京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判が、7日午後3時前に結審しました。検察は青葉被告に死刑を求刑しています。
【記者リポート】裁判は午後3時前に結審しました。午前に行われた裁判で検察側が死刑を求刑したとき、青葉被告は表情を変えることなく、伏し目がちで下の方をじっと見つめて聞いていました。 そして、裁判の最後に行われた意見陳述では、「質問などに答えることはできる範囲ではありますが、やってきたので、この場において付け加えて話すということはありません。それだけです」と淡々と話し、終始落ち着いている印象を受けました。7日、裁判は一つの節目を迎えました。
■12月7日 京アニ事件裁判は大詰めを迎える
7日午前10時前、青葉真司被告(45)を乗せたとみられる車が京都地方裁判所に入りました。この日、裁判は大詰めを迎えました。 青葉被告は4年前、京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオに火を放ち、36人を殺害した罪などに問われています。 青葉被告は、自身も命にかかわるやけどを負いましたが、医師らの懸命な治療により回復し、ようやく今年9月に裁判が始まりました。
裁判で、唯一かつ最大の争点となったのは、青葉被告の「責任能力」です。青葉被告が当初から繰り返し述べてきた犯行動機は…
【青葉真司被告】「京アニに小説を盗まれた」
これに対し、検察側は、「小説のアイデアが盗まれたと一方的に思い込むなど、犯行は被告のパーソナリティーによるもの」だとして、「責任能力」はあったと主張。一方、弁護側は青葉被告が重度の妄想性障害だったとして、「責任能力はなかった」としています。
この事件で犠牲になった、寺脇(池田)晶子さん。京都アニメーションを代表する人気作品、「涼宮ハルヒの憂鬱」のキャラクターデザインなどを手掛けていました。
【寺脇(池田)晶子さんの夫 今年6月】「あなたがやったことっていうのは、数十人を殺しただけじゃなく、その周りの人に対しても、殺してはいないけどそれに近い状態にまで影響を与えているんだよ。それをやっぱり何らかの手段をもって青葉さんに伝えたい」
これまでの裁判で遺族から死刑を求める声が多く出るなか、青葉被告は6日の法廷で…
【検察】「(法廷で)声を振り絞った方たちに思うことはありますか?」
【青葉真司被告】「申し訳ございませんでしたという言葉しか出てきません」
初めて、遺族に対し謝罪の言葉を口にし、自身の罪について「死刑で償うべき」という考えを述べました。
■妻を亡くした夫「妻が受け入れられるような判決を…」
3カ月にわたる異例の長期審理となった裁判。晶子さんの夫は…
【寺脇(池田)晶子さんの夫】「きょうで最後やね、長かったなあ(Q長かったと感じられる?)そう問われると、逆やな。短かったなと思うな。被害者の方、遺族の方が前向きに今後生きていていけるように、心からの言葉を語ってもらえたらな」
検察側は「日本の刑事裁判史上突出して多い被害者の数で、動機は理不尽かつ身勝手極まりない」などと指摘。そのうえで「更生も期待できず、極刑を回避すべき事情はない」として青葉被告に対し死刑を求刑しました。 その後、法廷に立った晶子さんの夫は声を震わせながら、思いを語りました。
【寺脇(池田)晶子さんの夫】「青葉さんには最も重い刑罰が科されることを望みます。晶子が受け入れられるような判決を仏前に報告できるよう、強く、強く、本当に強く望んでいます」
一方、弁護側は、「心神耗弱が認められないとしても、死刑が選択されるべきではない」と主張しました。 そして、青葉被告の最後の意見陳述。
【青葉真司被告】「質問などに答えることは、自分ができる範囲ではありますが、ちゃんとやってきたので、この場において付け加えて話すということはありません。それだけです」
■青葉被告の治療にあたった医師「生きてるからこそ悔やんでると思う」
7日の裁判の行方を、青葉被告の治療にあたった医師・上田敬博さんも見守っていました。
【鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授】「特に驚かないですよね、こうなるかなと思ってた」
裁判が始まってからも、被告が罪とどう向き合うのか気にかけていました。
【鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授】「あの謝罪の言葉っていうのは表面的にとらわれるかもしれないけど、僕にとっては後悔しているっていう裏返し、それを暗に言ってるような。生きてるからこそ悔やんでると思う」
■裁判の唯一の争点「青葉被告の責任能力」
裁判の唯一の争点は青葉被告の「責任能力」がどう判断されるかです。考えられる判決は3つです。
▼完全責任能力があったと判断された場合は、被害者の数からして「死刑」が想定されます。
▼善悪を判断する力や行動を制御する力が著しく低下した状態だと判断された場合は「無期懲役」。
▼こうした能力が完全に失われていると判断された場合は、「無罪」が想定されます。
責任能力について、実は裁判官と裁判員たちで11月中旬から下旬にかけて、非公開の「評議」を行っていて、そこで結論が出ているとみられています。どのような判決にするかは、裁判官と裁判員たちの中では、ある程度考えはまとまっているのではないかと考えられます。
青葉被告の責任能力について、裁判で青葉被告を取材してきてどう感じていますか?
【記者リポート】「あくまで私が裁判を見て感じたことではありますが、まず青葉被告は会話はしっかり成り立っていて、自分の興味がある分野では豊富な知識を交えて、じょう舌に語る様子が印象的でした。また京都に来てからの話で、『やろうとしていることがよからぬことなので、人との接触を最小限に絞ろうと考えていた』と回答したこともあり、当時、善悪の判断がついていたような様子を垣間見せることもありました。
一方で、特に犯行動機などについては理解しがたい妄想を語る場面が多く見られました。青葉被告の精神鑑定を行い裁判で証言した2人の医師も、責任能力についての見解が食い違っていることもあり、裁判員にとっては非常に難しい判断が迫られていると感じました」
判決は2024年1月25日に言い渡されます。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月7日放送)