9年の歳月を経て大きく動いた事件…。2013年12月、「餃子の王将」運営会社の社長・大東隆行さんが射殺された事件で、暴力団幹部の田中幸雄容疑者が逮捕されました。
証拠が乏しく捜査が難航する中、急展開となったわけは…。
(リポート)
「今回逮捕のきっかけとなったのは、事件現場近くで発見されたタバコの吸殻です」
警察は事件現場のすぐ近くに落ちていた、たばこの吸殻のDNA型や燃え方、犯人の足取りなど状況証拠を積み重ねて、容疑者の逮捕に踏み切りました。
様々な難事件が日々起こる中、犯人の逮捕に重要な役割を果たす「証拠」。一体どのようにして集められるのでしょうか。
藤田法科学研究所 藤田義彦さん:
「これが犯人というものが、なかなか決め手がない。迷宮入り事件はそれが多い。だけど一発で『こいつだ』というものは、色々調べるうちにいっぱい出てくる」
そう話すのは、31年間、徳島県警の科学捜査研究所で数々の証拠を見つけてきた元「科捜研の男」藤田義彦さん。
現在、自ら民間の研究所を開設し、弁護士などから依頼を受けて証拠の鑑定などを行っています。
藤田さん:
「被害者が死んでいたら、被疑者はどないでも言えるし。少しでも(証拠で)真実に近づくことが大事なんです。(現場に行った中で)一番多かったのは『殺し』ですね。まず現場を観察して。この事件はどれが証拠なんだと。検査を進める上で分かってくる。最初から分かってくるのはなかなか難しいですが、一つ一つ潰していく」
藤田さんは現場などで採取した血液、唾液、髪の毛などを分析し、事件の手がかりを見つけてきました。
藤田さん:
「手で机を触った時点で私のDNAついてますから。あなたの服を握った時にもう皮膚片がついてますから」
実際にスタッフが触れたものを見せてもらうと、少し触っただけで目には見えない小さな皮膚片が確認できました。ここから個人を特定することができるといいます。
藤田さん:
「DNAがあったって言っても、関係者とか出入りした人のDNA全部調べなければならないですからね。陰で捜査をいっぱいやっています。疑念を排除するために情報が出てる何倍何百倍も努力しているんですよ。証拠にいかに説得力があるか、信頼性があるか、正確なのか、客観性があるかが必要」
事件の真相を明らかにするために、証拠は何を語るのでしょうか。その「証拠」について、菊地幸夫弁護士に伺います。
菊地弁護士:
「事件の裁判は証拠が全てです。刑事訴訟法に『事実の認定は、証拠による』という条文があるんですね。証拠裁判主義と言われていて、当たり前のようですが『あいつ、顔つきが怪しいから犯人だ』とか『前科があるから今度もやった』とか、そういうことで有罪にはできません」
――直接証拠や状況証拠という言葉がありますが、具体的にはどういうことなのでしょう?
菊地弁護士:
「直接証拠というのは、犯罪をズバリ証明する物です。例えば人を刺したとか物を盗ったとか、その様子が映っている防犯カメラ映像があれば、直接証拠になります。また防犯カメラでなくても、それを見ていた目撃者がいれば、その目撃証言も直接証拠になります。あるいは、被害者が『私からあいつが盗った』という被害供述、さらに犯人が『すいません私が盗りました』という自白、これも直接証拠となります。
これに対して、状況証拠というのは『間接証拠』とも言います。ズバリの証拠の周辺にある物です。例えば足跡、指紋、体液、血液、凶器とかが被疑者と一致したということは、犯行現場の近くにいたと言えます。でも犯行ズバリではないです。そうやって非常に近い所の証拠を集めると『もうあなたしかいないでしょ』ということになるんです。
大事なのはもう一つ、その状況証拠の読み解きと積み重ねということになります」
――単独ではダメで、ストーリーとしてしっかり事件との整合性を取っていくということですね。
菊地弁護士:
「はい。そういうことです。そしてもう一つのポイントは『裁判での証拠は十中八九でOK』ということです。どういうことかというと、100%この犯人で間違いないという証拠はそんなにないんですね。特に状況証拠で積み上げていく場合には、どこまで積み上げればいいかということが、裁判で検察官と弁護士の攻防の境目になります。
検察官は100%に近づけようとする、弁護士はゼロに近づけようとします。一方、証明は“合理的な疑い”を越える程度でよいということで、『十中八九』の感覚で見ていただければよいと思います。そういう証拠があれば有罪にできます。例えば100人のうち90人くらいが疑わないとか、それぐらいでもいいのかもしれませんね」
(関西テレビ11月2日放送『報道ランナー』内「菊地弁護士のニュースジャッジ」より)