栗、黒豆、ぼたん鍋…秋のグルメが豊富な丹波篠山 平安時代から伝わる伝統工芸品…日本と西洋の架け橋となった人物とは【兵動大樹の今昔さんぽ 関西テレビ「newsランナー」】 2023年10月24日
1枚の写真から街を再発見!兵動大樹の今昔さんぽ
■秋の味覚が豊富な丹波篠山
【兵動さん】
「今回は兵庫県丹波篠山市に来ております。篠山城跡、由緒ある場所からスタートです。今日の写真は?」
これは1955年(昭和30年)、丹波篠山市で撮影された写真です。どこの風景か分かりますか?
【兵動さん】
「昔ながらの家や山があり、そしていっぱい壺が並んでいますね。丹波って、今から栗とか黒豆の時期でしょ。有名ですもんね」
丹波篠山では、これから秋の味覚シーズン。名物の栗や黒豆、ぼたん鍋などを求める観光客でにぎわいます。
【兵動さん】
「(写っている壺が)栗壺ということはないよね。栗が満タンに入っていて。(その横にある小さな壺が)黒豆壺で、詰め放題で買えるみたいな…ちゃうわな。でもなんか焼き物の場所っぽいよね。(壺を持って写っている)この方が海外の人っぽく見えるねんけどな。ええ写真やな」
■日本を代表する“焼き物”の産地
それでは聞き込みスタートです。
【兵動さん】
「ちょっと写真を見てもらってもいいですか」
【街の人】
「立杭焼(たちくいやき)ですよね。篠山でも今田(こんだ)の方です」
【兵動さん】
「立杭焼というのがあるんですか?」
【街の人】
「日本の六窯の一つです」
六窯とは、日本六古窯(にほんろっこよう)と呼ばれ、平安時代末期から現在まで生産が続いている、日本の代表的な6つの窯のことです。今回の写真に写っているのはそのうちの一つではないか、とのこと。
歩いていると、「焼き栗」の文字を見つけました。
【兵動さん】
「もう(旬の)時期ですか?」
【丹波篠山 くりの里 店員】
「そうですね。これから丹波の栗が出回りますね」
焼きたての栗を一ついただきました。
【兵動さん】
「おいしいね。甘味に品があるわ。甘いけど、甘ったるくない」
ここでも写真を見てもらいました。
【店員】
「立杭焼ではないかな?丹波焼っていうんですかね?」
【兵動さん】
「とりあえずその“立杭”に行って、そこで話聞いた方がいいですね」
おいしい栗を食べてご満悦の兵動さん、車で20分ほどの今田町立杭へ向かいます。
■窯元巡りを楽しめる立杭
【兵動さん】
「立杭に来ました。きれいでのどかな、ええとこやな。どこを見ても絵になる」
歩いていると、“やきもの坂”という坂がありました。その名の通り、坂道に窯元が並んでいます。通りがかった人に声をかけてみると…。
【兵動さん】
「こんにちは。(坂の)上に上がったら焼き物屋さんがあるんですか?」
【稲右衛門窯 上中剛司さん】
「そうなんです。坂の上に3軒、焼き物屋さんがあります。(坂を上がってすぐの場所にあるのが)うちのお店なんです」
この方、「稲右衛門(いなえもん)窯」という窯元の方でした。
ギャラリーとカフェを併設した「INAEMON pottery studio & cafe」の中を見せてもらうと、カラフルでかわいい焼き物が並んでいました。
【兵動さん】
「なんか思っていた焼き物と感じが違うな。一つ気になっているのが、立杭焼と丹波焼って別物なんですか?」
【上中さん】
「同じです。もともとは“丹波立杭焼”という名称でしたが、今は“丹波焼”で統一しています」
【兵動さん】
「(上中さんは)作家さんということですよね?」
【上中さん】
「はい。僕で11代目です」
【兵動さん】
「11(代目)?このお店はいつから?」
【上中さん】
「去年の秋にオープンしました」
創業から280年以上の稲右衛門窯。
【上中さん】
「もともと祖父が使っていた仕事場で、ここで作品を焼いていたんです。長い間ここは倉庫だったんですが、すごく雰囲気のいい空間で、これだけ大きなれんが窯がきれいに残っているのも、もったいないなと思ってリノベーションしました」
【兵動さん】
「じいちゃんが使っていたのをみんなに見てほしいということやね」
【上中さん】
「そうです。歴史を感じていただきたいですし、こういう空間で、窯元路地歩きの最中にこちらでくつろいでいただけるスペースもできたらなということで」
立杭では50軒以上の窯元が軒を連ね、自分好みの器を探す窯元散策が楽しめます。
【兵動さん】
「そこまで高くないねん。(小皿を指して)これなんか1枚990円」
【上中さん】
「結構リーズナブルですね。『陶器まつり』になるとさらに少しお安くなったりします」
【兵動さん】
「(こちらの焼き物は)登り窯で焼いているの?」
【上中さん】
「いえ、ガス窯や電気窯といった近代的な窯がありまして、(仕上がりを)狙った作品が焼けるんです。いわゆる登り窯、薪窯には“偶然の美”があるので、そこが薪窯の魅力です」
丹波焼について教えてもらった兵動さん、ここで写真の場所を聞いてみました。しかし、写真については分からないとのこと。登り窯で焼いた作品が見られる窯元を紹介してもらい、そこへ行ってみることにしました。
【兵動さん】
「窯巡り、面白いよね」
紹介してもらった「tanbungama109(丹文窯)」に到着。中に入ると、黒を基調にしたスタイリッシュなギャラリーでした。
【兵動さん】
「何代目なんですか?」
【丹文窯 大西雅文さん】
「僕で4代目になります」
【兵動さん】
「なんかイケてる兄貴が多いよね。男前が多い。あの写真もそう(大西さん)でしょ?」
大西さんが窯に薪をくべる様子の写真が飾られていました。
【大西さん】
「そうですね。これが登り窯で焼いている時の写真ですね」
【兵動さん】
「登り窯ってやっぱり大変なんですか?」
【大西さん】
「大変です。三日三晩焼き続けます。薪をくべないといけないので、交代で仮眠しながら」
並んでいる器を見てみると、先ほどお邪魔した窯元の器とは風合いが全く異なる印象です。
【大西さん】
「釉薬(ゆうやく)を塗らないので、出てくるまで(仕上がりが)分からないんですよ」
釉薬とは、焼く前に器の表面に塗っておく薬品のこと。それが熱によってガラス質となり、艶や風合いが出るのです。こちらの作品は釉薬を使わないため、登り窯の中で巻き上がる灰が釉薬の役目となり、器の艶や色合いになるんだとか。
ここで写真について聞いてみると…。
【大西さん】
「昔の歴史を知ってはる方…丹窓窯の茂子さんがご存じじゃないかなと思います」
【兵動さん】
「“丹窓窯の茂子”!異名のような…。(丹波は同じ苗字の方が多いので)下の名前で呼ぶんや」
それでは、「丹窓窯」の茂子さんを訪ねます。
■日本と西洋の焼き物文化の架け橋となったある人物
丹窓窯はご主人が亡くなってから、その技法を引き継ぎ、8代目となる市野茂子さんが跡を継いでいる窯元です。
丹窓窯で茂子さんに写真を見てもらいました。今度こそ何か分かるでしょうか。
【兵動さん】
「(写真を見せながら)外国の方が写っているんですけど」
【丹窓窯 市野茂子さん】
「この方はジャネット・ダーネルさんという方です。彼女はうちで2年間、勉強していたんです」
写真に映っていたのは、丹窓窯に住み込みで修行していたジャネットさんだということが判明しました。実はこの方、大学生の頃にイギリスの大陶芸家、バーナード・リーチの講義を受け、陶芸に興味を持ち、日本の陶芸を学びたいという思いで立杭にやってきたのです。さらに、その講義をしていたリーチさんも立杭と縁がありました。
【兵動さん】
「じゃあリーチさんも立杭に来られてたんですか?」
【茂子さん】
「(写真を指し)これが(リーチさんが)立杭に初めて来られた時(の写真)。日本と西洋の架け橋になった方なんです」
【兵動さん】
「この方(ジャネットさん)は(修行後)アメリカに戻って陶芸家になられたんですか?」
【茂子さん】
「アメリカには戻らんとイギリスに行かれて、リーチさんと結婚したんです」
【兵動さん】
「え?すごい年の差ちゃいます?(当時ジャネットさんは30歳、リーチさんは70歳くらい)40歳差?すごいなリーチさん!」
結婚後も、2人で立杭を訪れていたのだそうです。
【兵動さん】
「逆に日本からイギリスに勉強しに行くということはなかったんですか?」
【茂子さん】
「私の主人が4年間、リーチさんのところへ勉強しに行ったんです。“ハンドルもの”…イギリスはカップ、日本は湯飲みでしたから、カップのハンドルのつけ方の勉強とか、そういうものを学ぶために行ったんですね」
ご主人がリーチさんの元へ修行に行く前は、立杭では植木鉢や水瓶などを主に製作していたのです。今回の写真もよく見ると、植木鉢をひっくり返して合わせたもの。そこへ西洋文化が入ることで変化していったのです。
【茂子さん】
「昭和40年から50年に、焼き物ブームになったんです」
【兵動さん】
「(ブームの)核になる部分をご主人がリーチさんのところへ行って勉強してきたんですね。この写真にいろんなものが隠されているというか、歴史が詰まっていますね」
そんな写真の撮影場所はどこなのでしょうか。
【茂子さん】
「ここから500メートルほど離れたところにあるんですけど、(写真の)この窯の前が、“大熊窯”さんという窯元なんです。(大熊窯を目指して行けば)この場所があります」
早速、教えてもらった「大熊窯」へ。
【兵動さん】
「こんにちは。(この写真と)同じところから写真を撮りたいんです」
【大熊窯 大上 巧さん】
「(写っているのは)あの山でしょ?」
見てみると、写真に写っている山がありました。
【兵動さん】
「はい、チーズ。めちゃくちゃええとこですね。素敵な焼き物、丹波焼がたくさんあります。景色も最高です。僕、ほんまにまた来ますから、その時は(大熊窯の)中を見せてもらってもいいですか?」
【大上さん】
「どうぞ。今日は?」
【兵動さん】
「ちょっと見ていきます。皆さんもどうでしょうか。ありがとうございました」
(関西テレビ「newsランナー」2023年10月13日放送)