「宿題ごときで追い込まれんでいいからな」 過疎の町の小学校で児童数が2年で約3倍に 「娘があそこまで変われた」“小規模特認校”での学び 2025年11月24日
【地元の住民】「病院もないし、コンビニもないし、バスも1時間に1本あるかないか。こんな不便な所、誰も来えへんわな~」
兵庫県姫路市の山あいにある莇野(あぞの)町。豊かな自然はあるものの、住民の高齢化と人口減少が進む過疎の町です。
しかし、そんな諦めムードが一転したのは、地元の小学校に子どもたちの元気な声が戻ってきたことがきっかけでした。
「小規模特認校」という制度を導入し、校区外からも児童を受け入れるようになった莇野(あぞの)小学校。
2年前までは廃校の危機に直面していましたが、今では問い合わせが絶えないほどの人気校に変わりました。
田舎の小さな学校に何が起きているのでしょうか。
■全校児童が20人ほどまで減少していた小学校が「小規模特認校」制度で57人に
姫路の中心地から車でおよそ40分。自然に囲まれた山あいにある姫路市立莇野小学校。
2学期の始業式の日、校長先生が子どもたちとじゃんけんをしながら明るく挨拶を交わします。和やかな雰囲気の中、新学期がスタートしました。
過疎化によって地元の子どもたちが20人ほどにまで減少し、廃校の危機に直面していた莇野小学校。
しかし、2年前に校区外の子どもたちを受け入れる「小規模特認校」制度を始めたところ、どんどん児童が増え、今では合わせて57人になりました。
【児童】「おはようございます!」
明るく元気な挨拶が、学校中に響き渡ります。
■「宿題ごときで追い込まれんでいいからな」担任の言葉に込められた思い
遠くからでも「ここに通いたい!」と思う理由の一つが少人数制。6年生は1クラスで13人しかいません。
この日、夏休み明けの6年生の教室では、担任の三和智哉先生が一人ひとりの顔を見ながら言葉をかけていました。
【三和智哉先生】「みんなの宿題をチェックしていくから。できてへんとかあるかもしれんけど、そんなプレッシャーに感じんでええからな。宿題ごときで追い込まれんでいいからな。何より、今日頑張ってきた人もおると思うから、よく頑張ってきたなって先生は言いたい」
夏休みが明けて久しぶりに学校に来た子どもたち。その様子を見ながら、一人ひとりに合わせた言葉をかけます。
■地域の人が用意した「流しそうめん」で迎える新学期
放課後、体育館の前に流しそうめんの竹が用意されていました。
これは地元の人や保護者が企画したもので、「2学期も楽しく学校で学んでほしい」という思いが込められています。
【地元の住民】「山から竹切ってきて、その日に割って準備しました。子どもの笑顔を見るのが楽しみでやってます」
子どもたちの嬉しそうな声が響きます。
【児童】「流しそうめんだ!イエーイ!」
地域と学校、そして保護者たちの協力が、莇野小学校の大きな特徴の一つです。
■「まさか自分の子どもが不登校になるとは思わなかった」4年生の時に転校してきた涼花さんの母
6年生の涼花さんは、4年生のときに莇野小学校に転校してきました。
姫路市内の別の小学校に通っていた涼花さん。幼い頃から活発な性格でしたが、2年生から休みがちになり、3年生のときはほとんど学校に行けませんでした。
「無理して行かんでもええよ、と話したものの、もう本当に行けないんで…」と涼花さんの父は当時を振り返ります。
涼花さんの母も「まさか自分の子どもが不登校になるとは思わなかったですけど、でも自分の子どもが学校行けなくなるとはな、とは思ってました。親としてはなんで学校行ってくれないの?っていうのが正直な気持ちなので、もうずっとそれは言ってましたね。今思えばむちゃくちゃかわいそうなことしてたとは思いますけど」と当時の心境を話します。
■次第に笑顔が戻った涼花さん。「娘があそこまで変われた。感謝してもしきれない」と両親
そんな中で出会ったのが莇野小学校でした。
涼花さんに合わせてきめ細やかに先生が向き合ってくれる少人数制の環境。そして、豊かな自然の中で地元の人に見守られながらの学び。
涼花さんの表情に、次第に笑顔が戻ってきました。
「地域の方から先生、保護者の方、あとはやっぱり莇野のお友達にはやっぱり感謝してもしきれないですね。娘があそこまで変われたんだったら」と母親は目を潤ませます。
涼花さんの父も「感謝以外言いようがないですね。自分たちが何かじゃないもんな。出会えたことが全て」と話します。
■オープンスクールには様々な事情から学校に“行きにくさ”を抱える親子の姿が
この日行われたのは、オープンスクール。ここに通ってみたいという子どもたちで賑わいました。
「楽しかった」と言う子どもの横で、母親はこう話します。
【オープンスクールに参加した母親】「本人が今、学校が苦手になってて、ちょっと行けてなくて。こんな学校あるよっていうので行きたいっていうから来てみたんですけど。学校行くっていう自信がついたらいいなというのが保護者の思いです」
また別の母親は「この子の今の小学校がすごいマンモス校なんですけど、行きにくさが結構あって。先生の目が届きやすいし、支援も届きやすいので、きめ細かいというか、そこが一番いいかなと思います」と期待を込めて話します。
■転入希望の問い合わせは年々増加 規模の小さな学校のニーズ
転入希望の問い合わせは年々増加。今年度初めて赴任した山田英樹校長も、規模の小さな学校のニーズを実感しています。
【山田英樹校長】「大勢の中にいて、なかなか自分を表現できないとか、居場所として認められないというか、そういった子どもが多くなっているような気がします。人数が少ないとそれぞれの役割を果たすチャンスも多くなります。そういった中で子どもたちが経験を積んで、それが自信につながっていくと、子ども自身が輝ける主人公になれるのではと思いますね」
■「劇」で輝く一人ひとりの個性
様々な活動を通して、全員が居場所を見つけられるこの学校。2学期にあるビッグイベントが「表現活動発表会」です。
劇や合唱、演奏を披露します。今年の5・6年生の劇はオリジナルの西部劇です。
莇野小学校に通う条件は、姫路市内に住んでいて、保護者が毎日送り迎えをすること。往復1時間かけての通学は決して楽ではありませんが、親子で話せる貴重な時間でもあります。
「どう?あの表現活動発表会の練習、進み具合はどうですか?」と涼花さんの母が尋ねると、「いい感じ。今日は劇の練習だった」と涼花さん。「楽しそう」と涼花さんの母がほほ笑むと、「でしょ?最高やホンマ」と目を輝かせて応えます。
もともと自分らしく表現することが好きだった涼花さん。劇の練習に力が入ります。
■全員が主役「何より楽しんでほしい」
本番前に先生は「何より先生がしてほしいのは、楽しんでほしいです」と語りかけます。
6年生は円陣を組んで「一致団結何でも挑戦、笑顔いっぱい6年生、おー!」と士気を高めていました。
いよいよ本番。6年生にとって最後の発表会です。舞台で演技をするのはもちろん、照明を当てるのも児童たち。一人ひとりが劇の成功のために力を発揮します。
客席にいた地域の方々からは「一生懸命本当に頑張ってましたね」「賑やかに活性化してきてるね」と温かい感想が聞かれました。
涼花さんの演技を見た両親も「上手だった」「物おじせず役柄に入ってて。よかったと思います。かわいかったです皆さん」と感激の様子。
涼花さん自身も「楽しかった」と笑顔で答えます。父親は「みんなでやってる劇がことしで見られなくなるのは寂しいな」とも。
全員が主役の莇野小学校。莇野の町で育まれた子どもたち一人ひとりの輝きが、地域を明るく照らしています。
「小規模特認校」という新しい選択肢が、子どもたちの笑顔とともに、過疎の町に新しい風を運んでいるようです。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年11月19日放送)