子供の命支える相談窓口 増える相談 背景に「大人の余裕のなさが子供に影響」足りない相談員 活用広がるAI相談 小中高生の自殺者が過去最多で急がれる対策 2025年09月30日
いま、大人の自殺者数が減少傾向にある一方、子どもの自殺は増え続けています。去年の小中高生の自殺者数が過去最多の529人。増え続けるこどもの「自殺」。
いま、自殺を防ぐために新たに活用されているのが「AI相談」です。しかし、AI相談が原因で自殺してしまったとして、アメリカでは裁判も…。
子供の自殺をどのように防ぐのか、模索が続く最前線を取材しました。
■16歳の時に自殺未遂を経験した女性「自分自身が諦めてしまっていた」
神奈川県に住むsakiさん。6年前、高校1年だった16歳の時、自殺を図って電車に飛び込み、両脚を失いました。きっかけは、家庭環境でした。
【sakiさん(21)】「母からは父の愚痴を聞かされて、父からは母の愚痴を聞かされてという形で、間に立たされてしまったことがとても苦しくて。でも、どうしていいかわかない。どっちも好きだから」
中学生のころから過呼吸に悩まされていたsakiさん。さらに進学した高校では、環境の変化によるストレスも重なったことでうつ病に。一時、学校に行けなくなり、教師に相談しましたが…
【sakiさん(21)】「留年するよとか、このままだと単位取れないよっていう言葉をもらっていて、正直、行くのも辛いのに、なんで留年がダメなんだろうと。もうこれなら死んでしまいたい、消えてしまいたい、楽になりたいっていう思いで駅に向かったんですけど。誰にも分かってもらえないんじゃないかって、自分自身が諦めてしまっていたのかなって思います」
■「自分は愛されていた」現在は「生きる大切さ」伝える活動
家庭にも学校にも居場所を失い、つらい気持ちを誰にも相談できませんでした。しかし、sakiさんに生きる希望を与えてくれたのは、原因となったはずの家族でした。
【sakiさん(21)】「飛び込んだ後にすぐ病院に運んでいただいたんですけど、そこで緊急手術をしていただいて、その直後に両親が駆けつけてくれて。お互いにごめんね、ごめんねって泣きながら言ったの覚えています。私って大切にされてたんだって、愛されてたんだって、遅いかもしれないけど気づいて、その時に生きててよかったって思えた」
今では、1人暮らしをしながら、リハビリにも励んでいるsakiさん。
「生きる大切さ」を伝えたいと、本の出版や講演会などで発信する活動をしています。
【sakiさん(21)】「どん底に落ちたのは正直なところですけど、でも、そこから楽しい未来が待っていたっていうのに気づけたのは大きいので、今は辛いかもしれないけど、辛いことがあったからこそ、楽しさだったりとか、幸せを感じられるんだよっていうのは伝えたい」
■子どもの自殺者数は増加傾向に 去年は529人と過去最多
自殺者の総数は近年、減少傾向にある一方で、子どもの自殺者数は増加傾向にあり、去年は529人と過去最多に。
こども家庭庁は、来月から新たに自殺未遂の経験がある子どもを対象とした調査を始め、「なぜ思いとどまったか」の要因を探ることにしています。
■10代からのチャット相談が増えている
こどもたちの自殺はなぜ増えているのか。取材班が訪れたのは、「大阪自殺防止センター」。午前0時を過ぎても、相談の電話が鳴りやみません。
【相談員】「はい、国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センターです。いま自殺しようと考えてるんですか?」
ここ数年、特に増えているのが、10代からのチャット相談です。
【13歳女性】「悪口いわれます」
【13歳女性】「やっぱり死にたくなっちゃった」
【16歳女性】「たすけてください。きょう最後に頼もうと思ってここにきました。もう無理だったら死にます」
去年寄せられた相談の数は、前の年より2割ほど増えました。
■「AI」が相談の選択肢の一つに
一体、なぜなのか。
【認定NPO法人国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター北條達人理事長】「まず、相談窓口がちゃんと周知され始めた。別の要因として考えるとしたら、やっぱり今、社会全体の余裕のなさ、特に大人の余裕のなさというのが子どもに影響を与えているなという気はしますね。
子どもが悩んでいます、苦しんでいます、葛藤しています。『悩んでていいよ』とか、『そんなもんやで』って言えるほど、親自体が余裕がない」
ただ、「余裕がない」のは、支援団体も同じ。ここ最近は、ベテランの相談員が次々と引退し、相談に対応しきれていないといいます。
こうした中で、北條さんが注目しているのが、AI相談です。
【認定NPO法人国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター北條達人理事長】「苦しんでおられる方、悩まれてる方の数というのは担い手に比べて圧倒的に多くて、多分、支援者の数をどんどん増やしていっても追いつかない。
そういう時に、AIがもし選択肢の1つになるのであれば、AIであれば『今すぐ相談できます』、人であれば『しばらく待たないといけません』と、どちらか選ぶことができるんですよね」
■「しんどい」と感じた時の相談先にAIが26% 「相談相手」としてAI活用進む
小中高生を対象としたアンケートでも、「しんどい」と感じた時の相談先として、AIが26%と最も多かったとの調査結果も出ています。
実際にAIを使った悩み相談を手掛ける会社があります。
【つながりAI代表 駒崎弘樹さん】「子供たちの自殺ゼロを目指して、AIを全国の子供たちに広げていきたい」
こちらの会社がつくったのは「友達AIヒメちゃん」。LINEで悩みをつぶやくと相談相手になってくれます。
実際に「学校に行きたくない」と打ってみると、数秒で…「話してみることで少しでも気持ちが楽になるかもよ」と返ってきました。
【ディレクター】「親しみやすい口調で話してくれるんですね」
【つながりAI代表駒崎弘樹さん】「そうですね。友達なんで」
先月から、兵庫県姫路市のすべての公立中学校で実証実験を始め、24時間365日、悩みを相談することができます。
【つながりAI代表駒崎弘樹さん】「いかに相談するということのハードルが高いかなんですよ。だから友達AIっていう形で好きな人の話から始めようよっていうところから入っていって相談したい人は相談できるっていう風にしないとそもそもつながらないっていうこともある」
■AIが自殺を“肯定”したことが原因で16歳の少年が自殺
しかし、AI相談には思わぬ課題も…
先月、アメリカ・カリフォルニア州に住む16歳の少年がチャットGPTとのやり取りが原因で自殺したとして、両親が裁判を起こしました。
訴状によると少年は当初、勉強のことなど些細な質問をしていましたが、次第に悩みや不安を打ち明けるように。そして、自殺の意思をほのめかした少年に対しチャットGPTの返答は…「あなたの感情を否定しようとは思いません」と、自殺を“肯定”するともとれる内容でした。
チャットGPTを運営するオープンAIは、安全性に反する回答の可能性を認め、「対応方法を改善していく」とコメントしています。
こうした課題に「友達AIヒメちゃん」は「死にたい」というメッセージが送られてくると相談ダイヤルを案内するなどAIだけでなく「人」も関与することで対策をおこなっています。
【つながりAI駒崎弘樹さん】「AIが子供たちに寄り添い子供たちの『死にたい』とか『いじめ』などを早期に発見できれば早期に支援、ケアができる」
こどもたちの声を聞き逃さないために。新たな対策が求められます。
■自殺防止のためには「会話が重要。“生きる意味を一緒に考える”」
増え続けている子供たちの悩み相談に、AIで対応しようとする動きもあるようですが、どこまで有効なのか?
大阪自殺防止センターの北條達人理事長によりますと、「相談員が不足する中で、AIは相談の選択肢にはなり得る。一方で、AIは悩みを言葉通りにとらえ、全て肯定する側面もある」ということです。
では、子供たちの自殺を防止するためにはどうすればいいのか。
まず、「子供との会話が重要で、“答えを出す”ではなく、“生きる意味を一緒に考える”ことが重要」だそうです。
【共同通信解説員 太田昌克さん】「人間としての原点に立ち返る必要があるのではないかというご指摘だと思う。大人に余裕がない。相談窓口も人手が足りない。そしてAIに頼ろうか。社会の悲鳴が、もう幾重にもなって伝わってくる。
そんな人間の心の持ちよう自体が、何か危機の時代を迎えているような感じもするんですが、私たち人間ですから、心があって、真心があって、思いやりがある。近くの人に愛を伝えることによって救われる方もたくさんいらっしゃいますから、まずは耳を澄まして一緒に考えながら、アイデアを出してく。そういう姿勢を忘れないようにしたいですね」
周囲の大人に悩みを相談できないケースもあるかと思います。
相談窓口はたくさんありますので、どうか1人で悩みを抱え込まずに、誰かにどんな形でも良いので、助けを求めてみてください。
◆24時間子供SOSダイヤル
電話:0120-0-78310
※フリーダイヤル、無料、24時間対応
◆LINE「生きづらびっと」→友だち追加
(関西テレビ「newsランナー」2025年9月29日放送)