東京駐在のカンテレ記者が、キーパーソンに取材するWEB特別レポート。
今回は、担当大臣が新設されたことで、注目を集める「孤独・孤立」についてです。
慶應義塾大学3年の大空幸星氏は、去年3月、NPO法人「あなたのいばしょ」を設立。24時間365日体制で、チャットで自殺などの相談を受け付けています。大空さんは今、「望まない孤独」への対応が必要だと訴えています。
一方、衆議院議員の鈴木貴子氏は、若手で「孤独・孤立対策」の勉強会を立ち上げ、官邸に緊急提言を行うなど先頭に立って問題解決に乗り出しています。
なぜ今、「孤独」への対策が必要なのか。キーパーソン2人に聞きました。
第三者が決める孤独ではない アプローチしたいのは主観的な感情の”孤独“
――Q:まず鈴木議員が「孤独・孤立」に問題意識を持ったきっかけは
【鈴木議員】
(きっかけは)大空君です。
はじめましては数年前にさかのぼるんですが、去年11月の末に連絡をもらって、その時に「孤独・孤立」の話を聞いて、これはやばいねと。
また、今の政権が打ち出しきれていないメッセージって、ここだとも思ったんですよね。
私個人で聞いても仕方ないから、党の青年局で受けてしまえということで、その足で、加藤官房長官のアポも取りました。官房長官のところに大空君をお連れして、長官に問題意識を共有させていただいたという流れで1週間くらいですかね。
――Q:かなりの駆け足ですね。また、そこからの担当大臣の設置までもすごく早い。
【鈴木議員】
今のところ超党派の枠組み・プラットフォームはないですけど、各党がそれぞれの立場で予算委員会であるとか、SNSで発信をされてますよね。
菅総理自身も以前から「自助・共助・公助、そして絆」で売っている。私が総裁選の期間中に総理に話をさせてもらってた時に、「総理いつも、自助・公助・共助とおっしゃってるじゃないですか」って言ったら、「いやいや僕は『そして絆』って付けてるから」って訂正が入るんです。意外と細かくて「すいません。そして絆ですね」って。
何が言いたいかというと、社会的な繋がりということに対して、菅総理の思いは強いんですよ。
その感覚を持ち合わせているから、「孤独」対策についても多分わかってくれるという感覚があったんです。
――Q:そもそも、「孤独」をどのように定義しているんですか
【鈴木議員】
やっぱねそこですよね。正直言って、新設された「孤独・孤立対策担当室」も走りながら考えようとしてると思うんです。今まで主観的な感情に介入せずで、ここの領域に入ると政治介入で、内心への介入だみたいな部分があるから、すごく慎重なんですよ。
ただ我々としては、この問題をもっと広く、世論を巻き込んで皆さんに納得していただいた上で動かしていきたい。そのためにも、“アプローチすべき孤独“がどういうものなのかは、やっぱり打ち出した方がいいと思っています。
税金を使って取り組むべき孤独とは何か、それが「望まない孤独」であるということ。第三者が決める孤独じゃないんです。本人が辛いと、苦しいと、吐き出せないと、困ってると、何していいか分からない、「孤独だ・・・」と感じるということ。そういう孤独にアプローチをしたいんです。
――Q:孤独は主観的な感情で、孤立は客観的な状態ということですかね
【鈴木議員】
そうですね。
対症療法はもう限界 問題の源流に「望まない孤独」
――Q:大空さんが、孤独対策に力を入れようと思った理由は
【大空さん】
「あなたのいばしょ」でチャット相談をしていて、相談を受け続けています。
でも、相談窓口は対症療法なので、結局、相談窓口に人やお金を突っ込んだとしても受け皿が増えるだけで、問題の根本的な解決には至らないんですよね。
相談窓口っていうのは、最後の砦です。そこを強化することは必要なんですけど、もっと問題の源流にアプローチする政策がないといけない。すでにギリギリの状況で、このセーフティネットが壊れかけてるという危機感が大きいです。
その問題の源流が「望まない孤独」だと思ったんです。
「あなたのいばしょ」を開設した去年の3月から3万4400人が相談に来ていて、この人たちの背景には、1つ共通して「望まない孤独」があるんです。
別に家族とか友人がいないわけじゃないんですよ。「社会的孤立状態」ではなくて、家族とか友人には問題を話せていないとか、誰も頼れる人がいないとか、本人が“望んでないにも関わらず”孤独になっていることが背景としてあるというのが、僕の問題意識です。
気にかけてくれる大人との出会い 奇跡を奇跡にしない「相談窓口」の立ち上げ
――Q:そこに至るまで、大空さんに何があったのか教えてもらえますか
【大空さん】
僕の原体験ですよね。学校も行ってなかったんですよね。ずっと行けなかった期間があるんです。
――Q:どのくらい学校に行ってなかったんですか
【大空さん】
小学生6年生の時と、高校3年生の時ですね。元々住んでいたのは愛媛県だったんです。ただ、家庭の問題があって父親と僕は愛媛県に住んでいました。一方で母親は東京にいて、なかなか父とうまくいかなかった僕は東京に出てきたんです。ただ結局、母ともうまくいきませんでした。ずっと僕自身が孤立してたんですよね。孤独だったんです。
社会的孤立状態にあって孤独だったと思うんですけど。自分自身が当事者なんですよね。今も、もしかしたらそうかもしれないですけど。
――Q:両親が小学生のときに離婚したということですか
【大空さん】
そうですね。家庭の問題はね、自分じゃどうしようも出来ないですからね。生まれてくる家は選べないので。
――Q:そういう経緯があって、そこから「あなたのいばしょ」を作ろうと思ったのはなぜですか
【大空さん】
高校の時に、担任の先生と出会わなかったら、今の僕は今ないんです。
自ら命を絶とうと思ったことは何回もありますからね。
高校3年生の時に、「学校をやめます」みたいなことを、先生にメールしたんですよね。「もう死にたいんですよ」って。そしたら朝、先生が来てくれて。本当にこの人、僕のこと見てくれているんだと。僕のことを助けようとしてくれて、そういう大人がいるんだっていうことが衝撃的だったんですよ。
もちろん、抱えている問題が解決したわけじゃないんですよ。
問題はずっとあるんです。
でも、その問題を、先生に話すことが出来ていたし、先生に話せるんだという安心感を得ることができて、それがすごい大きかったんです。この問題を“乗り越えていく“ために。解決じゃなくて乗り越えていくためにすごく必要だったんですよ。
――Q:そのメール何時ぐらいに送ったんですか
【大空さん】
夜中の3時ぐらいです。
翌朝、僕のケータイに電話がかかってきて、「下におりて来い」と言われて、マンションの下に先生がいたんですよ。それは大きいですよね。そういう大人がこれまで周りにいなかったんです。僕のことを気にかけてくれる大人なんて誰もいなかったんですよ。
抱え込んでましたからね、ずっと1人で。先生との出会いはめちゃくちゃ大きかったです。
その後も、先生は学校別に無理に来なくていいって言うんですよ。
普通、先生は「学校来なよ」とか言うじゃないですか。それが言わないんですよ。でも5限目だけとかに行くと、めちゃくちゃ褒めてくれるんですよ。
5限目からよく来たなとか言うんですよ。そういう人なんですよ。
そういう人と出会うのって、奇跡じゃないですか。先生と出会ってなかったら助かってないんですよ。
絶対に命を絶っていたんですよ。そういう人と出会えるのは、運とか奇跡とか偶然でしか起こらないんですよね。
それを僕は何とかしたいんです。僕は誰かを助けたいみたいな高尚な思いは本当に持ち合わせてなくて、あの時の苦しみを今現在進行形でも感じてる人がいるという事実が耐えられないんですよ。
何もしないことが耐えられない。
先生との出会いを奇跡的なもので終わらせないということですね。
奇跡や偶然じゃなくて、頼れる人に確実にアクセスできる仕組みを作るということが「あなたのいばしょ」を立ち上げた目的で、それが唯一かつ最大の動機ですよね。
――Q:2人の問題意識としては、対症療法的にアプローチするのではなくて、源流の所にある問題が「孤独」だから、そこに対して対策を進めていくべきということ
【鈴木議員】
両輪だと思うんですよ。実際、まさに今、危ない良い状況に置かれている人もいる人もいるから、そこに対しての支援も必要だし、やり方も、柔軟にしていくべきだし、見直すべきポイントも多々あると思います。ただ、それと並行して、源流へのアプローチも必要だということ。
社会問題を生む「孤独・孤立」 ため息でもいい、それを減らしたい
――Q:「孤独」は主観的な問題だと思いますし、それ故にすごく難しい印象を受けました。
(原記者)私の話ですが、先日、旧知の新聞記者と「孤独」について話をしていて、「お前には絶対分からない」って言われたんですよね。でも、毎日のように残業せざるを得ない状態で仕事をしてる中で、家族と距離が出来て家庭内で孤独を感じて家に帰るのがしんどくて、今、放送しているドラマの「知ってるワイフ」の主人公のような状態だったこともあるんです。社会的に孤立はしていないけど、孤独は感じていたんだと気づいたんです。それが取材のきっかけでもあるんですが、もしかしたら一般的に見て、孤独からは対極にいそうな人が実は孤独を抱えていてそれで、何かしらのきっかけで、ぷつりと糸が切れちゃうこともあるかもしれないなっていうことを自分の経験からも感じたんです。
【鈴木議員】
「望まない孤独」と定義をすることによって、私は決してターゲットを狭めてるわけじゃないんですよ。みんな生きていて孤独を絶対どっかのタイミングで感じているんだと思います。私たち全員が感じる苦痛、苦しさ、しんどさ、ため息でもいいと思うんです。仮にそれがなくなれば、ため息でさえ減ったら、それだけですごい嬉しくないですか。
【大空さん】
自殺について言えば、死という結果があるので問題になる。死というすごく、わかりやすい出口があるから対策が必要だよねってなってきていますけど、結局はその死に至るまでは、その人の葛藤をいかに減らしていくかというアプローチなわけなのでもうやってるんですよ。
ただ孤独の出口はありすぎて、それ故なかなか見えづらい。
だから、個人の感情というところにフォーカスが当たりすぎちゃうんです。でも、「孤独・孤立」が明らかにも社会問題を沢山産んでるし、死亡リスクを高めるとか様々な問題も、研究でも明らかになっているわけですから、やらなきゃいけないのは間違いないんですよ。
自殺者数が11年ぶりに前年を上回る そこには至らない“苦しむ人”が大勢いると推察
――Q:分かりにくいがゆえに、なぜそこにお金使うんだと感じる方も大勢いると思うんですが、どういう問題にどうアプローチする
【鈴木議員】
孤独に対して、それぞれの人が抱くイメージがバラバラすぎるんですよ。
孤独って良きものとする文化も持ち合わせてるじゃないですか私たちって。人が強くなる試練で、人生をちゃんと成功して進めていく上でも孤独が必要だとか。
別にそれを否定もしないけれども、そういう孤独もある一方で、我々が言う「望まない孤独」というものもある。みんなが持っているイメージがバラバラすぎるから、孤独対策をやろうと言うと、「はあ?」っていう意見が相当数出てくるんです。
細かくあなたは「入りません」「入ります」っていう、官僚的基準を作れと言っているんじゃないんです。
「どんな孤独ですか?」「はい、望んでいない孤独です」ぐらいのメッセージでいいと思う。
それを言うだけでも全然変わってくる。我々は“ぼっち飯”を否定するわけでもないし、“1人焼肉”を否定するわけでもない
――Q:だからこそ“望まない”が付く
【鈴木議員】
そう。でも、なんかそこにまだ躊躇してる感が否めないんですよ。対策室のチームにしても。色々な人にヒアリングをして、走りながら考えますっていう感じになっているんだと思うんですよ。
――Q:ではなぜ、「望まない孤独」に対策をしないといけない
【鈴木議員】
よく言われるのは去年の自殺者数が11年ぶりに前年を上回ったこと。そういうところに結果として出てきてるわけですよね。
自殺って、究極じゃないですか。
そこにまでは至っていないけど、苦しい思いをしてる人っていうのも増えてると推察されるわけですよね。
私が今も「推察される」と言ったのは、そのデータもないわけですよ。
検証もしてないわけです。
そもそも孤独というものを可視化しないといけないと思います。
人間が生きてれば、それがゼロになることはない。孤独を完全否定する訳でもないんだけど、死をも選んでしまうとか、人生に絶望するような感情が存在するのであれば、どうにかしたいって純粋に思いませんか。
何か難しいことじゃないのよね。純粋に困ってる人いたら何かしたくなるじゃない、みたいな。
【大空さん】
どういう人が対象なの、出口はどこなのっていうようなことを求めがちになってしまう。もちろんそれが見えた方が支持も得られやすいと思います。
生活困窮者、ホームレス、自殺しそうな人みたいに、対象をあぶり出したくなるんですけど、もう少し大本の定義や、客観的な指標作りを先にやらないといけないということです。
対症療法的なアプローチだけじゃダメ 「孤独」という主観的な感情を政策に
――Q:制度とか意識だとか、日本社会がどういう社会でありたいのかという根本的なところにアプローチする
【鈴木議員】
役所側からしたら、私たちもうその対策やっていますっていう声が沢山あると思います。孤独に関するアプローチは今、全くやってないっていうわけじゃない。だって、色々な支援をしているから。
その効果検証も必要だし、そのときに、“主観的な感情“があるよねっていうことを、政策を作る側も、認識した上で、作っていくとまた違うアプローチも生まれてくると思います。
――Q:非常に難しいですね。ただ、動き始めた今、しっかりと方向を定めないといけないのでは
【鈴木議員】
予防の所に重きを置いてほしい。対症療法的アプローチだけじゃ駄目なんだよ。それだけに集中しちゃったら、正直なところ「孤独・孤立対策担当室」を立ち上げた意味が本当にない。
――Q:担当大臣ができたことで、大きなメッセージは発信されたと思いますが、次に何をやるのっていうところが非常に難しいように感じました
【鈴木議員】
我々が出した提言に則って動いてもらいたい。我々も提言をまとめてだして疲れたーみたいな話じゃない。ここからだから。