テレワークなどの浸透もあり、都市部から地方への移住が増えています。コロナの影響でセミナーなどが減った2020年を除けば、相談件数は右肩上がり。2022年は過去最高の5万2000件を超えています(認定 NPO 法人ふるさと回帰支援センターより)。
今、人口減少と同じくらい移住者が増えているのが瀬戸内海の小豆島です。移住した人の暮らしぶりや、どんな支援策があるのかについて取材しました。
■移住を“定住”へ 支援の今
瀬戸内海に浮かぶ香川・小豆島。人口約2万5000人。少子高齢化が進み、人口が毎年約500人減少していますが、同時に毎年500人近く移住者が転入しています。なんと人口の約2%が移住者。これは全国的にかなり高い数字だそうです。
小豆島町の移住支援を担当している下本さん。行政としても、移住者に様々なサポートを行っています。
小豆島町 住まい政策課 下本晃史さん:
「賃貸住宅に入居される際の礼金や仲介手数料の初期費用について最大6万円まで、家賃については月最大2万円まで、2年間補助を行っています」
他にも、空き家を購入してリフォームする場合には、最大100万円の補助金を用意するなど、受け入れ体制を整えています。
移住者の6割が20代から40代。働き盛りの若者が多く引っ越してくるのですが、現実はそう甘くないもので…。
小豆島町 下本さん:
「5年間定住していただける方が約6割。4割の方が転出されているような状態ですね。移住者の方の住むところであるとか、働き先、雇用先が少ないというところがありますので。そこをどう確保していくかっていうのが課題になります」
■「こんなはずじゃなかった」防ぐ支援とは
どう定住してもらえるかが今の課題。小豆島では定期的に、オンライン移住相談会を開催。運営しているのは、移住支援を行っているNPO法人Totie(トティエ)です。行政だけでなく、官民一体となり移住支援に取り組んでいます。
事務局長の大塚さんも、東京から引っ越してきた移住者です。
Totie事務局長 大塚一歩さん:
「喜んで来る方がほとんどなんですけども、中には合わなくて帰られる方とか、『こんなはずじゃなかった』って言う風に思われて帰られてる方もいらっしゃいます。やっぱり憧れだけでは定住できないなっていうのを肌で感じてますので、サポートさせていただいてます」
定住する上で最も大事なのが、「家」と「仕事」。この2つの支援を充実させることで定住率が上がると大塚さんは考えています。一体どんな対策を立てているのでしょうか。
Totie 大塚さん:
「行政と一緒に移住支援をしている中の一つで、島暮らしをしながら、島の雰囲気とか人を知っていただこうという移住体験施設です」
空き家を改装した移住体験施設『黒田邸』。生活に必要な家具や家電も備え付けられているので、リアルな島暮らしを体感することができます。
1週間1万4000円からというお値段もかなりお手頃。プチ移住生活を通して「こんなはずじゃなかった」を少しでも減らしたいという想いで始めました。
Totie 大塚さん:
「こちらを通じて移住された方もかなり多いです。この空き家くらいの規模で、だいたい相場が月4万円台、都市部から比べると一軒家に4万円で住めるっていうのは結構魅力的かなと思います。移住の相談件数は2022年度で言うと1100件弱ありますね」
現在、小豆島には約4000の空き家があります。しかし相続の問題などもあり、空き家バンクに登録している数は100件。登録件数をさらに増やす必要があると言うのですが…
Totie 大塚さん:
「今の『家がない』っていう状態がフィルターになってる部分もあるんですよ。本当に小豆島に引っ越したい、新しい人生を切り開きたいっていう思いが強い方しか今来られないようになっているので。島に暮らしている中で、良い人間関係作りっていうのがうまくできるような形っていうのを、もうちょっと模索していきたいなと思っています」
住居の確保と同時に、地域コミュニティとの調和を大事にする。その両輪が移住促進には必要不可欠だと言います。
■定住化のカギ“仕事”の紹介に工夫を
そしてもう一つ、定住のために欠かせないのが、「仕事」。働くイメージをより想像しやすくするため、大塚さんは島にある約60の会社を自ら取材。そこで働く社員のお顔が分かる写真や、福利厚生などを細かくまとめた冊子を作りました。
Totie 大塚さん:
「転職にあたって注目されていることとして、福利厚生とか働きやすさってことになると思いますので、ハローワークに載っていない情報をご覧いただいて企業を選んでほしいなと」
小豆島町にある『せいけんじこども園』。冊子に掲載されている企業の一つです。
せいけんじこども園 園長 慈氏周豊さん:
「生の声が聞こえるようなものっていうのは必要やと思います。空気感が通じるっていうのは大事やと思いますね」
Totie 大塚さん:
「私も島民として、これから先の島の行く末、5年後10年後の未来を考えた時に、どうしても人が減っていく、産業が衰えていくっていうのに対して、今のうちに種まきしなきゃいけない。自分の子供が大人になってから“戻りたい島”であり続けられるかというのが不安な所であり、子供の故郷を守っていく役割は私にもあるかなっていうのは感じています」
人口減少で街の文化が失われないよう、10年後を見据えた島作りが大事だと言います。
■移住で得られたものは…地域にも効果が
港が見える丘に建つ島唯一の醸造所『まめまめビール』。小豆島産の素材を使ったクラフトビールが人気の店です。
店を営む中田さん夫妻。7年前、家族全員で大阪から移住してきました。
まめまめビール 中田雅也さん:
「ビールをおいしく飲める場所でビールを作りたかったので。色々探していたところで、海が見えるところがいいなってことで移住を小豆島に決めたって感じですね」
都会の喧騒から離れ、時間にも心にも余裕が生まれたという中田さん。
中田さん:
「人として成長できたと思っているんですよ。余裕ってめっちゃ大事やなと思ってね。結構不自由なく暮らせてて、通販で何でも届くんで。Amazonとか次の日に来ますし。生活する上でコンパクトに全てがそろっているなって感じですね」
移住の決め手となったのが、店の中庭から見える景色だったというのですが…
中田さん:
「ちょうどジャンボフェリー止まってる。いい景色でしょ!この景色を見た時にここがいいってなりました」
大阪にいる友人が中田さんを訪ねて島に遊びに来ることで、経済効果も期待ができる移住ビジネス。過疎化対策の救世主になるのかもしれません。
(関西テレビ3月28日放送『報道ランナー』内「ヒットにワケあり!オカネのヒミツ」より)