「台湾防衛のために日本は動けない。まずは米軍の話」橋下徹氏が指摘する“存立危機事態”の重大な勘違いとは 日中関係の行方“ヒゲの隊長”佐藤正久氏が明かす対中戦略「唯一の日本のカードは大阪総領事」 2025年11月20日
高市早苗総理の台湾有事に関する「存立危機事態」発言を発端に、日中関係の緊張が高まっています。
日本政府の対応やその影響について、安倍政権で外務副大臣などを歴任し前参議院議員で元陸上自衛隊「ヒゲの隊長」こと佐藤正久氏と橋下徹氏が「旬感LIVE とれたてっ!」で議論しました。
■中国側の”イチャモン”と日本の対応
佐藤氏は中国側の主張について「言われなきイチャモン」と切り捨てます。
「(中国側が)『日本では治安が悪化して、今年に入って特に中国人が巻き込まれる事件が増えてる』と言うが、全くの嘘だ」と指摘。こうした経済的威圧は、日本の安全保障に関わる事項であり、「日本は冷静かつ厳然として立ち向かう覚悟が必要」と強調しました。
18日行われた中国との外交当局局長級協議では、日本側の金井アジア大洋州局長が中国側に対し、「高市総理の国会答弁は日本の従来の立場を変えるものではない」と説明し、薛剣(せつけん)総領事のSNS投稿による暴言について改めて強く抗議しました。
これに対し中国外務省の劉勁松(りゅう・けいしょう)局長は、台湾有事や存立危機事態をめぐる発言の撤回を求め、協議について問われ「当然満足していない」と応じたとのことです。
佐藤氏は金井アジア大洋州局長について「非常にニヒルで、表情から心の中が怒っているのか、笑っているのか、困っているのか、なかなか分かりにくい。非常に交渉相手としては難しい相手」と評した上で、「今まで非常に成果を残してきている。韓国との慰安婦問題や佐渡の金山の世界遺産登録などで手腕を発揮した、非常に交渉上手な男です」と説明しました。
■金井局長が困った顔は「中国側への“貸し”」か
映像で映し出された中国側の劉局長はポケットに手を入れたまま対応していました。
橋下氏はこの態度について「態度悪いですね。一般の大人がやるような態度じゃないですけど、完全に意図して戦略的にやってますよね」と指摘。
(Q.国内向けだけではなく日本に向けて?)
【橋下徹氏】「日本も中国もそうです。日本だとこうやって放送するじゃないですか。(だから)中国メディアの方にこれを撮らせている。完全に仕組んで、明らかに中国の局長の方が、態度が上、偉そうにしているという雰囲気を出している」と分析しました。
一方で佐藤氏は「これはまだ第一歩目。話し合うことが外交の基本であって、これから局長レベル、次官レベル、大臣レベル等々色々ありますから、これを重層的にやることが大事」と指摘。
「どっちが先に行くというのは小さな話で、最終的に外交は結果なので、場合によっては“負けて勝つ”というやり方もある」と強調しました。
また中国側の態度について「普通の国の人が見たら、『中国って不遜だな』と思う。第三国にとっては中国が不遜だと見える」と分析しました。
また金井局長が困った顔をしているように見える事について「中国にとってはいい。通常ここは撮らせない場所ですが、中国の方が撮らせている。金井局長は、ある程度分かった上で、困った顔をしていて、これは中国局長にとっては、ある意味得点になる。“1つの貸し”というのは、多分2人の間でやりとりがあったと思います」と話しました。
■高市総理の発言は戦略的だったのか?、「ここまでの事態になることは想定外」
橋下氏は「高市さんの発言の効果は何だったのか。意図があったのか、戦略的だったのか、その後の効果は何だったのか。こういう事態を上回る効果があれば、それは立派なことだと思うんですけども、そこが僕は全く今見えない」と疑問を投げかけました。
さらに「高市さんの発言があり、中国が激怒して、外交官がこのタイミングで行かざるを得ない状況に追い込まれた。本当にこれを戦略的にやるんだったら、外交官が行くのはもっと後でもいい」と批判。「怒られて、すぐ行くってことになれば、怒られて、ご説明に伺いに行きました。もうこの時点で、僕は負けだと思います」と厳しく評しました。
一方で佐藤氏は、「ここまでの事態になることは想定外だった。厳しい安全保障環境の中では、今までのラインの曖昧さを1段上げた方がいいという思惑があったのかもしれない」とし、高市発言を擁護する立場をとります。
「安全保障面で言うと、やはりそれだけ台湾や尖閣に対する中国の挑発行為が年々厳しくなってるというのは事実。今回踏み込んだことによって、尖閣防衛についても、今まで以上に言いやすくなる」と指摘しました。
「中国は尖閣諸島について、『これは台湾の一部だから俺のものだ』という論理から、台湾と尖閣は一体になっている」と説明し、高市発言が抑止力になるとの考えを示しました。
■橋下氏指摘「これまでの政府答弁に戻すんだったら、何のために言ったの?」高市総理発言に
この発言については10日、高市総理は「最悪のケースを想定した答弁だった。特定のケースについて明言することは今後慎む」としています。
それに対し橋下さんは、「歴代の総理が言っている、政府見解答弁に戻した。総合判断ですと、戻した」と指摘し、高市総理の発言は撤回されていないことについて「もうそれでいいと思う」と理解を示しました。
一方で「でも、これまでの政府答弁に戻すんだったら、何のために言ったのと。実際にこれを言ったことによって、『尖閣の方にいろいろ言える』と言うんですけども、もう『個別具体的な案件に言ったのは反省します』って言っちゃった」
「日本に力があれば、こういう問題なってもそれに耐えられるぐらい、日本は中国のことをはねつけて、『いやもう別に中国との関係はいらん」と。対中依存もどんどん減ってきて、貿易関係も、企業との関係も、『もういらない』って言えるぐらいだったら言ったらいいんですよ。いま慌てふためいてるじゃないですか」と主張しました。
■「日本と密接な国が他国にから攻撃を受けた場合」密接な国は「台湾」ではなく「米国」
橋下氏は「存立危機事態」の解釈について重要な指摘をしました。
「存立危機事態という場合には、日本と密接な国が他国にから攻撃を受けた場合に、“日本の存立が脅かされ明確な危険が生じた場合には武力行使できる”と。日本と密接な国ってどこなのか」と問いかけます。
「他局のテレビ番組で中国にものすごく詳しい参議院議員と議論したところ、この“国”を台湾だという国会議員が多い。『台湾って国家承認、日本はしてませんよ』と言ったんですよ。ここの“国”って米軍なんですよ」と重要な誤解を指摘しました。
「台湾有事は日本有事ということが盛んに自民党の国会議員で言う中で、勘違いしてるんじゃないか。台湾防衛のために日本は動けないですからね。あくまでも米軍と一緒にやるだけなんです。日米同盟の中で米軍とやるだけ」と強調しています。
■落としどころはあるのか
佐藤氏は落としどころについて「唯一日本のカードは駐大阪総領事の問題投稿。これは中国にとってはとげ。誰が考えたって外交官にしては言いすぎ。首を切るというのは絶対ありえない話」と分析。「中国の方ももうやばいと思って投稿を削除した」と指摘します。
「このとげを中国側がいい形で抜けるような状況を作るのが一番。そのためには自民党の方からは、ペルソナ・ノン・グラータ(外交上好ましくない人物)追放だという強い声を上げてもらう。政府は『こういう声もあるんだ』という中で、中国の一番弱い部分を、うまく使いながら落としどころを見つける」という戦略を示しました。
橋下氏は「まず国民自体が中国と日本の力関係をしっかりと認識すべき。中国をちょっと下に見てるような雰囲気があるんだったら大間違い」と警鐘を鳴らします。
「今の2025年の段階で軍事力の差を見てください。もうこんな差がある。だから僕は力を持ったら、言うべきところは言ったらいいと思うんですよ。いま力がないんだったら力を蓄える時期」と主張しました。
「存立危機事態については、あれは“米軍がもし攻撃を受けた時”には、日本は助けに行く。米軍のために我々は動くということは、日米安全保障条約もあるし、国際社会、誰も否定できない。だから今回の存立危機事態の発言を、撤回・修正・取り消しまでは言わなくてもいいけれども、あくまでも米軍の話なんだということを、国民全体でそういう意識を持つことが重要」と指摘しました。
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2025年11月19日放送)