フレンチにイタリアン、中華や寿司など本格的な料理を提供する「立ち食いの料理店」。
手頃な価格で提供する人気店には、どんなヒミツがあるのでしょうか。客を満足させて利益も上げる戦略を取材しました。
■本格フレンチを手軽に立ち食いで
彩り豊かなフランス料理で定番のテリーヌに、究極のゆで卵「ウフ・マヨ」など、いかにもお値段が張りそうな本格フレンチがなんと500円以下。
提供するのは、大阪・上本町で今年5月にオープンした立ち食いスタイルのバル『スタンド ニュー太閤』です。
常連客:
「この料理のクオリティーの割に値段が安すぎるので、よく愛用しています」
別の常連客:
「帰る前に少し立ち寄って、軽くお酒も料理も楽しめるのが魅力です」
京橋の老舗結婚式場『太閤園』の閉館を機に、元料理長の2人が独立。「気軽に本格的な料理を食べてほしい」と立ち食いスタイルでの店を始めたそうです。
スタンド ニュー太閤 肌勢英司店長:
「着席型のレストランは豪華に盛り付けて、それに付加価値を加えて金額が上がっていくスタイル。それとは全然違います。単純には言えないですけど、テーブル席とかを置くと敷地が広くないといけないので、初期費用は相当変わってくると思います」
店が狭い分、初期費用が抑えやすく、家賃や人件費などのコストも最小限。サービスも簡略化するなどして料理の値段に反映しているそうです。
こうした低価格で本格料理を提供する立ち食いスタイルの店が今増えていて、年齢・性別問わず大人気。しかも安くておいしいだけではない、客も店も喜ぶ様々な仕掛けが…。
■スタンド中華のフレンドリー戦略
大阪・京橋に2021年1月にオープンした立ち食いスタイルの中華料理店『スタンド中華 十Santsubo(じゅうさんつぼ)』。
名物は、唐辛子や山椒など辛味スパイスを利かせた麻婆豆腐などの本格中華です。美味しい料理こそ座ってゆっくり食べたい気もしますが…。
客:
「ご飯も美味しいですけど、おしゃべりがメインかもしれないです」
別の客:
「座っている方が楽なんですけど、立食パーティーっていうイメージ」
初めての客同士が自然と打ち解けやすいのも立ち食い店ならではです。
スタンド中華 十Santsubo 石井健太代表:
「結構、立ち飲み=回転率を求められると思うんですけど、長く楽しんで居心地よかったなと感じてもらうのが狙いというか、リピーター戦略の一環です」
回転率の高さであえて勝負しない狙い、実は…。
石井代表:
「基本うちはドリンクがセルフで、お客さんに全部やってもらって。あとは常連さんが新しいお客さんにそういうのを教えてくれるので、外側にいっぱいスタッフを作るイメージですね」
少ないスタッフを常連さんがサポート。着席型の店と違い、親しくなるほど善意に甘えやすいのです。
常連客:
「ここは常連になればなるほど店員として使われる店なので(笑)」
別の常連客:
「いいところに目を付けたなって。どこ目線か知らんけど(笑)」
■お酒も進む本格寿司を立ち食いで
一方、最近増えているのが、寿司の立ち食い店。
大阪駅前第3ビルにある『立ち飲み鮨 謹賀』は今年8月のオープンから連日賑わいを見せる人気店で、店のウリはその日仕入れた新鮮なネタの寿司がお得に食べられることです。
例えば、天然のイシガキ鯛は1貫187円、今が旬の天然のクエは1貫219円。マグロに至っては、赤身・中トロ・大トロ全てが2貫で319円という激安ぶりです。その売上は…。
立ち飲み鮨 謹賀 奥村一樹社長:
「大体1カ月で1500万円ぐらいの売上があります。一般的な立ち食い店だと寿司の売上は8-9割ぐらいで。お酒もしくはソフトドリンクが1割ぐらいです。ここは寿司が全体の5割ぐらい、3割がアルコールになっています」
お客さんにお酒を沢山飲んでもらうことで売上を伸ばしているそうで、ある仕掛けが…。
奥村社長:
「通常のお店がこちら12gのシャリ。で、こちらがうちでやっている8gのシャリになってます。人と喋ってる時や、お酒を飲む時に(寿司が)口に残っていたらなかなか喋りにくいですよね。いかに食べたものを飲み込めて、すぐお酒にいけるかっていうリズム感を結構大事にしています」
寿司の味を損なわず会話の邪魔をしない。一番お酒が進むベストな量が8gだそうです。
またこの店では、男性スタッフに調理を任せ、カウンターでの接客は女性スタッフが担当。その理由は…。
奥村社長:
「気の利き方とか見てる視点がやっぱり素晴らしいと思っていて。お客さんの様子をめちゃめちゃ見ていますし、めちゃめちゃお酒を勧めます(笑)」
男性スタッフも調理に専念することで、寿司の提供スピードをより早くできるメリットもあるようです。
■お酒×パン 立ち食いで二毛作に成功
大阪・西区の靭公園すぐ近くで今年6月にオープンした『ウツボベーカリー パネーナ』は、昼間はテイクアウト専門のベーカリーですが、夜になると『立ち飲みベーカリー うらパネ』に変身。
陳列棚をテーブルに使い、昼間に販売しているパンを「あてパン」として550円で食べ放題で提供。本格的なビストロ料理やワインも楽しめます。
立ち飲みベーカリー うらパネ 奥野慎哉店長:
「夜でも買えるパン店という認知を広げたかったのと『パン飲み』という文化を広げたくて」
ベーカリーのレイアウトを生かせる立ち食いスタイルだからできた、昼と夜との二毛作営業。立ち食いを意識して棚を高く作っています。
客:
「発想が面白いなっていう感じですよね」
別の客:
「また買いに来ようかなって。お昼も来たくなる」
また、立ち食いを始めたことで、ベーカリーでの悩みも解決できたといいます。
奥野社長:
「パン店はロスが怖いので、そのためにだんだん焼く量を閉店時間とともに減らしていくんですけど、立ち飲み時間もずっと販売できて、うまく回せるような形を取っています。パンの物販も長い時間販売しているので売上が上がっているのもあります。この立ち飲みの部分でも数字的には月200万円ほど上乗せされています」
進化と多様化が進む、立ち食いグルメ。利用者と店側、お互いにメリットのある“おいしい関係”はこれからも続きそうです。
(関西テレビ12月20日放送『報道ランナー』内「ヒットにワケあり!オカネのヒミツ」より)