公明党・斉藤副代表、「急転直下 直談判での一律10万円給付」「緊急事態宣言」”河合夫妻”に始まった「広島3区からの出馬」 その舞台裏を語る 2021年02月10日
東京駐在のカンテレ記者が、キーパーソンに取材するWEB特別レポート。
今回は、公明党副代表で党新型コロナウイルス感染症対策本部・総合本部長の斉藤鉄夫氏です。
党の幹事長・政調会長、環境大臣など要職を歴任。現在9期目。
緊急事態宣言を再び出さないために、今回の延長はやむを得ない
――Q:10都府県での緊急事態宣言の延長をどう見ていますか。
私は妥当な結論だと思います。
集団免疫を国民が持っていない以上、感染者数の推移をグラフにした時、次の山が来るかもしれない。
その山をできるだけ低いものにするためにも、今回、もう少し感染拡大防止のために国民全体で努力することは必要だと思います。
――Q:このタイミングでしっかりと抑えた方が、経済的な面を考えてもダメージはまだましという判断
そうですね。
緊急事態宣言というのは、本質的には医療の限界と感染のピークの山との関係なんですね。
経済的に考えれば緊急事態宣言は出さない方がいい。再び緊急事態宣言を出さないで済むように山は低く抑えたい。
そういう意味で、今回のこの延長はやむを得ないと思っています。
――Q:当事者からの声も届いていると思います。飲食店などへの説明はどうしている。
正直に申し上げて、1か月半くらい前までは、しっかりとした感染対策を取りながら、GoToキャンペーンなどの経済活動とバランスを取りながらやっていかないといけないと言ってきました。
ですからGoToキャンペーンは止めませんと。
移動そのもので感染が拡大するエビデンスはどこにもないですからと、こう言ってたんですが、結果として今回の「第3波」の山を迎えてしまった。そして2回目の緊急事態宣言が出てしまった。
緊急事態宣言が出されることの、経済的インパクトもこれだけ大きいかということも経験した。
そういうこともあり、やはりここは経済のためにも、次に緊急事態宣言が出ないようにするため、次の山が来てもそれが緊急事態宣言を出すほどの山にならないようにするためにも今回は、少しですね感染拡大防止の方に軸足を移す。それをご理解くださいという説明をしています。
「第1波」が収束した後、もう少し人の移動の制限をやっておけばよかった
――Q:今の感染状況をどう見ていますか
新型コロナウイルスの感染力の強さというのを、感じています。
「第1波」の拡大期の時点で考えていた感染力の強さと、今感じている感染力の強さは全然違います。これは科学的に得られたエビデンスですけど、分かりやすく示すのが、今年はインフルエンザがほとんど流行らなかったことです。これだけみんなが感染症対策に気をつけていたら、インフルエンザが全く流行しなかったわけで、インフルエンザのウイルスよりも遥かに強い感染力を新型コロナウイルスが持ってるということが分かった。その感染力の強さは本当によく注視して、対処していかないといけないなと思います。
――Q:この一年を振り返って、この時点でこういった手を打っていたらよかったと思うことはありますか。
「第1波」が収束した後、もう少し人の移動の制限をやっておけばよかった。
重要なのは、医療の限界以下で収めることです。「第1波」が来た後、「第2波」をぐーっと遅くすることによって、「第2波」の山を高くない山にして、医療の限界以下にする。
それから「第3波」も来るんでしょうけども、それをぐーっと遅くして、その山のピークが医療の限界を超えないようにすることがポイントなんですよね。
感染そのものは長く続くんです。ただ医療の限界を超えない、医療崩壊を起こさない。
つまり感染爆発を起こさないということが、大切なんです。
スウェーデンはその逆をとったわけです。とにかく早くみんなを感染させて、集団免疫を持って、早く収めようとしたんだけど感染者が爆発的に増え、多くの死者も出た。
結果的に、集団免疫もまだ持ってないという悲惨な目にあいました。
話は戻りますが、感染しても必要な人は集中治療室に入れるし、必要な人はECMOも受けることが出来るいうことであれば、ある意味では安心していられるじゃないですか。
一番不安なのは、感染しても医療の提供が受けられないという状況なわけで、そういう意味では反省点があるとすれば、「第1波」の後、もう少し長く緊急事態宣言をやってもよかったのかなと思う。
――Q:医療の限界というのは、重症化した場合に人工呼吸器やECMOを使った治療を受けられるキャパシティを超えないということ
そういう意味です。
なぜ日本で医療崩壊 根っこは「開業医中心の医療制度」と「国民皆保険制度」
――Q:なぜ先進国である日本で医療崩壊するのかと問われたら何と答えますか
いつもその質問には2つのことを答えるんです。
1つは、日本の医師の約7割は開業医で、日本の医療制度は開業医が中心なんですよ。
よく言われることですが、大きな病院に勤めてから、ある程度実績を積んで自分の病院を開くわけですね。そうすると、働く量は3分の1になった、でも収入は3倍になったとよく言います。
ということは、開業すると単位労働当たりの収入は10倍になるわけですよ。
それに比べて欧米は大きな公的病院に務めている医者が7、8割。
私もアメリカに3年住みましたけど、大きな病院に行くと、本当にそっけないですよね。
日本だと、私も広島ですぐ近くにいつも診てもらう先生がいますけど、個人的にも良く知っているし丁寧で、仮にこれは手に負えないとなったら、より大きな病院を紹介をしてもらい、そこで治療していただく。平常時にはその方が良いと思うんです。
でも今回、多くの民間病院は、コロナを怖がって受け入れなかったわけですよ。
これは医療システムの問題でもあるんですね。
それからもう一つは、あまりに優れた日本の「国民皆保険制度」の問題もあると思いますね。
アメリカには一部を除いて公的健康保険がないんですよね。
民間の健康保険ですから、払う保険料によってサービスは全く違うんですね。
その民間の健康保険は入るかどうか、任意ですから。貧しい層の3割4割の人は民間の健康保険にすら入っていないんです。そういう人はね、そもそも医療へのアクセスがないんですよ。
よく言うじゃないですか、救急車が来ても保険証を持っていないの確かめたら、そのまま置いていくって、そういう世界です。日本ほど平等に丁寧にやっている国はないと思います。
ヨーロッパから帰ってきた人に聞いてもそう言いますね。
そうした中で、1人1人に丁寧に対応する、ということはコストもかかるし人件費もかかるし、そういう意味で、日本の医療サービスは諸外国の医療サービスのコストと全然違う。
日本はアメリカやヨーロッパと比べて感染者数はふた桁少ないですよ、重症者も死亡者も。なのに、その日本が医療崩壊と騒いでいる。ヨーロッパやアメリカは医療崩壊って騒いでいないですよ。だって、サービスをしなくていい人にはサービスしてないんだから。なかなか新聞も書きにくい所だと思いますけどね。
――Q:そもそも提供している医療の質やコストが日本とは根本的に違う
その通りです。
減収世帯「30万円給付」から一律「10万円給付」 舞台裏に公明党の直談判
――Q:今、党のコロナ対策の総合本部長として大切にしている視点は
政府で対策に当たっている方は官僚が中心。現場からの声も当然上がってくるんでしょうが、段階を経て、かなり現場の感覚とずれてるし、現場の状況をよくご存知ないということを感じました。
去年の2月、3月、4月は毎週のようにコロナ対策本部をやりました。大変忙しい中申し訳なかったのですが、官僚の方々に来ていただいて、現場が今一番何を感じているのかということを伝える作業をしていました。
したがって、一番大切にしてきたことは、対策の指揮を執る中央と現場の間をつなぐ、政府与党が打つ手が現場感覚と離れていないようにということですね。
――Q:何か、政府の方針を軌道修正した例はありますか
一番端的な例は、10万円の一律給付でしょうね。
当初、収入が減少した世帯に30万円を給付するということで、閣議決定まで行ったのですが、あれは安倍総理、麻生財務大臣、官僚の代表である財務省の太田主計局長、今井秘書官が決めたんですよ。あの時、菅官房長官は中に入っていなかったですよね。
ただ、当時の国民の皆さんの感覚とは、ずれたものでした。
また、実際にそれを給付する作業にあたる人からも「こんなことをやったら現場は大混乱する」という悲鳴が上がってきました。
我々、公明党も閣議決定に賛成しているんですよね、30万円給付に。これは言い訳だけど、その時はね、もうとにかく官邸がぱっと決めてぱっと閣議決定しちゃったから、反対する暇がなかった。
ところが、後からそういう現場の声が党に届いて、このまま突っ込めば、政権にとって命取りになると感じたんですよ。それでああいう、いったん閣議決定したものを覆すということになったんです。政治家のトップと官僚のトップが国民の声を聞かないで決めると、そういうことになるという一つの例だったと思いますね。
――Q:10万円に軌道修正をした過程は。
裏側として、あの時は公明党本部の電話も本当に鳴りやまなかった。
抗議の声など、いろんな声を聞いて、これは閣議決定したけども、やり直した方がいいと。
予算をもう一度閣議決定し直して、予算組み替えだと。本当に困ってる人も困ってない人もいるんだけど、全国で初めての緊急事態宣言で、みんなどうしていいかわからない、不安だという時には、協力していただくという意味で一律10万円の方がいいと。
すでに閣議決定をしているわけですから、予算案提出に向けて、財務省は予算案を書いているわけですよ。それをストップさせて、新たにもう一度予算案を書き直すっていうことは、今までの歴史になかった。今までの歴史ないんです本当に。
党の役員で話し合って、これを覆すしかないということになりまして、まず、山口代表に「総理官邸に乗り込んでください」「今の作業ストップ。閣議決定し直し」「予算書の書き直しをやってくださいと、安倍総理に直談判をしてきてください」と言ったんですね。
書き直しにどれくらいの労力がかかるのかというと、1週間あればできるが、財務省の主計局が毎晩徹夜しなきゃいけないということが分かりました。
当時、遠山清彦が財務副大臣でいて、連携してやれないことはないとなったんです。閣議決定し直しなんて、皆できないと言っているけど、やれないことはないということも言質を取って、総理に直談判に行ったということなんですね。
もちろんそれだけで、総理も分かりましたと言うわけなくて、一旦幹事長レベルに差し戻されたんですよ。
幹事長レベルで協議をしてくれということで、当時幹事長だった私と二階幹事長、さらに自民党側の政調会長の岸田さん、公明党側は当時の石田政調会長で会って、4回ぐらいやりとりをしました。
ただ向こうも、一旦閣議決定したものだから外せない、駄目だってなって、幹事長レベルでは決着がつかなくて、「代表、もう一度総理官邸に乗り込んでください」って言って。代表が総理官邸に乗り込んだ。必死の覚悟で乗り込んで、最終的に安倍総理が「わかった」となりまして、一律10万給付になった。
それから財務省は、予算書の書き換えで1週間徹夜。
これが一番大きかったですかね。
――Q:当時、岸田さんの動きをめぐる報道が多かったように記憶していますが
安倍総理は、岸田さんに花を持たせてあげようとしたわけですよ。
当初官邸は、生活が厳しい家庭に世帯当たり20万円給付というのを打ち出した。それに対して岸田さんが、世帯あたり20万円じゃ少ないと総理のところに行って、世帯当たり30万円にしたんですよ。
その時にね、私のところには太田主計局長が来て、世帯あたり30万円ですから1世帯当たりの平均人員は2. 5人なんで、公明党さんが言っている一律10万円にあたるでしょうと言うわけです。いや、当たりませんよと、全体で見れば2割ぐらいの世帯に1人当たり10万円かもしんないけど、国民全体一律10万円じゃないわけですからね。
というようなやりとりがあって、あの時は岸田さんが花を持って「30万円にしたぞ」ということで、次の総理大臣への道を切り開こうとした。その道を安倍総理も作ってあげたということで進んでいたんだけど。
さっき言ったように、生活に困った世帯だけじゃ駄目だと。国民全員に10万だと。
公明党から途中から入っていって、ひっくり返したもんだから岸田さんには申し訳なかった。
本当は岸田さんが花を持つ予定だったんだけど。それをひっくり返しちゃったからね。
広島3区からの出馬 「なんであんなやつを応援させた」の声
――Q:広島3区からの出馬は、どういう判断ですか
一つはですね、地元の広島3区および広島の公明党の支持者からね、是非そうしてほしいという強い要請があったんです。
というのも、一昨年の参議院選挙で、私達は河井案里さんを推薦して応援したんですよ。
もちろん現職の溝手顕正さんも自民党だから両方推薦して応援したんだけど、自民党からは溝手さんは当選すると、2議席目の選挙に弱い方の河井案里さんを応援してくださいと言われたんですね。
自民党で2議席取りたいということで河井案里さんの方にちょっと力が入ったのは確か。
それから夫の河井克行さんは、ずっと広島3区で我が党が推薦し応援してきた。
その2人がああいう事件を起こして、私は公明党広島県本部代表として突き上げられたの。
なんであんなのを応援させたんだと。俺たちに手弁当で応援させておいて、その責任取れって言われたわけですよ。
そういう中で本当に申し訳なかったなということで、私は公の場でも謝罪しましたし、地元の中国新聞でも、ああいう候補を推薦し、支援したのは間違いだった申し訳ないと謝った。
そういう中で次は、広島3区で誰が出てきてもうちは応援せんよという支持者の強い声があった。前回だって河井克行さんはギリギリで通ってる。
公明党の支持者が一切応援しないとなったら、与党の候補は確実に負けるわけ。
そうは言っても大事な与党の議席で、政治の信頼を回復しなきゃいけないということで、公明党から候補者を出したらどうかという声が、支持者から上がってきたんです。
自民党・公明党の与党の議席を守るために、そして政治への信頼を回復させるために今回は公明党から出させてもらって自民党がそれを支援するのがいいのではないかと、提案してるところで、まだ調整中なんですよ。