泊まれる車といえば「キャンピングカー」ですが、所有台数は年々右肩上がりで、2021年は約13万6000台と過去最高となりました。(提供:日本RV協会)
キャンプ需要の高まりや、場所を選ばない働き方の変化などが背景にあるようですが、いざ購入となると、200万円から、高いものでは1000万円を超えます。
そこで、もっと手軽に車中泊を楽しみたい人のために、キャンピングカーではない“普通の車”に泊まれる、様々なグッズや施設が、どんどん増えています。
車中泊ビジネスの最新事情を取材しました。
■人気は普段使いも車中泊も出来る“二刀流”の車
まずは、堺市美原区のスーパービバホーム美原南インター店にお邪魔すると…。
ビバホーム美原南インター店 浅倉泰裕店長:
「家電が使えるグッズや、車の隙間を埋めて、足を上げて寝られる商品まであります。また夜寝られる方が視線を防ぎたいということで、車用カーテンもよく売れています。コロナ禍の中、人との触れ合いの時間を極力縮めたいというニーズもあったかと思います」
続いて向かったのは、車関連の商品を取り扱う東大阪市のスーパーオートバックス布施高井田店。
すでに車中泊向けに改装された車があるとのことですが…。
スーパーオートバックス布施高井田店 カーズ担当 今井靖浩さん:
「こちらが内装を架装している車でして、テーブルモードにもできますし、フルフラットにしてベッド状にもすることも可能な車となっています。180cmほどの長さがあるので、足を伸ばしても十分寝られるスペースがあります」
ここで販売されているのは、本格的なキャンピングカーとは違い、値段もいくぶんお手頃で、近所への買い物などにも活用できる車です。
今井さん:
「ご自身で架装するにしても料金と時間がかかるのでお得だと思います。売れ行きは予想よりはるかに上回っています」
最近は、乗用車にひと手間加えて普段使いも車中泊もできる「二刀流」の車が人気のようです。
■魅力は「非日常に日常の空間を持ち出せること」
車中泊の魅力とは…。
多くの利用者で賑わう、奈良県の「RVパーク・宇陀あきののゆ」で話を聞いてみました。
RVパークとは、道の駅などに設置された車中泊専用施設のことで、全国におよそ270カ所あります。
薄田ジュリアキャスター:
「こちらが車中泊の駐車場なんですが、大型の車が並んでいる間に1台、一般の乗用車が停まっていますね」
乗用車の持ち主:
「3列目のシートは外して、2列目のシートは対座なのでひっくり返して使っています。冷凍冷蔵庫が3万円くらいで、それを除いたらホームセンター部材なので、2~3万円くらいあればできるかと」
車中泊の魅力について聞いてみると…。
乗用車の持ち主:
「ここで寝たり、ここで食事をしたり、プロジェクターで夜、映画を見たりとか。車中泊やキャンピングカーっていうのは、非日常のアウトドアに普段の日常の空間を持ち出せることが魅力だと思います」
大宇陀温泉あきののゆ運営会社 笹岡義史社長:
「元々このあたりは宿泊するところが少なく、泊まりで来るお客様が少なかったので、泊まれる所をつくったらお客様がゆっくりお風呂に入って過ごして頂けるのではないか…ということで。地域としても観光で需要が見込めるかというのがつくったきっかけです」
コロナ禍で疲弊した観光業を盛り上げるため、温泉施設や道の駅などが続々と車中泊ビジネスに参入しているのです。
■自治体やホテル業界からも熱視線
車中泊ビジネスの波に乗る自治体もあります。
茨城県の北部に位置する高萩市は、市内に宿泊施設がたったの10軒で、観光客のおよそ95%が日帰りや市外での宿泊でした。
そこで市は、車メーカーとタッグを組んで、宿泊施設の代わりに車中泊で観光業を盛り上げようとしているのです。
同様の動きはホテル業界でも。
忍者の町で有名な滋賀県甲賀市にある、ホテル「ダイヤモンド滋賀」では、普段は多くの利用者で賑わいますが、コロナの影響で激減しました。そこで…
ダイヤモンド滋賀 阪口洋副支配人:
「一般のお客様、団体のお客様が顕著に減っていましたので、そういったお客様の売上を補えるような形で、RVパークを設置させて頂きました。施設内のレストラン、温泉の利用をはじめ近隣の観光施設への送客のほうに少しでも貢献できればと」
また、車中泊の客に食事を提供することで、コロナ禍で落ち込む売上を補っています。
さらに車中泊により町での滞在時間が増え、地域観光にプラスの効果もあるということです。
観光業に詳しい玉川大学の折戸春雄客員教授は…。
――Q:ホテルと車中泊は客を取り合っていないのでしょうか?
玉川大学 観光学部 折戸春雄客員教授:
「ホテル事業者の人たちと話をしても、目的が違うのでバッティングはしないと。必ずしもお互いのマーケットを取り合っているとは思っていないんです。今は地方を活性化するのにどこも頭を痛めていて、昔みたいに助成金をもらって建物を建てるとか、施設を作るという時代ではありません。(車中泊は)今まで日の目を見なかった動線にある観光地や温泉が、道路さえあればある程度地域の振興ができるというメリットがあります」
■水害をきっかけに寺が“RVパーク”
和歌山県那智勝浦町にある大泰寺。
世界遺産「熊野古道」沿いにあり、開創1200年の由緒正しい寺です。
利用客:
「愛知県春日井市から来ました。いつもと違った雰囲気のところでしたいなと思って検索していたら、寺で車中泊をやれる!と見つけて」
別の利用客:
「くじら博物館に行こうと思って、この辺を探していたら珍しい所を見つけたので」
夜は、熊野古道の清らかな空気を感じながら思い思いに。
ここまでは、ほかのRVパークとの違いはほとんどありませんが、こちらはお寺ということで座禅の体験が可能。
さらに河原には簡易サウナまであり、この寺では身も心も整えることができるのです。
住職が施設をつくったきっかけは、地域観光の盛り上げと過去の“ある出来事”だったと言います。
大泰寺 西山十海住職:
「この大泰寺の周りも多くの家は1階部分が水没しまして…」
2011年、和歌山県内で死者50人以上を出した「紀伊半島大水害」。
中でも、ここ那智勝浦町は土石流などで全体の6割近い33人の死者を出しました。
西山住職:
「地域住民から寺を避難所として活用する要望が強いので、その一環として、キャンピングカーが泊まれるRVパークを整備した次第です。気軽に寺に来て頂いて、色々な体験をして頂ければと思い、提供するようになりました」
災害にも役立つ車中泊。
人気の背景には、観光を盛り上げたい地域と、新しい旅のカタチを求める利用者のニーズがありました。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年5月17日放送)