「いつなんどきや、分からんで。おたくらもほんまに」無実訴えたまま亡くなった男性の妻が語る“誰にでも起こり得る冤罪” 開かずの扉「再審」 70年手付かずの「再審法」今こそ改正の時と男性の遺族 2025年11月04日
【阪原弘さん】「皆さん、どうぞ私を信じてください」
強盗殺人事件で無期懲役の判決を受け、無実を訴え続けた男性の願いは叶わぬまま、服役中に亡くなりました。
開かずの扉と呼ばれる「再審」。70年手つかずの法律「再審法」の改正を目指す人たちの姿を追いました。
■“自白が大きな根拠”強盗殺人事件で無期懲役の判決を受けた阪原弘さん
阪原弘さんは1984年に滋賀県・日野町で発生した強盗殺人事件で無期懲役の判決を受けました。事件から3年後の逮捕は、自白が大きな根拠でした。
【阪原弘さん】「一日も早く認めていただき、家族のところに帰ってきます。頑張っていきます。皆さんどうぞ、私を信じてください」
無期懲役の判決を受けた弘さんの願いはかなわぬまま、服役中に死亡しました。日弁連はえん罪だとして裁判のやり直しを支援しています。
【弘さんの妻 阪原つや子さん(88)】「(警察が)『お前も共犯か』って机たたいて怖かった。警察みたいなもん怖いわね」
【弘さんの長男 阪原弘次さん】「父は亡くなってしまったけど、せめて父の名誉だけでも無念だけでも晴らしたい。無罪判決出たよ。父ちゃんは真犯人じゃないんやでって報告したいのが目標なんですよ」
■国会議員の支持を広げるために水面下で活動する弁護士
【鴨志田祐美弁護士】「何度歩いたかわからない道ですけど、今日は特に重要だと思います」
東京・永田町には京都の弁護士・鴨志田さんがいました。鴨志田弁護士は、日弁連の再審法改正推進室長を務めています。国会議員の支持を広げるために水面下で活動をしています。
(Q自民党・公明党が割れたことはどういう風に?)
【鴨志田弁護士】「この問題については、それぞれの議員が個人としてはすごくやる気がある。ある意味、今みたいに混沌としている方が、個々の力が生かせて議員立法でもっていける可能性は高まってると思います」
■70年間改正されていない未整備の法律「再審法」
日弁連が改正を目指す「再審法」は無実の人を救いだす唯一の法律です。
しかし、その手続きはほとんど定められておらず、70年間改正されていない未整備の法律と呼ばれています。
えん罪をめぐっては、去年、元死刑囚・袴田巖さんが、逮捕から58年も経って捜査機関による証拠の捏造、自白の強要が認められ、無罪が確定しました。無実の人が人生の大半を奪われたのです。
この事件などを背景に、国会議員は与党も野党も一緒に再審法の改正を目指す議員連盟を作りました。今年6月には、野党6党が再審法の改正法案を衆議院に提出しています。
■議員立法案の成立を目指し、奔走する弁護士
【鴨志田弁護士】「こんなところに、こんなしょっちゅう頻繁に来るって全く弁護士になったときは全く思ってなかった」
鴨志田さんは、議員立法案の成立を目指し、自民党と連立を解消した直後の公明党議員に賛同を広げようとしています。
【鴨志田弁護士】「法案を超党派で提出したときには、自民党が加わらなかったということで、公明党さんも見送りということにはなったんですが、状況もいろいろ変わってまいりまして、ぜひ、この秋の臨時国会で審議入りができるように少なくともできるようにお力添えいただけるように先生に伝えていただけたら」
■袴田事件をきっかけに「“明日は我が身かもしれない”と浸透してきた」と鴨志田弁護士
自民党の多くの議員が、再審法改正を目指す議員連盟に参加はしています。
しかし政府主導で改正を望む声も多く議員立法案の提出には加わらず、公明と維新も見送っています。
【鴨志田弁護士】「税金をさげるとか、コメの値段とかと違って、国民が関心を持たないことに対して、一生懸命なっても、なかなか票にならないというところで今までは国会の動きが低迷していた。
だけど袴田さんの事件とかで、捏造された証拠で死刑になっちゃってたかもしれない人が、58年も救われなかったとか、お姉さんがあんなに頑張って一生をささげてるとか。
こういうことが報道されるようになって、『大変だ、明日は我が身かもしれない』やっとそれが一般の人たちに浸透してきたことで、今この流れになってると思います」
■再審請求を訴える中、75歳で服役中に死亡した阪原弘次さん
先月、大阪弁護士会が企画した再審法改正を訴えるパレード。その先頭を歩くのは阪原弘次さん(64)です。
弘次さんの父・弘さんは1984年に滋賀県・日野町で発生した強盗殺人事件で無期懲役の判決を受けました。事件から3年後の逮捕は、自白が大きな根拠でした。
【阪原弘さん】「自白も私はするつもりはなかったんですが、(警察に)ひどい暴行を受け、3人がかりの暴行で、もうとてもこれはもう私一人ではすまさん、家族までも犯人扱いにされると思い、私が『はい、私がやりました』と言ったときには、三人の警察・刑事はにっこり笑い。法律みたいなものは私にはそんなものはわかりません。みなさん、私はこれからどうしたらいいんでしょうね…」
弘さんは、再審請求を訴える中、75歳で服役中に死亡しました。
■再審請求決定も…再審は始まらず 2年7カ月、毎日ポストを確認する日々
弘次さんら遺族は再び、再審請求を行い、ずさんな捜査が認められ、2018年に大津地裁、2023年に大阪高裁は再審開始を決定しました。
【弘さんの長男・阪原弘次さん】「30年目にしてやっと再審開始の決定を頂きました。本当に夢のようです」
しかし、いまだに再審は始まっていません。検察が不服を申し立て続けているからです。
弘次さんは仕事から帰ると郵便受けをすぐに確認します。
【弘さんの長男・阪原弘次さん】「(検察の不服申し立てに)棄却決定が来てないかと思って、毎日ポスト確認してます。最高裁判所から通達がきてないかと思って」
(Q:実際、来てなかった?)
【弘さんの長男・阪原弘次さん】「来てないです。つらいです」
(Qどれくらい続けている?)
【弘さんの長男・阪原弘次さん】「もう、2年7カ月ずっとです」
■弘さんの妻・つや子さんは88歳に
弘さんの妻・つや子さんは88歳になりました。
(Q:体調はいかがですか?)
【弘さんの妻・つや子さん】「ええことないで…みんなの世話になってな」
(Q:最高裁判所の決定を待ってる。どんな気持ちですか?)
【弘さんの妻・つや子さん】「しんどいですね。わかってもらえたよって言えるように、無理して頑張って生きようと思って。頑張ってます」
議員立法の改正案では、長期化を防ぐために再審開始決定に対する検察官の不服申し立てを禁止しようとしています。
■「金庫まで案内する様子」を示す証拠写真は「帰り道」の写真が混ぜられていた
この事件では、盗まれた金庫の発見現場まで弘さんが案内できたとすることが有罪の決め手の一つでした。
裁判所に提出された「金庫まで案内する様子」を示す証拠写真について、不審に感じた弁護士の要請を受けて裁判所が検察にネガフォルムの開示を要請。すると、帰り道の写真が混ぜられていて証拠のねつ造ともいえる事態が判明したのです。
今の法律では、このネガフィルムのように捜査機関が集めたものの、裁判に使用しなかった証拠に開示義務はありません。
議員立法の改正案では、検察の証拠開示に関する規定を作ろうとしています。
【鴨志田弁護士】「こんなひどい目にあってるし、こんな理不尽なことで人生の大半を奪われてるってことが国会議員の先生が自分事として共感できるうちに法改正をぱって実現させないと日本人って喉元過ぎると熱さ忘れちゃうようなところがあるから、この機を逃すなって感じですよね」
(Q:70年変わらなかった法が変わると思いますか?)
【鴨志田弁護士】「変わると思います。変えなければならないと思います」
揺れる政局の中でも棚上げは決して許されない課題です。つや子さんの言葉がそれを物語ります。
【弘さんの妻・つや子さん】「いつなんどきや、分からんで。おたくらもほんまに。突然のことやでね。びっくりした」
■再審には2つの『開かずの扉』
再審には、2つの『開かずの扉』があります。
・検察が証拠を開示しない
・検察が不服申し立てできる
議員立法案では、以下の項目が盛り込まれています。
・弁護側が求める証拠の開示
・不服申し立て禁止
菊地幸夫弁護士は、再審法見直しの必要性は「大いにある」とし、「刑事訴訟法の最後のほうに再審が出てくる。普通の公判の証拠の開示などについては細かく手続きが定めてあるが、再審に関しては(全516条で)20条もない。どんな理由で再審が開始できるか、管轄、誰が請求できるかなどの規定があるほか、どうやって裁判をやるのかの規定はほとんどない。こんな状況なのでどうやっていいのかわからない。裁判所によってもやり方が変わる」と再審法の現状を説明しました。
【菊地幸夫弁護士】「(『開かずの扉』について)検察が言っていることは理屈としてはわかる。(弘さんのケースで証拠は)帰り道ではなく行き(の写真)が大事。そういう証拠が分からない弁護側にとって、言えない弁護側の請求に応える必要がある。
不服申し立ても検察に認めてあげないと公平じゃないだろうというのはわかるが、 再審になれば、手続きの中で検察の言い分を思う存分言ってもらえばいいと思います」
(関西テレビ「newsランナー」 2024年10月30日放送)