農林水産省『米・米粉をめぐる状況』を見ると、私たちがご飯として食べる「主食米」の需要量の推移は年々右肩下がり。お米離れが進んでいることが分かります。
一方で「米粉」に使うお米は右肩上がりに。お米は食べなくなってきているけど、米粉は使う…そんな現状が明らかになっています。
ロシアのウクライナ侵攻等で小麦の高騰も心配される中、お米は国内の自給率が高く価格が安定していることも需要を後押ししていますが、小麦粉にはない魅力もあるようです。可能性が膨らむ米粉のヒミツを取材しました。
■米粉の種類増でおいしい“お好み焼き”も
年々高騰する小麦粉。大阪の粉もん文化のピンチを救うかも…と米粉が注目されています。本当に米粉は小麦粉の代わりになれるのか、向かったのは…。
薄田ジュリアキャスター:
「粉もんというと小麦粉が主流だと思うんですが、なんとこちらは米粉のお好み焼きのお店なんです」
大阪市福島区にある『米粉お好み焼き 志やり』。
店主の宮川さんが「他にはない、変わったお好み焼き店を出したい」と始めました。そのお味は…。
薄田キャスター:
「舌にのせた瞬間に生地の違いが分かりますね。スフレチーズケーキみたいな食感。すっと消えていくんですよ、不思議。食べ応えはしっかりあるんですよ。でも口どけがすっごく滑らかだから、これはペロッと1枚いけますね」
志やり 店主 宮川和典さん:
「ここ何年か最近で米粉の種類がすごく増えて。お好み焼きをおいしく作れるような米粉の種類も増えてきてます」
■技術の進歩で硬いお米を小麦粉くらい細かく
そんな米粉について取材すべく、明治10年創業、奈良市の老舗米粉メーカー『粉源』へ。
このメーカーでは、膨らみやすいのが特徴のパン用や、幅広く使えるケーキ・調理用、機能性が豊富な玄米粉や、和菓子に使う上新粉など、10種類以上の米粉を取り扱っています。
薄田キャスター:
「小麦粉って昔からパンとか麺とかそれこそいろんなものに転用されているじゃないですか。お米ってなぜそこまで広がらなかったんですか?」
粉源 岡野英幸代表:
「一番難しかったのは加工です。小麦って手でつぶせるくらい柔らかいんですけど、米は硬い。でんぷん損傷を起こさず、小麦粉ぐらい細かくするっていう技術が少なかったんで」
米粉の製粉のヒミツについて教えてもらうと…。
岡野代表:
「こちらは水に10分ぐらい漬けて、その後ちょっと放置してあるものなんですけど、柔らかくして、中まで水を含ませてから粉にすることで、無理やりつぶしてないので、でんぷんが壊れないんです」
こうして柔らかくした米を、製粉機へ。
餅つきのようについて、粗めの粉にする昔ながらの機械だけでなく、気流の力で米と米を自然衝突させることで、少ないでんぷん損傷で約3分の1の細かい粉にできる機械が登場し、粉の細かさのバリエーションが増えました。
粗めの粉は団子に歯ごたえを、細かい粉はケーキやパンにふんわり感を。
豊富なバリエーションが、用途を広げていました。
薄田キャスター:
「ちなみにこの米粉って、私たちが食べているお米を細かくしているんですか?」
岡野代表:
「そうです。うちは主食用の今おいしいと言われている食味値の良いお米を、わざわざ粉にしてます」
主食用の米を米粉にとなると、年々需要が伸びている「米粉用米」とは一体…。
岡野代表:
「農家さんは皆さん主食用(の品種)で売られるんですけど、そのお値段で我々が買って米粉にしてしまうと、非常に高いものになってしまう。売る時に難しくなるので、できるだけ小麦粉に近づけようということで、国の方から農家さんに助成金を」
実は、私たちが食べる米と米粉用米は、“全く同じもの”であることが多いそうです(※米粉用米は定められた用途以外での使用・販売禁止)。
米を米粉用に生産する農家には国が交付金を出して、その分卸値を抑えてもらうことで、原材料コストを削減。割高になる米粉の流通価格を、小麦粉に近づける仕組みなんです。
■パンやパスタも登場…「米粉」が新たな選択肢に
国も普及を目指す米粉。企業も目をつけていて、今商品がどんどん増えています。
柿の種でおなじみの『亀田製菓グループ』は、米粉100%で作った米粉パンのブランドを今年3月に立ち上げ、米粉パン市場に本格参入。
また、大阪の『米粉ぱん専門店 六志』では、5年前の創業から来店客や問い合わせが年々増えていて、午前中に完売することも。
そんな米粉商品で実際に売り上げを伸ばしている企業が、神戸にあります。
ケンミン食品 田中国男 広報室長:
「顕著に伸びているのが、こちらの『ライスパスタ』という商品になります。最近では前年比120%くらいの伸長で、ずっと推移しております」
ビーフンは、中国語で「米粉」と書く、米粉麺の代表格。焼きビーフンで有名な『ケンミン食品』は、創業から70年以上、米の麺と向き合ってきました。
グルテンを取りたくない人にうれしい、数多くの商品を生み出しています。
田中広報室長:
「小麦の代わりになりたいというよりも、お客様にとって、小麦の麺を楽しむ機会があれば、お米の麺も楽しむ機会があってもいいんじゃないかなと。グルテンフリーであることによって、安心しておいしく召し上がっていただけるということを、お客様の選択肢の中の一つにできたらいいなと」
■コクや風味、“伸び”まで表現した世界初の「ライスヴィーガンチーズ」
神戸には、米粉のさらなる可能性を見出した企業も…。
神明 海外事業本部 舩木秀邦部長:
「乳製品を全く使っていない、米粉由来のチーズになります」
米の総合企業・神明が、約3年の開発期間をかけて、今年4月から生産をスタートしたのは、なんと「米粉チーズ」。
米を主原料としていて、乳成分もアレルゲン物質も一切使用していない、世界初の「ライスヴィーガンチーズ」です。
見た目も本物のチーズそっくり。
薄田キャスター:
「(食べて…)チーズだ!乳製品が使われていないので、すごくあっさりした淡泊なチーズなのかなっていうイメージがあったんですけど、チーズの独特のコクとか、酸味とかもしっかり感じられて、ガツンとしっかり『チーズ』っていう味わいでしたね」
メイン事業として米を扱ってきた経験と技術を生かし、酒粕でチーズの発酵の風味を演出。さらに、冷めても硬くならない大福餅を作る独自製法を取り入れ、チーズの伸びを再現できたといいます。
舩木部長:
「いったん粉にすることによって、いろいろな用途に対する原料としての位置付けっていうのを一つ見つけることができたと思っているんですね。いろんな可能性がまだまだ眠っていると。そこに神明として行き着けたことは、大きな財産になっていると考えています」
可能性が膨らむ米粉。もう小麦粉の代わりとは言わせません。
(関西テレビ6月7日放送『報道ランナー』内「ヒットにワケあり!オカネのヒミツ」より)