ここ数年、夜パフェや夜アイス、夜カフェなど、夜のニーズをつかむような食のトレンドがありますが、「パン」の分野でもその傾向が出てきています。
朝にオープンして、夕方までに売り切るというのがパン屋さんの“当たり前”でしたが、夜営業をしたことで、思わぬ効果も…。夜に勝負をかけるパン屋さんの今を取材しました。
■なぜ夜だけ営業?「夜のパン屋さん」
大阪のミナミにある『夜のベーカリーMAHOROBA』。オープン前の厨房は、職人がパンの生地を整えたり、焼き上げ作業を行ったりと慌ただしくしています。
夜のベーカリーMAHOROBA心斎橋店 花木そらん副店長:
「人気の商品はカレーパンが1位で、これはオープン当初から不動の1位です」
5種類あるカレーパンは、1日に約150個も売れる店一番の人気商品。ほかにも、もちもちの生地で女性人気が高い「塩パン」や、クロワッサンの生地にキャラメルを使った「クイニーアマン」など約60種類の商品を取り揃えています。
店名の通り、夜に開いている街のパン屋さんで、営業時間は午後5時から深夜3時まで。なぜ夜にだけ営業をしているのでしょうか。
午後5時のオープン早々、続々と学生や会社員の姿が。
大学生:
「カレーパンとクイニーアマンと塩パンを買いました」
会社員:
「仕事終わりにけっこう来ます。夜ご飯も(買いに)来たりします」
夕食に焼きたてのパンを食べたい人が多く来店していました。
すると午後8時ごろ、副店長の花木さんが紙袋を手にどこかへ…。
花木副店長:
「常連さんの店に配達へ。土地柄、クラブの土産とかに使ってもらえるので、配達も行っています」
クラブのママが客へ渡す手土産用に、贈答用のボックスセットを開発。注文が入ると、パンを箱に詰めて徒歩で配達しているのです。多い時には1日で30件以上も注文が入るそうです。
午後8時半ごろ、店内には食パンを大量に買う男性が…。
ホテルの支配人:
「ホテルの運営をしています。今日は、明日と明後日の朝食分をあわせて24欣。美味しいのと、評判がいいのと、仕入れの面ですごく考慮いただいていますので」
近くにホテルが多く立ち並ぶミナミ。一般客だけでなく、ホテルなども客として抱えているのです。
午前0時を回ると、夜の街で働く人たちが大勢来店します。
夜の飲食店の従業員:
「めちゃくちゃ便利です。私らは夜の仕事をしているのでめちゃめちゃ助かっています」
時間によって来店する客の層が違うため、客足が途切れることがないのです。
花木副店長:
「夜に開けたことで今までなかった需要が出てきたかなと。(売り上げは)目標よりは大幅に多いです。今後は日本全国で繁華街がある場所に開けていきたいです」
夜の街に眠っていた需要を掘り起こし、一躍人気店へとなったのでした。
■創業40年の名店の“先見の明”
夜営業に、いち早く目を付けたパン屋さんがあります。大阪の京橋にある『TORIGO』。40年以上も続く老舗のパン屋さんです。
人気のワケは、美味しそうなパンだけでなく…。
TORIGO京橋店 安倍一寿店長:
「うちは24時間でやっています」
なんと、20年近く前から24時間営業を始めたとのこと。そのワケとは…。
安倍店長:
「最初のうちは夜になったら閉めていたのですけど、シャッターを開けて『まだ買えますか?』というお客さんがいてはったので。(競合店は)24時間で言えばコンビニさんがありますけど、パン屋はうちぐらい」
24時間営業を始めてからは深夜にパンを求めて客が大勢来るようになり、売上が20%近くアップしたそうです。
さらに珍しいことも…。
安倍店長:
「夫婦げんかをして、奥さんにものすごく怒られた旦那さんが、夜中に『パンを買ってこい』と言われて、和歌山から買いにこられたことはあります」
ライバルがいないスキマ時間に商機を見出し、人気に火がつきました。
■経営を軌道に乗せた秘策「二毛作営業」
一方、本業とは別で夜を活用するパン屋さんもあります。
2021年、京都・伏見区にオープンしたパン屋さん『gubbe』。店長の宮越さんは元々庭師でしたが、大のパン好きで、念願かなって店を開きました。
gubbe 宮越隆之店長:
「僕がパンの素人なんで、パン屋っていうので絶対成功しないとは分かっていました」
なんとか経営を成り立たせるため、目をつけたのが“店を閉めた後”…。
宮越店長:
「朝も晩も営業するとなると労働時間がのびちゃうので、晩は貸して少し家賃をいただければ営業が続けられるかなと」
夜は別の人が飲食店を営む「二毛作」を始めたのでした。
賃料や光熱費などを夜のオーナーと折半するため、コストを大幅に下げられたそうです。さらに次のようなメリットも。
宮越店長:
「売れ残ったパンを晩に並べてもらって販売していただく。捨てなくていいのと、ある程度の量は買い取っていただいているので、こっちの足しにもなります」
まだおいしく食べられるのに、翌日には売れずに捨てていたパンを大幅に減らせたそうです。
昼のパン屋さんから一転、夜はワインが楽しめるバルに様変わり。人気メニューには、日中売られていたパンがふんだんに使われています。
gubbe 西田匡志店長:
「すごく効率はいいかなと。駅も近く人通りがすごく多い場所なので、ここでやらせてもらえるんやったら助かりますっていうのが正直。協力しあいましょうという形で営業しています」
タッグを組むことで経費を抑えられたり、昼と夜の客が行き来したりするなど、様々な相乗効果があるようです。
常識を覆す街のパン屋さん。これから、どんな進化を見せてくれるのでしょうか。
(関西テレビ2月7日放送『報道ランナー』内「ヒットにワケあり!オカネのヒミツ」より)