8月、東京オリンピックに出場した女性アスリートに対して、「ハラスメント」「女性への蔑視」と指摘された発言が相次ぎました。
男女の差別、ジェンダーギャップに詳しい専門家は、「女性はこうあるべきだ」というステレオタイプな考え方が根底にあると指摘しています。
今月4日、ソフトボール日本代表の後藤希友選手の金メダルをかじった名古屋市の河村たかし市長(72)。
市役所には、1万3000件以上の抗議が寄せられました。
河村市長は、金メダルをかじったことに加え、後藤選手に対する発言がハラスメントであったとし、16日、記者会見で謝罪しました。
【河村市長】(8月16日)
「全て私が悪かったということでございます。申し訳ありませんでした。(抗議内容は)『アスリートへの敬意に欠ける』それから『セクハラだ』『パワハラだ』と」
河村市長は、「盛り上げるためだった」としていますが、現場では、後藤選手が返答に困るようなやりとりもありました。
(8月4日の表敬訪問でのやりとり)
【河村市長】
「未来がありそうで、感じがええね。是非、立派になって頂いて、ええ旦那をもらって。旦那はええか。恋愛禁止かね」
【後藤選手の所属チームのスタッフ】
「そんなことはありませんので」
【河村市長】
「びっくりしました。テレビのたくましい雰囲気と、えらいキュートな雰囲気で」
これらの発言を、どう感じるのか、街で聞いてみると…
【女性2人組】
「なんでそんなことを言うのかって思います」
「普通にデリカシーないなって印象ですね」
【女性3人組】
「見覚えのある光景やなって感じです。『彼氏おらんのか』とか『結婚せんのんか』とか聞かれますね」
【男性2人組】
「キュートなっていうのは、かわいいねとか、髪の毛上げてたりすると、雰囲気違うなとか、たまに言いますけど、それを不快に思われるのはちょっとショックかな」
【年配男性】
「居酒屋のノリとかでしゃべってるのと違う?悪気はないと思うんやけどね」
同じような発言で不快な思いをした経験のある人もいれば、悪意のある発言ではないと捉える人も。
スポーツと、男女の差別「ジェンダーギャップ」の専門家、中京大学スポーツ科学部の來田享子教授は、河村市長の発言が、女性を「ステレオタイプ化」し、さらには、スポーツ自体にもネガティブな印象も与えると指摘します。
【中京大学スポーツ科学部 來田享子教授】
「河村さんの場合は、選手が女性だということを言葉の端々で強調するような表現がたくさん見られるんですね。『テレビの中のたくましい雰囲気と、えらいキュートな雰囲気とがあっていいよね』みたいなことを言って、プレーフィールドでの元気さ、ワイルドさと、普通の女の子だよねという文脈で女性をステレオタイプ化して、かわいらしいものとしてとらえる表現が入り混じって1つの表現に出てきています」
「こういう2つの印象が入り混じって伝わってしまうと、たくましさとキュートさの両方を持っていないと、ソフトボールやってる人はあまり褒めてもらえないという印象を与えてしまう。そうすると、ソフトボールやらなくていいかなという気持ちになっていく。そういうネガティブな効果を引き起こしてしまう」
河村市長は、数時間に及ぶハラスメント講習を受けたと明かし、反省の弁を述べています。
【河村市長】
「個人的に、いわゆるハラスメントはいじわるをいうことを中心的に考えてきた。しかしそれは違うんだと。ある会なら、参加者の中で気分を悪くするようなことを言うと、それはそれでハラスメントが成立すると。小学生なんかには、男の子には『大好きな女の子おるかね』と。女の子には『大好きな男の子おるかね』というのは、ずっと長い間使ってきましたけど、やめないかんなこれ」
■張本氏「女性でも殴り合い好きな人がいるんだね」…女性ボクシング選手に対し
また女性アスリートをめぐる問題発言は他にもありました。
東京オリンピックで金メダルを獲得した、ボクシング女子フェザー級の入江聖奈選手(20)に対して、野球解説者の張本勲氏(81)が、8月8日、TBS系の情報番組で、次のように発言したのです。
【張本勲氏の発言】
「女性でも殴り合い好きな人がいるんだね。嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴りあってね、こんな競技好きな人がいてるんだ」
この発言が、「女性及びボクシング競技を蔑視(べっし)した」と思わせるとして、日本ボクシング連盟はTBSに抗議文を出しました。
【日本ボクシング連盟の抗議】
「ボクシング競技が単純な暴力的な殴り合いではないこと、技術を駆使した競技であることをご理解頂き、また女性だからそんな競技に取り組むべきではないという、多様性を否定するような番組内でのご発言を、視聴者の皆様に対して、訂正をしていただきたい」
抗議文を取りまとめた日本ボクシング連盟の仲間達也専務理事は…
【日本ボクシング連盟 仲間達也専務理事】
「女子ボクシングという競技に対する誤解の根底にあるのが、女性とはこうなければならないというものを押し付けてしまうような(考え)。ステレオタイプに物事を言ってしまうことに繋がっているのではないか」
TBSは、日本ボクシング連盟に謝罪文を提出し、張本さんは次のように弁明しています。
【張本勲氏の弁明】
「入江選手の快挙を称えると共に、自分も金メダルを取れるのではと思って、ボクシングをやる女性が増えてほしいということを本当は言いたかったのです。言葉足らずで反省しています」
仲間専務理事は、女性アスリートに対する見方を考え直すきっかけにしてほしいと話します。
【日本ボクシング連盟 仲間達也専務理事】
「女性アスリートを見る時に、男性アスリートと同じようにニュートラルな目線で見られているのかというのを、常日頃から自分の胸に当てて競技を見る。それが本当に成熟した考えなのかとは思っています」
中京大学スポーツ科学部の來田享子教授は、河村市長や張本氏について、「女性はこうあるべき、という非常にステレオタイプな考え方をしていたことが問題だった」と指摘します。
では、どうすべきだったのでしょうか。
來田教授は、周りの人が気づいて指摘すること、「男性だから、女性だから」ではなく、個人を見て言葉を選ぶべきだった、と話しています。
(カンテレ「報道ランナー」8月18日放送)