【サービス運営団体職員】「どこ行くつもりやったん今日?」
【1人で出歩いていた認知症女性(95)】「わからへん」
静かな京都の住宅街。認知症の母親と暮らすタカシさん(仮名・65歳)の日常は、常に緊張の連続だ。6年前に認知症と診断されたユウコさん(仮名・95歳)が一人で外出してしまうのではないかという不安と向き合いながらの生活。
去年1年間で認知症で行方不明になり、警察に届け出が出された人は1万8000人以上にのぼる。
全国に400万人以上いるとされる認知症高齢者。家族による介護は限界を迎えつつある。特に都市部では、地域との繋がりが薄く、見守りの難しさはより深刻だ。
■「夜勤で一人になると不安になり外に出てしまう…」
京都市で暮らすユウコさん(95)と息子のタカシさん(65)の場合は状況が異なる。6年前にこの地域に引っ越してきた二人は、地域との繋がりが薄い。
「ご近所づきあいも、数年ではねえ、ここらへんはなじめないです。お願いもしづらいですね。ご迷惑をおかけするのが申し訳ない」とタカシさんは打ち明ける。
認知症のユウコさんは「いなくなってほしいんやろ」とタカシさんにキツイ言葉を発することもある。
タカシさんは仕事の夜勤がある時、ユウコさんを家に一人でおかざるを得ない。
「夜勤があるので、1人にするとなぜ自分がここにいるのか、ここがどこなのかわからなくなって、不安になって思わず外を散歩して、一晩歩いて、路上でしゃがみこんで休んででいるところを誰かに発見されて」とタカシさんは過去にユウコさんが徘徊した時のことを振り返る。
■認知症高齢者を「取調室のような部屋で待ってもらう」元警察官の気づき
1日中、1人で見守り続けることには限界があったタカシさん。そんな彼を救ったのが、ある有料サービスだった。
運営するのは一般社団法人「つなぎ」。
認知症の高齢者が警察などに保護された際、すぐに駆け付けられない家族に代わって、スタッフが迎えに行き、家まで送り届けるサービスを提供している。
代表の中邨よし子さんは元京都府警の警察官。
警察官時代、警察署の取調室のようなところで認知症高齢者を保護せざるを得なかった経験がサービスを始めたきっかけのひとつだ。
【中邨よし子さん】「(保護した高齢者に)あまりきれいじゃない部屋でパイプ椅子に座って、日常と違う空間で待ってもらわなあかん」
タカシさんは夜勤で家にいない時のため、ユウコさんの靴にGPSを装着。動きを感知すると「つなぎ」に通知が行く見守りカメラも設置した。
ユウコさんが外出した際には、位置情報を頼りにスタッフが迎えに行くサービスも利用している。
(24時間フルサポート 5500円/月、見守りカメラ2台 1万1000円/月※出張費などは別途必要)
このサービスのおかげで、タカシさんの生活は大きく変わった。
「出ていかれたらどうしようっていうのがいつでもあって、物事を慌てながらやっていたのが、ゆとりができるようになりましたし。キャリアアップとていっても65歳ですけど、資格試験を受けて2つ受かりました。そういう形で進んでいる感じがします」とタカシさんは笑顔で語る。
■子ども110番の家の「高齢者」版の取り組み
「つなぎ」はさらに新たな取り組みも始めている。「高齢者110番の家」だ。
全国に広がる「こども110番の家」の高齢者版で、外出中の高齢者が体調不良などで困ったときに助けを求められるよう地域の人に協力してもらう取り組みだ。
「高齢者110番の家があると、皆さん安心して散歩にでかけてくれるんじゃないかなという思いがあって。休憩して、お水とか飲んでいただけるような、そういう場所になったらいいな」と『高齢者110番の家』を担う社会整理士育成協会の鈴木健司代表理事は語る。
他にも、「つなぎ」は地域の高齢者が立ち寄れるカフェを運営。繋がりが薄い都市部でも互いに助け合える関係を作ろうとしている。
「今にあわせて、システムを作っていかないと、今から高齢者の方が控えているわけですから。定着するまで10年、20年かかると思うし、本当に後悔しないために、早め早めに備えというのしとかないと駄目やなと思います」と中邨さんは未来を見据える。
高齢化がますます進む日本。認知症になっても安心して暮らせるように。それは社会全体で取り組むべき課題だ。
(関西テレビ「newsランナー」2025年10月7日放送)