東京駐在のカンテレ記者が、キーパーソンに取材するWEB特別レポート。
初回は自民党・参議院幹事長の世耕弘成氏。1998年に参議院和歌山県選挙区の補欠選挙で初当選し現在5期目。内閣官房副長官や経済産業大臣などを歴任し、現在は自民党の参院幹事長として多忙な日々を送る世耕氏。菅首相の人柄や、連日ニュースで取り上げられる学術会議の問題、そして近畿選出の自民党議員として、「大阪都構想」に関する自身の考えなどをインタビュー取材した。
“直属の上司”だった菅首相、その「素顔」は
まず聞いたのは、9月に誕生した菅首相に関して。
言葉を選び、会見での落ち着いた印象の強い菅首相ですが、官房長官時代の「上司と部下」だった世耕氏に、その素顔を聞いてみました
――Q:菅首相はどんな人?
3年7か月にわたり、菅官房長官・世耕官房副長官という上司部下の関係でお付き合いをしました。
菅さんはスーパー実務家です。とにかく「前からこうなっていますから」は大っ嫌いな人です。省庁間のルールで、うちではできないんですとかも大っ嫌い。政治家の姿勢として、やれる方向で物事を考えていない人のことは大嫌い。大嫌いというか受け入れられないという感じです。役人は「やれない説明」の天才なんですね。そういう話を聞くとイライラっとしてきて「ふざけんな!」となって行動を起こしちゃう。
――Q:「日本学術会議」の会員候補6人が任命されなかった問題についても同じですか
そうです。前例でこうなってますからと言われても、任命できるとということになっているじゃないかと。これについても、予算が入っている公務員で、言われた通りにしないといけないのはおかしいだろとということで、完全にギアが入っちゃったと思う。
――Q:この問題、世耕さん自身はどう思っていますか?
当然、任命に当たってチェックをする権利はある。僕も知らなかったけど、105人、1人1人が自分の後任を指名しているというのはおかしいですよ。個人が勝手に指名していたら自分の好きな人ばかりになる可能性がある。そういうところにチェックをかけたというのは、僕はいいことだと思います。これを機会に学術会議のメンバーの選び方、推薦の仕方を徹底的に議論したらいいと思います。
――Q:菅首相が決定を「撤回」することはある?
撤回することはないでしょうね。世論も少し分かってきてるんじゃないでしょうか。学術会議とはそうかという感じになってきてるし、まさかそれで学問の自由が侵されているなんて思っている人はほとんどいないと思います。学問は学術会議と関係なくやれるわけですから。しかも学術会議は過去、全く政府の方針と違うことをいくらでも報告されてきてますけど、われわれもどうぞとしていて、否定しているわけでもない。
――Q:税金が入っているという面を重視している?
税金が入っている以上はちゃんと見ないといけない、チェックする義務・責務があるというのが菅さんの考え方だと思う。
――Q:穏やかそうに見えて…菅さんは気が短い人ですか?
気は短くないですよ。人の言うことにすごく耳を傾けてくれます。例えば去年、最低賃金をグーンと上げろと。しかも強制的にということを当時の菅官房長官が主張された。僕は当時中小企業を所管する経済産業大臣で、ちょっと待ってくださいと、強制的に上げたら中小企業が全部倒産しますよと。韓国見てください無理やり最低賃金をあげたらバタバタ倒産して逆に失業率が高まった事態になっていますよと。
上げた方が良いのは賛成だし、上げれる環境を整えてしっかり上げさせるのは当然だけど強制的に、しかも考えられないレベルで上げるのは中小企業を殺してしまいますという議論をして、ここは菅さんと経済再生諮問会議とかで対立したんです。
僕は何回も通って説明をしたけど、菅さんは強制的に上げさせた方が中小企業も改革が進んであんまり効率の悪い中小企業は淘汰されて日本経済全体にプラスになるんじゃないかという信念で激論を交わしたんです。
最後、僕があるデータを持って行った。これを見てください菅長官と。労働分配率のグラフで、大企業の労働分配率は20%くらいです。中小、小規模事業者の労働分配率は70%を超えているんです。利益のほとんどを従業員に回して社長は自分の給料を抑えに抑えてそれでも従業員に給料を回すギリギリの経営をしていると。それでいて、今の最低賃金のレベルを何とか達成できている感じですよと言ったら、なるほどねということで今回はええわと譲ってくれた。
話せばわかってくれる人です。
大阪では”自民と公明が分裂”…「大阪都構想」
連立政権を組む自民と公明。ところが大阪では「大阪都構想」を巡り、両党は分裂状態にある。
近畿選出の議員として、大阪都構想を世耕議員はどうとらえているのか…
――Q:大阪都構想の住民投票が近づいているが、どういう評価ですか
これは、大阪市民がしっかり考えて結論を出してくれたらいい。メリットデメリット両方あるのは良くわかるし、これは最後、東京からがたがた言うんじゃなくて、これは大阪市民がしっかり決めてくれたらいい。ただお願いは、万博その他の日程とか準備作業に影響を与えないようにやるならやっていただきたい。
新型コロナ対策、過疎対策…世耕議員が目指す政治
新型コロナ対策をはじめ、東京での多忙な日々が続く一方、地元・和歌山の将来を作っていく活動も…その根底には「過疎に悩む地方」への政治家としての想いがあった。
――Q:今、力を入れている取り組みについて教えてください。
力を入れていることの一つが「不安に寄り添う政治のあり方勉強会」。
いま、日本人の多くの人が食うに困るわけではないが、何となく不安を。今コロナに不安が集中していますが、コロナ前で考えると、例えば過疎地に住んでいる人は、このままうちの集落どうなるのかなとか、あるいは、子育てやっている人は将来子供の学費を考えたらちゃんとやっていけるのかなとか、なんとなくみんな「ふわっとした」不安を抱えていて、その不安が原因で例えば財布のひもが固くなってみたり、何か活発な社会活動にブレーキがかかるということが起こっている。そこにしっかり寄り添っていこうということを始めました。
政治がちゃんと見ていますよと、いきなり解決策をこれですと言えないけど、ちゃんと向き合って、それの解決に汗をかいていますよということを、しっかりやっていこうということで、私が参議院幹事長に就任してから、単なる政策論じゃなくて政治運動論として地域の不安に向き合うということをやらせてもらっています。
この一年大きくやったのは医療の問題、医師不足の問題です。大阪の中心部だとあまり感じないけど、和歌山の南の方とか行くと自分の持病を診てくれる人が自分の街にいないとどうしたらいいのかという話とか、過疎の問題で集落が消えていくとか、あるいは、80超えたから家族のために免許は返納したけど、バスが一日1回しか来ないとか、どうやって暮らしていったらいいんですかという問題とか、最後3つめが孤独死です。
これは都会でも、子どもたちが年に一回来るかどうかで、連れ合いも亡くなっていると。このままいって、自分がここで倒れて3週間後に見つかったりしたらどんなことになるんだろうかというすごい不安を抱えている人がいる。
例えば大阪でも泉北ニュータウンみたいなところでも深刻な問題。ニュータウンが高齢化してきていますから。こういう問題に向き合って、現場のヒアリングとか視察をさせてもらって、ちょっと政治的解決の方向性を模索しているところです。なんとなく方向性は「緩やかなつながり」。
要するにおせっかいじゃないし、行政の介入じゃないけどなんとなく緩やかに助け合う、「あそこのおっちゃん、最近見ないけど大丈夫かな」とか。緩やかなつながりが、今申し上げたような問題にそれぞれ共通した解決策の方向性かなと思います。その繋がりをどう作り、担保するかということが重要かなと思います。
――Q:地元の和歌山でも過疎が進む地域があり、地方のたたみ方も考えないといけない
いよいよ、たたまないといけない。集落単位で出てきていますよね。それはある程度受け入れていかないと、色々抵抗はします。
U・I・Jターンを使って若者に来てもらうとかいろいろ考えますが、それで全部解決はできない。人口が減っていっている中で、たたんでいかないといけないとなったときには、それぞれの集落は、昔は何百人と住んでいて、そこの祭があったり、歴史があったり、文化があったりするから、それのアーカイブスをちゃんと作っていかないといけない。
昔、ここにこんな集落があって、こういう昔の祭の写真があって、こんな神輿があって、歴史的には戦国時代にこういう人たちが流れてきて出来た集落でということをきちっと、それぞれの集落で残していかないといけない。そういう畳みかたを考えないといけない。
和歌山でもたくさんありますが、例えば、まだ3人3世帯あるというところで、街の中心部から車で1時間半くらいかかって、雨が降ったら土砂崩れですぐ孤立してというところに80歳を超えた高齢者が3世帯、独居の高齢者が3人住んでるというのははっきり言って幸せじゃないと思う。
和歌山市に来てくれとは言わないが、こういう人たちに移住してもらって町役場のそばにきちっとした公営住宅を用意するから、そこに移り住んでくれと。そこですぐに病院もあれば介護のセンターもあれば、郵便局、スーパーもそろってるからそこで楽しく暮らしてください。これは行政にとってもコストをものすごく削減できますし。高齢者の集落で暮らしている人にとってもすごく暮らしやすい環境になるのでそういうことをやっていかないといけない。
これはなかなか言いにくいです。言いにくいですけど言っていかないと始まらない。そうやって高齢者が集まって住んでくれると、そこのスーパーで働く雇用とかができて若い人が来て、高齢者向けのサービスが重要化する。コンパクトにしてそこで活性化を図ることが重要かなと思っています。
座右の銘は「随処作主」、自分のいる場所で、主体性をもって
多忙なスケジュールを縫って取材に応じて頂いた世耕議員に、最後、こんな質問をぶつけてみました。
――Q:総理を目指しますか
国会議員になった以上はもちろん目指しています。けども、総理大臣っていきなりなれるもんじゃなくて、安倍さんを見ていても菅さんを見ていてもものすごい修羅場をくぐってきて、それにものすごい運も必要で、もちろん目指してはいますけど、目指すために今カチャカチャやるというよりは自分の持ち場をしっかりやりきることが何よりも重要だなと思っています。周りから押されるようにならないとダメですから。
今回の総裁選でも自分から行きたい行きたいという人は何人かいて結局出れてませんけど、周りから世耕さん行けよとという状況になってこないとだめだと思います。
安倍さんも菅さんも周りから押されてなっていますから。なかなか参議院議員ですから総理大臣というのは前例がないからハードルが高いですね。
(関西テレビ・東京駐在記者 原佑輔)