「糖尿病の薬で痩せられる」SNSで広がるメディカルダイエット 3カ月で9キロ痩せたと発信する女性も… “適応外”使用の副作用で膵炎リスクは9倍に 健康被害を訴える声も多数 2023年11月25日
運動も食事制限もせず痩せられる…そんな魅力的なうたい文句で注目されるダイエットが今、広がっています。
あくまで手軽なダイエットだとして、人に勧めているインフルエンサーもいます。その一方で、こんな声も聞こえてきます。
【SNSの投稿】
「めまいがやばすぎて無理」
「気分悪すぎる。飲まなきゃよかった」
【日本医師会 宮川政昭常任理事】
「やせ薬として“不適切”な使用をされている実態に、非常に憂いているわけです」
一体、何が起きているのでしょうか。
■薬でダイエット?「お金さえ払えば痩せられる」
今、若い女性を中心に広がるダイエット法「メディカルダイエット」。「医療ダイエット」とも呼ばれ、本来、ダイエット用ではない薬を使って痩せるというものです。
「食事制限・運動不要」
「医師推奨。1日1回飲むだけ!」
魅力的なうたい文句が並ぶこのダイエット方法について、街の人に聞いてみました。
Q.薬を使ったダイエットって聞いたことありますか?
【30代女性】
「X(旧ツイッター)とかで流れてきて、1カ月で6キロ痩せたって、ビフォーアフターで写真とか載っていて」
【10代女性】
「痩せる注射があるらしくて、それをやっている子はいます。なんか、食欲がなくなる注射みたいな」
【20代女性】
「興味ないことはないんですけど、ちょっと不安はありますね」
多くの若い女性が知っていました。その理由は、SNS上でメディカルダイエットの成功をアピールする投稿の数々です。その中の一人、3カ月で9キロ痩せたと発信しているインフルエンサーに、その実態を教えてもらいました。
InstagramとTikTok合わせて14万人のフォロワーがいる佳恋(かれん)さん(27歳)。薬を飲み始めたのは5カ月前で、今より10キロほど太っていました。
【佳恋さん】
「“こいつ意外と太ってない?”とか、誹謗中傷がきたりして、悔しいなと思って。で、相談した医師がいて、短期間で効果が出るっていう話だったので始めました」
メディカルダイエットを実際に行った効果については、次のように話しました。
【佳恋さん】
「食欲がなくなるので、運動しなくてもいいし、がんばらなきゃって気を張る必要がなかった。本当に手軽だなって思いました。私はこういう方法で痩せて自己肯定感が上がって、毎日楽しいですっていうのをあくまで発信しているだけで。一つの方法を紹介しているという感覚ですね」
実は、彼女が飲んでいるのは「2型糖尿病の治療薬」です。血糖値を下げ、食欲を抑える効能がダイエットにも有効だとして、飲み薬の「リベルサス」や注射剤などを、一部のクリニックが処方しています。
しかし、あくまで本来は糖尿病の治療のために認められた薬です。ダイエット目的の場合、健康保険の対象ではなく自由診療になるため、佳恋さんが飲む薬の価格は1錠600円ほど。
それでも佳恋さんは、「お金さえ払えば痩せられるなら、全然使っていいと思います」といいます。
■膵炎のリスクが9倍 副作用で健康被害の恐れ
こうした使われ方が広がってきていることについて、製薬会社はどのように考えているのでしょうか。
【2型糖尿病の注射剤を製造する日本イーライリリー 大川みづきさん】
「世界的に需要が急速に拡大しているという現状がございますので、ここにさらなる拍車をかけて、適応外使用というのが今後増えていくことになると、やはり、本来こちらの製剤を必要とされる2型糖尿病患者さんの元へのお届けが、難しくなる可能性もゼロではございません」
製薬会社4社は、ダイエット目的で使われていることを把握していて、実態調査を進めています。
広がるメディカルダイエットですが、SNSにはこんな声も。
「めまいがやばすぎて無理」
「やっぱりリベルサス合わへん。久々に飲んだら気分悪すぎる」
「リベルサス飲んだけど気持ち悪さとめまいが。飲まなきゃよかった」
めまいや吐き気といった健康被害を訴える声が、数多く上がっています。
【大川さん】
「2型糖尿病の患者ではない方、血糖値が別に高くもない方に、臨床試験をそもそも行っておりませんので、確かな有効性と安全性が認められていない方への処方になると、やはり危険性が伴います」
こうした事態に、日本医師会も反応しました。記者会見で、何度も批判を繰り返しています。
【日本医師会 宮川政昭常任理事】
「用法・用量および、使用上の注意に従って使用されていないことを“適応外”といいます。ということは、つまりダイエット目的では、これは“処方”ということにならないという形です」
日本医師会によると、ダイエット目的でこの薬を使うと、副作用の膵炎のリスクが9倍になる研究結果も出ているということです。こうした健康リスクなどから、ダイエット目的での処方は「禁止すべき」、また、目的から外れた使い方は「医の倫理にも反する」としています。
それでも広がり続ける背景にあると考えられているのが、コロナ禍に導入された“オンライン診療”です。電話やZoomなどで医師の診察を受けられるのがオンライン診療ですが、取材班が調べたところ、中には病歴や妊娠の有無などについて、LINEで回答しただけで診察が終わったクリニックもありました。
そして後日、薬が送られてきました。LINEのやりとりのみで薬が手に入ったのです。これは診察といえるのでしょうか。
取材班の問い合わせに対し、クリニックは「十分に診察を行っていると考えている」と主張しました。
しかし、厚生労働省が出すガイドラインには「オンライン診療は文字、写真および録画動画のみのやりとりで完結してはならない」と記載されています。大阪市保健所に確認すると、ガイドラインの違反によって行政指導の対象になる可能性があるということです。
“薬を使うだけで痩せられる”。その手軽さの裏で、健康な体を病気の危険にさらしたり、本当に薬を必要とする患者を苦しめることになるかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年11月23日放送)