6時半すぎから午前8時半ごろまで、およそ2時間パトロールを続けています。
資源ごみの中でも、換金効率のよいアルミ缶はよく狙われるといいます。
吹田市では、缶を潰す音がうるさいといった苦情が相次いだため、資源ごみの勝手な持ち去りを、2019年度から禁止しました。
この日のパトロールは、住宅街です。
【吹田市 職員】
「今日パトロールしている所は、ぎょうさんあるんじゃないですか? アルミ缶」
すると…
【吹田市 職員】
「あっ、おった!」
急いで車を降りた職員の先には…
【吹田市 職員】
「ちょっといいですか。あの、これ了解とか取られてないですよね?」
自転車の荷台には、アルミ缶が積まれています。
【吹田市 職員】
「回収しとった缶はどれ?(ごみ捨て場に)戻して」
【吹田市 職員】
「必ず次から無断で回収せんように。次、持ち去りをしたら勧告書出したりとか、厳しい行政処分とかになったりするんで、注意してください」
今回も、無断で持ち去ろうとしていたようです。
【吹田市 職員】
「持ち去りになるので、それはだめですよということで、何回か注意をさせてもらってるんですけど。“いたちごっこ”じゃないですが、言ってから、一時やめていただける方もいてるんですけど、また同じようなことをされる」
■自治体の収入になる「資源ごみ」 数千万の売り上げにも
同様の状況は、福岡市でも…
【福岡市のパトロール】
「今日取ったりしてないですか? もう一回尋ねますけど。この注意書きはお兄さんに今日お渡ししておきますね」
福岡市では、夕方以降に夜間パトロールが行われています。
2014年からアルミ缶などの家庭ごみの持ち去りを禁止し、市民から寄せられる苦情の件数は減り続けていましたが、その件数が、昨年度は前の年の2.6倍に急上昇。
増加する持ち去り業者に対応すべく、福岡市は、夕方以降のパトロールの体制を、2台4人から4台8人に倍増しました。
この日、パトロールカーが走っていたのは、閑静な住宅街。
持ち去られそうなごみはないか、指導員がくまなくチェックしていきます。
すると…
【巡回指導員】
「これはやられますね。取るならあれでしょうね、今日」
ありました、アルミ缶の入った袋の山。
指導員の読み通り、1台の軽トラックが停車し、男性が荷台に袋を積み込んでいきます。
取材クルーが声を掛けると…
――Q:今何を持っていかれましたか?
「(カメラを)止めて、(機材を)壊すよ」
その場から早々に去っていきました。
こうした持ち去り行為。実は、自治体の収入の減少につながります。
一般的に自治体は、回収したごみの中からアルミなどを分別します。
その後、それぞれリサイクル業者に運び込んで売却し、売り上げが自治体の収入となります。
福岡市では2020年度、回収できたアルミだけでおよそ5900万円の収入がありました。
持ち去りがなければ、さらなる収入があったとみられます。
■急騰したアルミ缶の買取価格 背景にはあの問題が…
なぜ今、アルミ缶をはじめとした資源ごみの持ち去りが増えているのでしょうか。
大阪府内にある金属の買取業者に聞いてみると…
【金属買取業者】
「(アルミ缶の買取価格は)約2倍ほどに上がってますね」
――Q:1年で1kg何円になりましたか?
「120円から240円に上がってますね」
「持ち込みとか結構あります。生活の足しにしている人もいると思う」
ウクライナへの侵攻で、ロシアからの物流がストップ。
アルミの買取価格が、いまだかつてないほど上昇したといいます。
このアルミ価格の高騰が、持ち去りが増える要因になっているとみられます。
■全国で広がる「持ち去り禁止」の条例 一方、禁止されては困る人たちも…
吹田市や福岡市のように持ち去りを禁止する動きは、全国に広がっています。
関西では、兵庫県尼崎市も議会で条例を審議しています。
既に大都市を中心に、持ち去りに何らかの規制を設けている自治体は、少なくとも395に上ります(2017年度環境省調べ)。
ただ、一律に持ち去りを禁止されると困る人たちもいます。
空き缶を集め、売ったお金でなんとか生活をやり繰りする生活困窮者です。
大阪市内で空き缶を集める人に話を聞いてみると…
――Q:これでいくらくらいですか?
「3000円いくかいけへんかぐらいちゃうかなと思うんやけどね。人のもん取ったり詐欺やったり、そんなんとはまた違うと思うんですわ。公園に住んでる人なんかもおるんですわ。そういう人は毎日回ってはるわ」
――Q:これを売ったらいくらになります?
「300円ぐらいちゃう? コンビニでラーメンとかいろいろ買えるやん。(空き缶を)集めてご飯買うて、そんで、またそれの繰り返しや。だから(お金は)残らへんって」
こうした生活困窮者の貴重な収入源となっている、空き缶の収集。
一律に禁止する条例には、慎重な声もあります。
【ホームレス問題に詳しい 日本福祉大学 山田壮志郎教授】
「苦情の多くは、大量に悪質な業者がアルミ缶を持って行ってしまうというところにあると思うので。ホームレスの人たちが生きるすべを得るため、『生きる糧』を得るために空き缶を持っていくことについて、それを(悪質な業者と)一緒にしてしまうっていうことは、問題があるんじゃないかなと思います」
■古紙や衣類は持ち去り禁止、空き缶は可 大阪市の例
日本の自治体で最も多い、およそ900人のホームレスが暮らしている大阪市。
資源ごみのうち、古紙や衣類の持ち去りについては条例で禁止していますが、空き缶だけは対象外にしています。
【大阪市環境局 事業部 家庭ごみ減量課 小松順司 課長】
「(空き缶の収集を)自立の手段としていらっしゃる方も多数おられるということで、福祉的な観点を勘案いたしまして、(空き缶の)持ち去り行為自体を直ちに規制の対象とするということには、慎重にならざるを得ない」
空き缶収集での自立と持ち去りの禁止。
根本的に問題を解決するために、専門家は別の次元での対応が必要だと話します。
【ホームレス問題に詳しい 日本福祉大学 山田壮志郎教授】
「(行政は)“就労の場”を創出するであるとか、その人(生活困窮者)が空き缶集めをしなくても済むような、そういう支援っていうものを講じていくっていうことが必要だと思うわけです」
一律で持ち去りを禁止する自治体。
空き缶だけを残す自治体。
問題解決に向けた対策が、求められています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月16日放送)