兵庫県の斎藤元彦知事が、失職から返り咲いて1年が経った。県議会との溝は今も埋まらない。
知事の疑惑を追及した百条委員会で、委員長を務めた奥谷謙一県議(自民)は、「うぬぼれ・勘違いがあった」と当時を振り返る。それは一体、どういうことなのか。
実は、奥谷県議は2021年、当時、大阪府の財政課長だった斎藤氏の初当選を支えるために自民県議団を飛び出した過去がある。
あの頃の「斎藤課長」と、今の「斎藤知事」はどう違うのか。関西テレビの単独インタビューで語った。
(取材:関西テレビ 鈴木祐輔)
公用PC公開求められ…今思う「反省」
2024年6月に始まった県議会の百条委員会は、約8カ月の調査の末、職員への叱責などを「パワハラ行為と言っても過言ではない言動があった」とし、告発文書作成者の探索行為は「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と結論付けた。
その過程では、告発文書を作成した元・西播磨県民局長の公用パソコンに、「日記」などの私的な文書があったことから、片山安孝副知事(当時)や、第2会派の維新の会から、これらの公開を求める声が上がった。
その私的情報の一部は、同年11月の知事選に出馬した、NHKから国民を守る党・立花孝志容疑者に漏えいされた。
【鈴木】
百条委員会の時は、「パソコンの中身を出したら知事に有利になるから、わざと調査対象から外したんやろ」みたいな批判が、すごかったそうですね。
【奥谷県議】
「すごかったです。そこは反省というか、うぬぼれじゃないけど、当時、メディアの方も取り上げていましたし、そこの手続き・考え方は、県民の皆さんに伝わっているという誤解というか、勘違いがあったんだと思うんです。
百条委員会は別に『知事がいい・悪い』という委員会じゃないんです。
だから、『公用パソコンの中身といわれている資料を見れば、知事は間違ってなかった・いい人なんだと分かる』という話じゃなくて。
『文書に書いてあることが本当か嘘か調査しましょう』という目的なので、そこがちょっと、論点がすり替えられたなとか、我々百条委員会の考えがうまく伝わっていなかったな、という、すごい反省があるんです」
この私的情報については、インターネットを中心に「百条委が意図的に隠したのでは」という言説も広まったが、奥谷県議は「隠すメリットがない」と断言する。
同時に、疑惑と事実が明確に分けられないまま過熱するばかりだった当時の報道についても、苦言を呈した。
【奥谷県議】
「偉そうなことは言えないですけど、メディアの皆さんに抗議をするのであれば、当時『パワハラ』と『おねだり』の問題がすごく騒がれていました。職員アンケートを元に色んな構成をしている番組がありました。『直接見たものではない』結果と、『直接見聞きした』結果を分けて、あくまで『意味合いが違いますよ』って形で出していたら、そんなことにはならなかったのかと、そこも反省としてあるんです。
一部のメディアでガーッとなって、さも知事がそう言ったと、既成事実として伝わるような報道・ワイドショーもありましたよね。そういうのを見ていて、『怖いな』ていうのは正直あったんで。そこだけ苦言は呈したいなと」
“斎藤課長”支援の過去…今と違いは
斎藤知事と奥谷県議の関係は、2021年の知事選前にさかのぼる。自民党県議団は、当時の副知事の推薦を決めたが、国会議員側が、総務省から出向中だった大阪府財政課長の推薦を決定。
それが現在の斎藤知事である。
県議団を飛び出した11人が、斎藤氏を推す新会派「自民党兵庫」を結成。奥谷県議も、そのうちの1人だった。
当時の「斎藤課長」と、今の「斎藤知事」は、変わったのだろうか。
【奥谷県議】
「若いし、見た目もいいし、話してみてもやっぱり兵庫に対する思いもすごくあったので、『こういう人に知事になってほしいな』という思いがあった。どうですかね。そんなに今とイメージは変わらないですけど、難しいですね」
【鈴木】
推薦すべきか皆が悩んでいる時だから、斎藤氏に対して色んなことを聞きますよね。質問にはちゃんと返してくるタイプだったんですか。
【奥谷県議】
「それはそうですね。特に当時は万博とか、これから関西での大きなイベントがある中で、しっかり兵庫も万博を活用して、兵庫としても発展できるようにしていくという、色んなアイデアを持っていて。
その中で生まれたのが『フィールドパビリオン』とかだと思うんですけど。その時はきちんとコミュニケーションを取っていましたね」
奥谷県議は今も、斎藤知事の政策自体にはおおむね賛同しているという。
県立大学の授業料無償化は、長期的な出費が大きく「他にやるべきことがあるのでは?」と懐疑的だそうだが、高校のエアコン設置なども「井戸県政から継続してやっていること」だとして、反対する理由はない。
事実、補正予算は全会一致で可決したし、ほとんどの議案が原案通り可決されている。斎藤知事が「県政は着実に前に進んでいる」と胸を張るのはここだ。
“同じ答弁”に「信頼するのは難しい」
記者会見でも議会でも「質問に答えない」「同じ答弁を繰り返す」斎藤知事の姿勢に、奥谷県議も違和感を抱く。
斎藤知事は、立花容疑者に支援され「2馬力選挙」になったことを何ら総括も釈明もしないまま、「2馬力選挙」の早期対策を求める全国知事会の要請に名を連ねた。県議会の代表質問で、ここを問うた奥谷県議にも、正面から答弁しなかった。
【奥谷県議】
「色々聞き方を変えたりして、色んなことを考えていたんですけど、やはり答弁を聞いていて、『これ以上質問しても絶対同じ答えしか返ってこないな』という…諦めと言ったら怒られますけど、そういう感情もあったりして。
ああいう一般論の同じ答えだと、こちらとしてはコミュニケーションが取れていないので、それはもう、我々議会とのコミュニケーションを取る気がないんじゃないかって、私は思いました。
第三者委員会が出した、『公益通報者保護法違反があった』という結論が出ているわけで、きちんとそれを受け入れた上で、是正していく姿勢を示すことが、僕は第一歩なんじゃないかと思っています。行政の自浄作用を発揮してもらわないと、我々もやっぱり、知事に対して心から信頼するというのは、なかなか難しいと思います」
■取材を終えて…馬耳東風で事は動かぬ
県議会では、山口晋平議長が「議論が深まらず不本意」と、閉会時に異例のコメントを述べた。この山口議長も、かつて県議団から除名されても「斎藤課長」を支援した11人衆の1人だ。
議長から苦言が呈された瞬間、斎藤知事は、手元のタブレット端末をスワイプしていた。せめて知事の耳には、議長の声が届いていたと信じたい。
斎藤知事が告発された公職選挙法違反と背任の容疑は、嫌疑不十分で不起訴となった。ただ、これをもって百条委員会や第三者委員会が指摘した問題点までもが吹き飛んでしまったかのような声には疑問を抱かざるを得ない。
まだ情報漏洩の「地方公務員法違反」の捜査が残っているが、問われているのは刑事責任だけではない。斎藤知事が好んで使う「行政の長」という言葉。その立場には、県政の混乱を収束に向かわせる責任も伴う。
(関西テレビ報道センター神戸支局長 鈴木祐輔)