従来の形を逆さまにしたことでヒットしている「逆さ商品」。
街で聞いてみると、多くの人から名前が上がったのがハインツの『トマトケチャップ 逆さボトル』。2005年発売の商品ですが、「逆さまだからすぐに使いやすい」と、すっかり定着しました。
今もじわじわ増え続けている「逆さ商品」。ヒットの舞台裏を取材しました。
■客の一言で気付く…“落ちないソフトクリーム”
気温が34度近くあった日。
京都で見つけたのは、逆さにしても落ちないソフトクリームです。
京豆庵では“体に優しいスイーツ作り”をモットーに、保存料・着色料など余分な添加物を使用しない豆腐スイーツを、イチから手作りして販売しています。
薄田ジュリアキャスター:
「本当に逆さにできちゃう!持っている方が怖いくらいです。振っても落ちません。いただきます…お豆腐の味がすっごく濃い。最後はあっさりとしたミルクがすっと消えていきます」
多いときは1日1000本も売れるそうで、お客さんがひっきりなしに訪れていました。
この店のソフトクリーム、逆さにしても落ちないヒミツとは…。
京豆庵 統括 山口裕美さん:
「固める成分は一切使用しておりません。余分な水分を使わずに大豆を丸しぼりして、そのまま濃い豆乳で作ってますので、逆さにしても落ちないんです」
豆腐の風味をしっかり味わえるように、極限まで濃厚に作ったところ、逆さにしても落ちなくなったそうです。誕生のきっかけは…。
京豆庵 山口さん:
「ある日『こんだけ濃いんやったら逆さにしても落ちないんじゃない?』ってお客様に言われたのがきっかけで、(逆さにして)『あっ!落ちひんな~』っていうのが始まりです」
■生活スタイルの変化に着目…時短ニーズ対応で需要拡大
日経トレンディ6月号の「2022年上半期日用品ヒット大賞」で、「逆さ」がキーワードになるほどアツい“逆さ市場”。
ヒットの背景には何があるんでしょうか。
神戸市に本社があるP&Gジャパンからも、ヒット商品が…。
P&Gジャパン ジョイ ブランドディレクター 上平一輝さん:
「こちらの『逆さジョイ』になります。食器用洗剤のジョイで口の方が下向きになっています。このまま直立して、『きゅっ・ぱっ・とん』というリズムで、きゅっと出し、ぱっと止まって、という形で簡単に出る構造になっていて。とん、と置いても液だれしません」
洗剤の出口が下側にある斬新なボトル形状で、ボトルを持って手首を返すひと手間さえ、省略。開発に時間をかけて誕生した特殊なキャップが液だれを防いでくれる、日本初の「逆さ食器用洗剤」です。
P&Gジャパン 上平さん:
「最近、おうちごはんの機会や、共働きというところで、家事の時短というのが求められておりまして。90%くらいの人、料理をしながら食器を洗うっていう人が多いらしくて。この『ながら洗い』をよりもっとスムーズにできないかっていうのを我々は考えました。潜在的かつ、皆さんが普段気付かないようなところで、商品開発のアイデアやヒントを得ておりまして、今回逆さボトルにたどり着きました」
おうち時間が増えるなど、消費者の生活スタイルの変化で、「食器洗いを効率的に、1秒でも素早く終えたい」というニーズに、つかんで握るだけの逆さボトルの簡単さがマッチしたことで、需要が広がったようです。
■拡充しきった時短市場に「逆さ」で新しさを
ほかにもライオンが、逆さでスプレーできるトイレ用洗剤『ルックプラス 泡ピタトイレ洗浄スプレー』を去年9月に発売してから、2カ月半で500万本を販売。
洗いにくい便器の縁裏にスプレーし、こすらずに洗える簡単さが特徴で、逆さにしても洗剤が液だれしないんです。
通常は、チューブから底にある液を吸うため、逆さにすると吸えません。それに対し『泡ピタ』は、逆さにした時に液を吸う場所が変化。レバーの根元からも吸うことができるんです。
最近は座って小用を足す男性が増え、縁裏に飛まつがかかって汚れがつきやすくなったそう。そこで、逆さでスプレーしやすくすることを追い求めたのです。
こうした「逆さ商品」のヒットの傾向について、日経トレンディの編集長は…。
日経トレンディ 澤原昇 編集長:
「長らく続くコロナ禍で、家の中での行動がかなり増えてきて。家事を少しでも楽にしたいだとか、そういったニーズが生まれたことで、メーカーさんも今までにないニッチなお悩みを解決する商品みたいなものをと。それが結実したのがこの上半期かなと思います。以前までは『こすらないで洗える』とか、いわゆる王道の時短商品というのは結構拡充してきたかなという印象でして。既存のものを生かしながら、逆転の発想で固定観念を打ち破ったところに、新しさが出ているのかなと思います」
■便利さで人気に…「逆さ」でぬれるストレスを解消
こうした日用品にとどまらず、今アツいというのが、“さかさのかさ”。調査に向かった東急ハンズには…。
東急ハンズ梅田店 傘売り場担当 前田秀樹さん:
「こちらが『Sa傘(さ・かさ)』でございます。大きな特徴は、畳んだ時に内側が外に来ますので、畳んだ後の外側がぬれていないんです。ですので例えば服に当たったりとか、満員電車で相手の方をぬらしちゃったりとか、その心配が一切ないんです」
この特徴を生かして、「車を乗り降りするとき」が特に便利だといいます。扉を閉めながらスムーズに畳めて、なおかつ服も車内もぬれません。さらに…。
東急ハンズ 前田さん:
「立ちます。自立するんです」
8本の骨の支点が傘を自立させてくれるので、雨の日の会計もスマートに済ませることができます。
実はこの『Sa傘』、2018年から販売しているのですが、最近になってメディアの紹介や口コミで人気が広がり、一時品薄状態に。今年はコロナ前の2019年と比べて、6倍の売り上げが見込まれています。
製造元の傘ソムリエ 土屋博勇喜さん:
「傘っていうと、自分を雨から守るということが一般的ではあるんですけれど、日本は周りを気遣い、空気を読むっていう独特な美意識がやっぱりありまして。衣類をぬらす心配がなくなるだけではなく、『傘自体が空気を読んで、周囲の方々をぬらさないように配慮する』そんな思いで開発しました。この『Sa傘』が、お客様のプチストレスを解消できたので、どんどん需要と供給がしっかり確立できたのかなと」
次々とヒットする「逆さ」商品。
逆転の発想で常識を打ち破り、「逆さ」で消費者の生活スタイルに寄り添うことが、ヒットするヒミツのようです。
(関西テレビ7月12日放送『報道ランナー』内「ヒットにワケあり!オカネのヒミツ」より)