難病のALS患者から依頼を受けて殺害したとされる元医師の男が、父親を殺害した罪に問われている裁判員裁判で、京都地裁は懲役13年の判決を言い渡しました。
元医師の山本直樹被告(45)は2011年、母親の淳子被告(78)、医師の大久保愉一被告(44)と共謀し、山本被告の父・靖さん(当時77歳)を何らかの方法で殺害した罪に問われていました。
実の父親を“何らかの方法で”殺害したとされる事件。死亡診断書が偽装され、10年以上前に火葬されていたため遺体もなく、完全犯罪とも言われました。この事件の裁判で証拠として提出されたのが「計画メール」。これが裁判ではどう判断されたのでしょうか。
3人は2011年、精神疾患を患って入院していた山本被告の父親靖さん(当時77)を退院させました。靖さんは精神疾患以外に突然死亡するような目立った疾患がなかったにもかかわらず、退院からわずか7時間後に死亡し、その際の死亡診断書は偽造されたものでした。靖さんの死には不審な点があるものの、遺体は火葬されました。
3人が殺人の罪に問われたのは3人の間で交わされた殺害計画とみられるメールが大量に残っていたからでした。
山本被告から母親にあてたメールには、「どうやって処分するか。問題は逃げ切れるかどうか」「父抹殺計画を実行に移したい。一度、下見してもらう必要がある」などと書かれていました。
一方の大久保被告からも、「さっさと死ねとマジで感じる」とのメールが残されていました。
検察側はこれを裁判で証拠として提出。法廷ではメールの意味を問い詰めました。
【検察官】「抹殺計画を実行に移したいとはどういう意味ですか?」
【山本被告】「抹殺とは、転院して寿命が短くなるということです」
さらに靖さんが亡くなったことについて、「ざまあみろ」という文面があったことについては…
【検察官】「何がざまあみろ?」
山本被告はしばらく沈黙し、こう答えました。
【山本被告】「当時のメールの気持ちを詳細に解説することはできない」
裁判で山本被告は「計画はあったものの殺害行為は共謀していない」と無罪を主張。「母親が当日に計画をやめようと言ったので中止を申し入れ、大久保被告も納得していた。しかし大久保被告と父親がマンションの部屋で2人きりになるタイミングができ、数分の間に独断で殺害された」と説明しました。
7日、京都地裁の川上宏裁判長は、靖さんが退院した時、体調が良好だったことなどから「殺害されたと強く推認される」とする一方、大久保被告が独断で、10分程度の間に殺害することが可能か疑問があるとして、「被告らが共謀し、手段不詳により殺害した」と認定。山本被告に懲役13年の判決を言い渡しました。
■証拠のメールが判決の決め手となったのか
これまでの裁判で検察側は「証拠」として、100通以上の大量のメールを法廷で読み上げました。これらの証拠から立証されたポイントが2つあります。取材担当の犬伏記者の解説です。
ポイント1【メールに残っていた計画通りに進んだ事件】
被告らはメールで殺害場所のアパートの賃貸契約、精神科病院からの退院理由などを詳細にやりとりしていました。当日、この計画通りにストーリーが進み、死亡という結果に至ったということで3人の「共謀」による殺人が認められました。
ポイント2【死後にも”揶揄(やゆ)”メール】
靖さんの死後に、山本被告らは「ざまあみろ」「ご要望通り燃えました」などと、靖さんの死を揶揄したとみられる内容を送りあっていました。山本被告が「やめよう」と中止を申し入れていたものの、「父の死が”予想外”のことだった」…などと説明するには、厳しいという印象でした。
■2人の元医師は「秘密を共有」する関係
山本被告と大久保被告はALS患者の嘱託殺人でも起訴されています。この2人の間には、特殊な関係があります。
2人は「秘密を共有する関係」でした。山本被告は、医大を中退していて、当時、厚労省で働いていた大久保被告の知恵を借り、不正に医師免許を取得していました。山本被告は、弱みを握られているという状況にあったのです。
この事件の裁判とは別に、ALS患者の嘱託殺人をめぐる裁判も控えています。医師の知識の悪用や、嘱託殺人という生きづらさや死などについての複雑な議論につながる事件で、今後の裁判の行方が注目されます。
(関西テレビ「報道ランナー」2月7日放送)