「妊娠したらタイトル手放すしか」将棋・福間香奈女流六冠が「出産前後の一定期間はタイトル防衛でも対局できない」”産休規定”改正求め日本将棋連盟に意見書提出・会見へ「誰かが言わないと変わらない」 2025年12月09日
将棋の福間香奈女流六冠が、日本将棋連盟の妊娠・出産に関わる規定の改正を求めて、連盟に意見書を提出したことがわかりました。
福間香奈女流六冠(33)は去年10月、妊娠中に行われた女流棋士のタイトル戦「白玲戦」、「女流王将戦」において、重いつわりと胎盤に問題があるおそれがあることなどから、運営する日本将棋連盟に対局の延期を求めました。
しかし連盟は延期を認めず、福間女流六冠は不戦敗を重ね、タイトルを獲得できませんでした。
連盟が定める「番勝負対局規定」では「天変地異や交通機関の不通、感染症にかかった場合や、総合的に妥当と判断される場合」に、対局日を変更できるとされていますが、当時は「妊娠・出産」に関する規定はありませんでした。
■新設された”産休規定”では「子供は望めない」10日に会見
こうした事態を受け、連盟は、ことし4月に『タイトル戦の日程に出産予定日の6週間前から産後8週間までの期間が一部でも重なる場合は、対局者を変更する』という規定を新設しました。
妊娠した場合、タイトル保持者であっても規定の期間は、「対局者変更」の対象となるため、防衛のための対局に出ることはできず、タイトルは失うことになります。
福間女流六冠は、この規定では「タイトルか出産か、どちらか諦めないといけない」と話します。
【福間香奈女流六冠】「(産前産後)の4カ月の期間にいくつタイトル戦があるかというと、結構な数あるんです。2、3個ぐらい平行してやってる時もあるので、子供をまた望むと、タイトルを失ってしまうというところで、どうしても望めない。
(この規定)がずっと運用されていくと、将来女流棋士になりたいと思う子が少なくなると私は思うのでなんとかしないといけないと思っています」
福間女流六冠は9日、この規定について、「妊娠・出産を社会通念上対局に参加できない事由として認めること」などに変更するよう見直しを求め、意見書を連盟に提出しました。また、10日に会見を行うということです。
■福間女流六冠はどんな人?
福間香奈女流六冠(旧姓:里見)は地元の島根で6歳の時に将棋を始めると、すぐに頭角を現し中学1年で「女流棋士」になりました。
切れ味の鋭い、攻めの指し手からついた異名は「出雲のイナズマ」。
女流棋士の公式戦には8つのタイトル戦がありますが、現在6タイトルを保持しています。(清麗・女王・女流王座・女流名人・女流王位・倉敷藤花)
ことし10月には、直近の公式戦の成績を10勝5敗・勝率6割5分以上として、「棋士編入試験」の受験資格を得て挑戦を表明。※
2022年に続き2度目の挑戦で、来年1月からの5番勝負で3勝すれば合格。
史上初の”女性”棋士の誕生となります。
※将棋におけるプロで男女を問わない「棋士」には、養成機関である「奨励会」で26歳の年齢制限までに「四段」にならないという規定があり、福間女流六冠は女流棋士になってから挑戦したものの、四段への昇段を果たせませんでした。
■去年12月に出産 子供が将棋への”モチベーション”に
【福間女流六冠】「守るべき存在ができたのでもっと自分自身が成長していかなくてはならない」
今月5日、「棋士編入試験」の受験にあたって行われた会見で意気込みを語った福間女流六冠。
”守るべき存在”、それは去年12月に出産した子供です。流産経験のあった福間女流六冠にとっては、待望の第1子でした。
【福間女流六冠】「子供が生まれたことで、かなり充実しているところはあります。日々成長していく過程を見ていく中で、自分自身ももっと将棋に対して真剣に向き合わないといけないという気持ちに自然になりました」
1年間の育休を取得した夫・健太さんの支えもあり、過密なスケジュールと子育てをこなしてきました。
■喜びから一転…「何のために将棋をやっているのか」
妊娠がわかったのは去年4月。
当時の将棋界には妊娠・出産に関する明確な規定が存在しなかったことから、約1か月後には連盟に相談したといいます。
タイトル戦は1年を通してほぼ休みなくスケジュールが組まれており、このまま進むと出産時期と対局が重なってしまうことは目に見えていました。
【福間香奈女流六冠】「先の不安がものすごくあって。話し合いもなかなか前に進まなくて、『もうどうしたらいいんだろう』という不安を抱えたまま過ごしてました」
重いつわりに加え、「前置胎盤」のおそれがあると診断されたことから”長距離の移動”が体力的に難しくなり、対局の延期や対局場所を住んでいる大阪にするよう求めていましたが、認められず「不戦敗」に。
挑戦者として臨んだ2つのタイトルを落としました。
【福間香奈女流六冠】「戦って負けたなら納得できるんですけど、戦う前に敗れるのは、本当にただただ無念というか。気持ちをどう整理していいの一番難しくて、『何のために将棋をやってるのかな』という気持ちになりました」
タイトル戦を含め、妊娠を理由とする不戦敗は10局近くにのぼりました。その記録は、単なる「不戦敗」としてキャリアに刻まれています。
■産婦人科医「つわりは防ぎようがないもの」
産婦人科医は、妊娠中の体調不良について「防ぎようがない」と話します。
【まさこ女性クリニック 苅田正子院長】「突然出血することもありますし、本当に何が起こってもおかしくないのが妊娠です。つわりは自分では防ぎようのないもの」
また、「前置胎盤」は出血リスクの高い状態だと指摘します。
「前置胎盤は胎盤が子宮を塞いでる状態なんですね。その状態で子宮が収縮すると出血が起こってくるんです。
前置胎盤の出血は私たちも怖く、1回でも出血したらすぐ入院して、もしかしたら、もう赤ちゃんを出さないといけない、手術しないといけないような状況に陥る」
このような状況では、「長距離の移動は控えるよう」指導しているということです。
■知らずに作られた新規定「子どもを望むことを躊躇してしまう」
福間女流六冠の不戦敗などを受け、ことし4月、連盟は「妊娠・出産」に関する新たな規定を設けました。
しかしその内容は「産前6週、産後8週」の期間にタイトル戦の日程が1日でもかかっていた場合、タイトル保持者であっても対局できず「対局者変更」となるというものでした。
【福間香奈女流六冠】「(ルールを知った時)もう呆然としたというか。妊娠してしまうと、自分の持ってるタイトルは諦めないといけないっていうような状況なので。だから妊娠することを躊躇してしまう」
福間女流六冠は、「これまでも妊娠による体調不良で不戦敗になった女流棋士はたくさんいる」とした上で、こう語りました。
【福間香奈女流六冠】「(会見することで)どういう風になるのか分からないんですけど、ものすごい問題になるかもしれないですし。でも、誰かがやらないと変わらないと思う。
妊娠・出産と将棋を指すことが両立してできるような制度がないと、女流棋士を目指す子もそこで考えることになると思うので。
両方天秤にかけた時に、選択するということではなくて、両立できるような制度になってほしいなと願っています」
(関西テレビ 2025年12月9日)