東京駐在のカンテレ記者が、キーパーソンに取材するWEB特別レポート。
今回は自民党の元幹事長・石破茂氏。防衛大臣、農林水産大臣や、自民党の政調会長など要職を歴任し、現在11期目。昨年は、9月に行われた総裁選で大敗し、石破派(水月会)の会長を辞任するなど波乱の1年となりました。
菅政権のコロナ対応をどう見る?
次期総裁選への出馬はあるのか?
また、1月の週刊誌報道については?
石破氏の胸中に迫りました。
総裁選で菅さんって書いた人たちには、最後まで責任を持ってもらわないと困る
――Q:水月会(石破派)の顧問就任。このニュースはどのように受け止めたらいい
政治家の判断の評価は次の時代がするもので、その時にあーだこーだ言ってもあんまり意味がない。私は去年、総裁選に出たことは全然後悔してないんですね。出なかった方が後悔したと思いますよ。数から言えばね、勝てるわけがない。
総裁選の時に、新型コロナウイルスの特措法を急いで改正しなきゃいけないと言ったの私だけだった。菅さんにいたっては、コロナが収束してから変えればいいって言っていた。
今何をしないといけないのかっていうことを、自民党員に向けて、国民に向けて発信することは、自民党の政治家の責任だと思っていたから。全然後悔してないです。結果は当選できなかったけど。
ただ、水月会(石破派)の議員や水月会でもないのに、私を支援してくれた人にすごい負担をかけた。
だから、これは何かケジメをつけなきゃいかんよねっていうこともあって、派閥の会長を辞めたわけです。
でもこの水月会というグループは必要だよね。水月会でやってきた人たちが、きちんとみんな当選することも大事なことよね。そのために、私が出来ることは何でもするからねってことも言ったわけですね。
それで、石破さんに何か就いてもらわないといけないという意見が若手から出て、顧問ということになったわけです。
――Q:一部で言われている「菅おろし」の動きをどう見る
今こうやって菅さんが、誰がやっても大変なときに総理大臣を務めている。
にもかかわらず、「支持率が下がったから菅さんを変えなきゃいけない」、「これじゃ選挙の顔にならないから変えないといけない」とか言うのは、私はおかしいと思っています。
オリンピックをやるやらないは別として、この総裁の任期である9月までは、菅さんを支えなきゃおかしいでしょと思っています。
「こんなはずじゃなかった」とか、「もっと人気が出ると思っていた」とか、「危機管理が出来ると思っていた」とか、そんなこと言ってるけど、あなたたちが選んだんでしょと。
総裁選で選んだのは、私たち(石破派)じゃないからね。だから、菅さんって書いた人たちには最後まで責任を持ってもらわないと困ると思っています。
次の総裁選 私がやらなきゃいけないとなれば、やる
――Q:石破さん自身、次の総裁選はどう考えている
菅さんが持ってる任期の間は、とにかく菅政権を支えるんだと。ましてや、田村厚生労働大臣は石破派から出ているから、なおさらのことですよね。
今言えることは、菅さんが持っている任期の間は菅さんを精一杯支えるんだということしか言えないです。結果として、このコロナ危機を乗り切って、オリンピックもできて、菅さんで続けようということになれば、それはそれでいいじゃないですか。
不幸にして菅さんが続けられないような状況が起こったとして、少なくとも我々はそんなことは仕掛けない。ただ、仮に起こったとして、次に誰がやるのかっていうときに、私がやらなきゃいけないとなれば、そりゃ、やる。党員や国会議員が選ぶかどうか、そんなことは知らん。だけど選択肢を示す責任はあるだろう。だけど今そんなこと言うべきじゃない。菅さんが持っている任期は、それは全面的に支えるということしか言えない。
――Q:総理・総裁になりたい
正直言って、総理・総裁になりたいとは思っていないんですよ。
いいこと何もないからね。たった一つ、なる動機があるとしたら、35年支えてくれた選挙区が喜んでくれるかなということだけです。
うちの家族も、なってほしいなんて思っていないし、私もなりたいなんて思っていない。
テレビや週刊誌からめちゃくちゃ言われて、そこまでしてやりたくないよねって気持ちはすごくありますよ。私は総理なんかなりませんよって言った方がよっぽど楽だった。
でも、やっぱり楽な道を選んじゃいけない時があるかもね。
今言えるのは、菅政権を支えるとしか言いようがないです。
コロナ禍で感じた「同調圧力」・「ゼロリスク信仰」・「低ヘルスリテラシー」
――Q:コロナ禍のこの一年で気づいたことはありますか
日本人って、同調圧力の強い国だよねっていうことですね。
みんなが同じことをする。農耕民族なので、皆が同じ時に田植えをしなきゃいかんし、みんなが同じ時に同じことをする。それは狩猟民族のヨーロッパ人とは違う。
だからマスクをしてない人がいると“自粛警察”みたいなのがやってくるし、東京から地元に人が帰ってきたりすると、けしからんとなる。
自分たちの価値観と違う人がいると、排除をする。
それが1つ。
あと、リスクはゼロでなきゃいけないという“信仰”だね。
リスクは本来、そういうことが「起こる確率」がどれぐらいあって、それでどれぐらいの「損害」が生ずるかっていう掛け算なんですね。
飛行機は落ちるとだいたいみんな死ぬんだけど、落ちる確率は非常に低い。
自動車事故が起こる確率は飛行機事故よりはるかに高い。だけど、みんながみんな死ぬわけではない。
原発事故っていうのも起こればものすごい被害が生じるが、起こる確率は非常に低い。
リスクは、そういうものなんです。
今回のコロナも、基礎疾患を持ってる高齢の人がかかるとすごくリスクは高い。
だけど若くて基礎疾患もない人がかかっても、それほど大きな被害は生じない。
みんな同じリスクを取る社会はあり得ない。
本当に人々が恐れているのは重症になって死に至るという、生ずる結果の重大さのはずはずなんであって、感染しただけでは9割以上の人が発症しないわけですよね。
でも、リスクは 0でなきゃいけないっていう、そういうのがあるわけ。
本当のリスクってのは、重症化して死ぬってことじゃないかな。
その確率ってどれぐらいあるのっていうのは全く報道されていない。
これを「ゼロリスク信仰」というんですね。
さらには「ヘルスリテラシー」って言うんですけど、医療に関する理解力が日本人ですっごく低いんだね。国際的に、そういう医療に対する理解力みたいな調査をやったんだけど、日本は恐ろしく低いんですよね。
「同調圧力」、「ゼロリスク信仰」、「ヘルスリテラシーの低さ」ということは、それ全てに通じる問題だよねっていう気はしますけど。
政治はこんなに世論に対して弱いんだ
――Q:今の報道に対しても思うことはありますか
商業ジャーナリズムって、そんなもんだと私は思う。
視聴率が取れなきゃ駄目だ。部数が上がらなきゃ駄目だっていうのが商業ジャーナリズムの最も上位にする価値観だと私は思う。でも、それはすごい危険なことだと、よく講演で言うんだけども、日中戦争から太平洋戦争に至る流れを一番煽ったのはマスコミですからね。
朝日新聞社が、陸軍と一緒になって、神風号という飛行機を作ったのね。
それはもう非常に高性能な飛行機だったんですけどね、これ何のために作ったかっていうと、当時ラジオが登場して、早く情報が届けるという意味では、絶対に新聞はラジオに敵わないわけです。そうするとじゃあ何で勝負するかっていうと映像なわけですよ。
中国で華々しく勇敢に戦う帝国陸軍みたいな、そういう写真が欲しかったわけね。
当時は伝送技術なんてないから、とにかく早くて遠くまで飛べる飛行機を作らなきゃいけないんで朝日新聞は大金を投じて神風号って飛行機を作って、中国の戦場で戦う日本軍の写真を大阪とか東京に運んで紙面を作るわけね。国民は熱狂するわけね。それで部数はすごく上がったさ。だけど、こんな戦争しちゃいかんじゃないかっていう報道は全くなくて、華々しく戦う日本が中国を懲らしめるということで、めちゃくちゃ煽ったわけ。
そういうところが商業ジャーナリズムにはあるんです。
それはだいたい国を誤ることが多いです。
また、政治ってこんなに世論に対して弱いんだということにも今回気づきました。
だって世論に引きずられてるじゃないですか政治が。
日本で医療崩壊するんだったら、アメリカやヨーロッパはもう医療全滅してなきゃおかしいんですよね。
だって、日本の国民の10万人あたりのベッド数は世界一ですよね。
そしてお医者さんや看護師さんの数も、世界標準からすれば少ないけれども、でも全然足りないわけでもないですよね。
CTとかMRIとか最新の医療機器、特にCTはコロナで肺炎になってるかどうかをすぐ見分ける機械ですが、これの普及率も世界一ですよね。
コロナの感染率も重症率の死亡率も多いって言うけれども、ヨーロッパやアメリカに比べたら一桁少ない。これはもう、日本にもたらされた、すごい奇跡のようなことなんですよね。
その時に社会を止めてどうするんだと。今日の日本の感染者はとか、コロナ病棟の満床率はというけれども、満床率が高いとこばっかり報じるけれど空いてる所いっぱいある。ただ、いっぱいなところから余裕があるところに患者さんを回す仕組みがないんです。
日本は民間病院が8割で、行政は民間病院に対して命令する権限がないのね。
それって本当になくていいんだろうか。
いつでも行政が「はい、この患者さんここ、この患者さんはあっち…」なんて、そんな権限を持っていいとは言わないですよ。
だけどもこういう感染症なんかの場合には特にコロナみたいな、未知の部分が多い時には、行政が権限持ったっていいんじゃないんですかね。
これは医療法の改正なんですけど、それが必要だって議論がなぜない。
そういうことを言うと、お前はコロナを軽く見てるんじゃないのか。
現場の人たちの、こんなに大変な思いを何でわからないんだとか的外れな批判が、来るわけですよ。そうじゃないと、皆さん落ち着いて考えてくださいっていう情報が発信できなくなった。
政治って世論で動くんでね。でも世論で動く政治は、だいたいろくな結論にならんのです。
日常的な発信なし、国民の理解なしで有事に対応できる政治は魔法の類
――Q:有事の際の政治の役割をどう考えていますか
それは、日頃から有事というものを考えて発信することだと思います。
有事に対応できる政治ということをよく言われる。
だけど、日頃からきちんと国民に対して有事っていうのはこういう問題ですよと、そういうときにこういうことしなきゃいけないんですよと。
日常的に発信をしていなくて国民の理解もなくて、突然有事に対応できる政治なんていうものは、それは魔法の類であって普通の政治家にはできません。
例えば、中国の軍拡が大変だ。
国防法が改正になって香港の次は台湾、そして日本も巻き込まれる、「大変だ、大変だ」みたいな話をするわけね。
ただ、いきなり中国人民解放軍が日本に向かって攻めてくるかと。そんなことを中国がやるはずはない。明々白々なことをやってくるのではなくて、最初は尖閣諸島でも漁民を装ってやってくるだろう。
そこで中国の国旗を振り回して、ここはわが領土だと主張する。
日本がそれに対して、警察権で対応したときに、「我が人民に対して何をするのだ」みたいなことで、今度は向こうが中国海警局という海上保安庁みたいな形をしながら実は軍隊だというのが出てくる。
武力攻撃で、領土が侵略されたわけではない。武力攻撃はないわけね。でも明明白白、我の領土が侵害されてるときにどうするんですか。どういう法律で、対応するのは海上保安庁なのか、海上自衛隊なのか、使う権限は自衛権なのか、警察権なのかとかね。
そういうことをきちんと整理しておかないといけませんよって話は、防衛庁長官になった18年前からずっと言っている。
日頃から、どのような事態が緊急事態であるのかということを、政治の側がきちんと頭の中でシミュレーションをして、その場合にどういう法律で、どういうような部隊がそれに当たるのかってことを常に考えて、国民に向けてこういう場合がありますよってことを、言っておかないと有事が起こったらひとたまりもないです。
だからその危機に強い政治とか、危機管理能力が問われるとか言うんだけど。
それって日頃が大事なんであって、日頃何もしないでおいてですね、危機管理能力が問われますみたいなこと言われても、なかなか大変です。
防衛大臣時代 「UFOが来たら、ゴジラが来たら」を考えていた
私は防衛庁長官、防衛大臣のときに大臣室で、「UFOが来たらどうすんだろうね。ゴジラが来たらどうすんだろうね」みたいな議論をやってたんですよね。「大臣ちょっとSFの見すぎじゃないの」って言われるんだけど、仮に来たらどうするのってことを考えておかないと、いかんわけですよね。
起こる、ありとあらゆることをイメージして、どういう体制で臨むか。その時に今何が足らないのかってことを考えるのが、平時の危機管理だと私は思うんですね。
――Q:今の状況考えるとゴジラの話も笑えない
『シン・ゴジラ』の映画が公開されたときに見に行ったんです。
ずっと違和感があったのは、なんでゴジラに対して自衛隊が防衛出動で出るんだということ。防衛出動というのは、我が国に対する急迫不正の武力攻撃あった時だよね。武力攻撃を仕掛けてくるのは国でなきゃいかんよな。
ゴジラがいつから国になったんだ。ゴジラが暴れているのが何で武力攻撃なんだ。おかしいんだろう。
これは自然災害なのだと。災害派遣で出るのが当たり前だと言ったら、石破さんそんなこと言って、戦闘機が飛んで、戦車が出て、ゴジラに対してミサイルを撃ってていいんですかと言われたんだけど、そんなこと関係ないさ。
起こっている事態を収束させるために、それに必要な武器を使うのであって、それは自衛権に基づくものじゃないだろって。警察権に基づくものなんだろって。だから同じようにミサイルを撃ったとしても使う権限が全然違うんだと、そこはきちんと法律上整理しておかないとおかしいんじゃないのっていう話ですね。
――Q:今の政府のコロナ対策はどう見ている
2018年にアメリカのジョンズ・ホプキンス大学のレポートで、今度来る感染症は今までと違う。
症状は軽いけど、感染力は恐ろしく強い。そういうものが次の感染症だってレポートが出てた。誰も読んでいない。もちろん私も読んでいない。コロナが起こってから教えられて、そうだったんだと気がついた。日本の医療体制の問題っていうのは、前から指摘されてたことで、そこへ感染症が来たわけで、平素から、そういうことを考えてないからこんなことが起こるわけ。
だから菅さんが悪いとか言うんだけど、誰がやったって一緒だって。
週刊誌報道のふぐ会食 危機管理として上手くなかった
――Q:危機管理の専門家でもあると思いますが、週刊誌報道があったフグ会食はどういう判断
危機管理としてはあまりうまくないよね。もちろん、狙っている人もいるかもしれないとも思った。
講演をした社員研修会も規模を3分の1にしてもらって、その後のパーティもやめてもらった。私は夜の会食も断ったんだよね。だけど、「いやいやそんなこと言わないでくれ」と、せっかく東京から来てくれるんじゃないかと。みんな楽しみにしてるんだから来てくれって言われたので、「5人を超えるようだったら部屋を分けてくださいね」ってそこまでお願いした。
自分としては、これで危機管理はできると思った。ところが行ったら部屋が分けてなかった。
これまずいなと思ったんです。そこで、「話が違いますので私は帰ります」って言うのが危機管理だけど、みんな私の大先輩ばっかり。ここで私が帰りますって言ったら、この人たちみんな、ガッカリするんだろうなっていうのが、働いちゃったんだよね。
そこは私の判断の間違いだったと思います。
――Q:情ですか
やっぱりご厚意を無にしちゃいかんねとか失礼があったらいけないとか、そういうこと考えちゃったんです。多分大丈夫だろうと。
いい勉強になりましたし、やっぱりダメージコントロールはとっても大事なことでね、何かあったときにね。