【記者リポート】
「少年に対する判決が言い渡されました。裁判長は被告人を懲役10年以上15年以下に処すると告げました」
廷内の衝立の中で少年はどのような思いで聞いていたのでしょうか…。
7月25日、多くの人がその行方を見守った注目の裁判。
最大の争点は、殺人を犯した当時15歳の少年に「刑事罰を科すべき」か、「保護処分とするべき」かということでした。
少年(当時15歳)は2020年、福岡市の商業施設の女性用トイレで買い物に訪れていた女性(当時21歳)を包丁で十数回刺して殺害。
女性と少年に面識はありませんでした。
家庭裁判所は、少年について「刑事処分が相当」と判断。
成人と同じ審理を受ける“極めて異例”の裁判員裁判が始まりました。
「保護処分による更生の見込みはない」と刑事罰を主張する検察に対し、弁護側が訴えたのは、少年が育った環境です。
少年が幼いころから兄の暴力や親からの育児放棄、性的虐待を受けていたことを挙げ、「必要な治療を怠れば再犯の可能性が高まる」と、医療少年院で治療を受ける『保護処分』を求めました。
しかし、これまでに少年は、児童自立支援施設などを転々とした後、14歳で少年院に入所。
2020年、15歳で退所して数日後に今回の事件を起こしていました。
裁判の中で少年は…。
<弁護士>
「被害者や遺族への謝罪の気持ちは?」
<少年>
「謝罪というのがどういうのか分からないので特にない」
<弁護士>
「更生したいと思うことは?」
<少年>
「できないと思う。人間は、クズはクズのまま変わらないと思う」
そして迎えた25日の判決公判。
福岡地裁の武林裁判長は「1人の生命を奪い社会も大きく動揺させた少年が、保護処分を受けることは、社会的に許容しがたい」として、検察の求刑通り懲役10年以上15年以下の不定期刑を言い渡しました。
「不定期刑」とは成育段階にある子供の更生の度合いに応じて刑期に幅を持たせるものです。
少年への厳罰という難しい判断、判決のポイントについて菊地幸夫弁護士に伺います。
菊地弁護士:
「今回、裁判所は社会的に『許せない』という点を優先したと言えます。要するに弁護側が言っているような改善、教育ではなくて、因果応報。こういう罪だからこういう罰があるとしなければ、社会的に許容されないだろうと。そこを重視したということになりますね」
――今回の判決について、先生はどう思われましたか?
菊地弁護士:
「そうですね、15歳ですからもちろん少年法の対象です。刑事処分を受ける、今回のような刑事裁判を受けるのは異例なんですけれども、一方で弁護側が言うような保護処分は、やはり少年院を出てすぐの犯行ということで、もう一度戻すというのはちょっと説得力に欠ける面もあるだろうと思います。
でもやっぱり15歳で成育歴を考えると、ちょっと今回の刑は重いのではないか。中間位の落としどころが探れなかったのかな…というような気は致しますね」
――被害に遭った女性の母親は、「不定期刑10年から15年は短い。犯人はやり直しは効かないと思う」、叔母は「もっと罪を重くできる法律を作ってほしい」と判決後に会見で話しています。
少年自身に更生する気があまりないというような話もありましたが、そうしたことも判決の際は考慮されるのでしょうか?
菊地弁護士:
「考慮されると思います。ただ少年の発した言葉をその通り受け取っていいのかどうなのか、大人としてそれをどう解釈すればいいのかというのは、また別の問題かなと思います」
――この事件にはもう1つのポイントがあるそうですね?
菊地弁護士:
「はい。少年への刑事罰は簡単にはジャッジできないということです。本当になかなか難しい問題だと思います。全体の再犯率と比べて少年の再犯率が低いというデータがあり、あと少年犯罪は全体的には減少傾向にあります。
ですから、『厳罰化』というようなことが叫ばれますが、それで一方的に考えていいのか。確かに被害者のこともあります。これは一律にポンと結論が出る問題ではないのですが、やはりその少年の更生しやすい特性を考えた改善というのも考慮に入れながらの更生を、大人として考えてあげるということは必要なのではないかと、私個人としては思います」
(関西テレビ7月27日放送『報道ランナー』内「菊地弁護士のニュースジャッジ」より)