なぜ学校は暴行動画を止められないのか?「学校は処分する機関ではない」教師の苦悩とSNSに頼る生徒たち 橋下徹氏「加害者を転校させるべき」 2026年01月15日
年明けから中高生の”暴行動画”がSNS上で相次いで拡散され、社会問題となっています。
取材を進めると、教育現場の苦悩や”指導の限界”が見えてきました。
■深刻化する学校内暴力と動画拡散
文部科学省は14日、全国の都道府県や指定都市の教育長が参加する緊急オンライン会議を開催しました。招集の背景には、SNSで拡散される中高生による”暴行動画”の問題がありました。
去年12月、栃木県の県立高校で撮影された映像には、トイレ内で生徒が他の生徒を思い切り殴り、蹴りを入れる様子が映っています。
この動画はXで年明けに公開されると、1億回以上閲覧され、「いじめに該当する疑いがある」として、教育委員会が謝罪し調査する事態となりました。
■全国で相次ぐ動画の拡散 被害生徒の母は傍観者の存在に怒りを示す
同様の事態は全国で相次いでいます。
熊本県内では、男子中学生が別の男子中学生から顔を殴られたり、首を絞められたりする動画が拡散されました。
被害生徒の母親は「怒りを通り越して無」と語り、「全身打撲と顔がひどい。叩かれて、鼻とかも腫れてて、おでこも10センチくらい膨らんで、救急車呼んで救急搬送してもらった」と被害の状況を説明。さらに「同罪って私は思う。周りで動画をフラッシュたいて、20人で囲んで、『いけいけ』とか、『死ね』とか」と、傍観者の存在にも怒りを示しました。
大分市内の中学校でも、生徒が別の生徒に一方的に蹴られる動画が拡散され、教育委員会が被害生徒に謝罪する事態に発展しています。
■教育現場から見えてきた”指導の限界”
教育現場では何が起きているのか。大阪府内の公立中学の教師は、「インターネット上で配信されている様々な格闘技イベントに影響され、悪ふざけと暴力の境界線が分かっていない生徒がいる」と指摘します。
「1対1の決闘なのか、それを周りではやし立てるみたいなのが、初め遊び感覚で(始まる)。加害の子も、それで相手が死んでしまうとか、相手が失明とか、取り返しつかないことになってしまうまで、考えが至っていないこともある」と現状を説明しました。
一方で、加害生徒への対応には限界があるといいます。義務教育ではない高校では退学処分が可能ですが、義務教育の中学校では退学が認められていません。
「中学校は義務教育なので、(加害生徒も)基本的に来て、学習する権利も保障しないといけない。一定期間、別室指導であったり、反省文書くとか謝罪するとか、その程度と言えば、その程度」と述べ、対応の限界を語りました。
さらに、暴行事案があった際に警察とどう連携するかも、各学校の判断に委ねられています。この教師が勤務する中学校では数年前、生徒が別の生徒からの暴力の末、頭を踏まれ、救急車で病院に運ばれる事案がありました。
■「大事にしたくない」学校側は保護者の意向無視できず…
学校側は、保護者に警察への被害届の提出を勧めたものの、「大事にしたくない」との保護者の意向を無視できず、被害生徒への謝罪だけで終わったといいます。
【大阪府内の公立中学校の教師】「通常、(警察への被害届は)被害の保護者や、被害生徒から出してもらうという形で、学校として出すというのが、今まで私が知ってる限りではない。学校は処分する機関ではないので、生ぬるいと世間の人たちが不信感を持つのかなと思う」
一方、高校生たちに話を聞くと「学校だけだったら難しいところもあるので、SNSに頼っちゃうかもしれない」「先生に言いづらいとか、親に言いづらいとかがあるから、SNSの方がやりやすいのかなって思います」と「学校よりもSNSを頼る」という声が聞かれました。
■加害生徒への”ネット私刑”という新たな問題
こうした中、SNS上では新たな問題も発生しています。
それは加害生徒への”ネット私刑”です。SNSでは、暴行動画の”加害生徒”として、名前や住所などの個人情報が拡散されていました。
「周りの傍観者も社会には必要ないクズだ。できる範囲で特定してほしい」といった投稿も見られ、加害生徒本人だけでなく、周囲にいた生徒や、加害生徒の家族の個人情報の特定が進む事態となっています。
こうした個人情報を勝手に拡散することは、違法ではないのか。インターネット上でのトラブルに詳しい清水勇希弁護士(弁護士法人リット法律事務所)は、「加害生徒の行為が許されるべきではないのは当然」とした上で、こう指摘します。
【弁護士法人リット法律事務所 清水勇希弁護士】「加害生徒の行為が違法だから動画を拡散して、(加害生徒の)社会的評価を低下させていいということにはならない。(投稿した情報が)仮に正しかったとしても、『これが正義』、『世の中のため』と思っても、名誉毀損罪・損害賠償請求のリスクがある」
清水弁護士によると、過去には、あおり運転による死傷事故を起こした加害者の勤務先を特定しようとした人物が、誤った情報を流したとして名誉毀損の罪に問われ、罰金30万円の有罪判決を受けた例もあります。
「『悪いやつには、何してもいい』となると、法治国家ではない」と警鐘を鳴らしています。
栃木県教育委員会によると、”暴行動画”が拡散された高校には、脅迫じみた苦情の電話が届いたほか、ネットの配信者らが押しかけ、一部の部活動が大会出場を辞退する、といった影響も出ています。
■「制裁を超えたリンチになりかねない」と安藤さん
日本大学の末富芳教授は「現状、文科省の通知では、警察への相談・通報ルールが不明確。自治体ごとにルールを定めることが必要」だと指摘しています。
この問題について、ジャーナリストの安藤優子さんと元大阪府知事、元大阪市長の橋下徹さんが意見を交わしました。
安藤さんは「義務教育で等しく教育の機会を与えなくちゃいけないという中では、対応に限界が来ていて、ある種”生ぬるい”(対応になっている)。それに業を煮やしてSNSに『こんなことが起きてるんですよ』と投稿するという気持ちはわからなくないんですが、それを全く関係ない第三者が、その加害者を特定して個人情報をさらすのは、制裁を超えたリンチになりかねない。もちろん暴力をした方が悪い」と指摘しました。
■「教育現場にも政治行政の力が必要」と橋下さん
自治体のトップの経験もある橋下さんは「大阪市の教育現場は小学校、特に公立の中学校では相当環境悪い状況もあった。大阪市はかなり厳しいルールを作りました。ただルールを作るだけじゃダメで、それを実行しなきゃいけない」と述べました。
「教育現場は、教育委員会の独立性ということで、政治行政の介入を拒否してたこともあって、教育現場は今、力がない。30年前、40年前はいいか悪いか別にして、怖い先生がある意味体罰的なことで、学校現場を押さえていたところはある。でも今、体罰絶対禁止でしょ。教育現場はどうやってルールを学んでいない、ルールを無視する生徒を抑えていくのかというと、力がないんです」と現状を分析しました。
橋下さんは「僕は教育現場にも政治行政の力が必要だと。ルールを決めて守らない生徒には、政治行政が責任を持って実力行使をする。実力行使というのは体罰じゃなくて、転校です。被害者側が逃げるんではなくて、加害者側。教育義務教育だから教育を受ける権利はあるんだけど、被害者と顔を合わすことになる。だから転校だと」と主張しました。
さらに「批判はあるかもわからないけど、それは市長が責任取るといいじゃないかと。僕はもっと言えば、『いじめっ子たちを隔離施設に全部集めろ』って言ったんですけど、『さすがにそれはできません』と。『それだったら転校だ』と言った」と過去の取り組みを紹介しました。
教育現場への行政の介入については「教育内容とかに立ち入るのは良くないけども、こういう暴力事案のときには学校現場には介入ということではなくて、市長、知事部局、市長部局が責任を持つことが重要なのかなと思います」と述べました。
■「暴力は犯罪行為であると徹底したほうがいい」
安藤さんは「暴力行為が犯罪行為なんだということを、ちゃんと認識させないといけないと思うんですよ。だから政治が介入するとかっていうことではなく、警察に届けると”大事になる”っておっしゃったかる方もいらっしゃって、気持ちはわかりますよ。けれどもやっぱり暴力行為は犯罪だということを、徹底したほうがいい」と強調しました。
あってはならない教育現場での暴力行為。一方で、当事者ではない私たちは、冷静に事態を見守る必要があります。
(関西テレビ「newsランナー」2026年1月14日放送)