アメリカのバンス副大統領が、「アメリカのAI技術が世界の基準であり続ける」と席を立ち、共同声明にも署名しないなど、荒れ模様となったAIアクションサミット。
その裏では、企業や研究者がAIの“最先端“についてさまざまな切り口で発表していました。
関西テレビパリ支局特派員の原佑輔記者が取材しました。
■AIの国際的な枠組みを構築するサミットが開催された 浮き彫りになった足並みの乱れ
【関西テレビパリ支局特派員 原佑輔記者】「ともに議長をつとめるフランスのマクロン大統領とインドのモディ首相が到着しました。この後の会合で米中との利害をどのように調整するのか注目されます」
2月にフランス・パリで開催された「AIアクションサミット」。
100以上の国から、政府や企業の代表など1000人以上が出席しました。
アメリカと中国を中心に人工知能=AIの開発競争が激化する中、フランスのマクロン大統領は国際的な枠組みを構築していくことを目指していました。
しかし、首脳級の会合で表面化したのは、「規制」と「開発」をめぐる足並みの乱れです。
■アメリカ、イギリスは共同声明に署名せず
【バンス・アメリカ副大統領】 「私たちは、AI政策において常にアメリカの労働者を最優先します。労働力を必然的に自動化する破壊的な技術とは見なさない」
そのうえで、バンス副大統領は「アメリカのAI技術が世界の基準であり続ける」と述べ、過度な規制には反対すると主張。
地元メディアによると、バンス副大統領はそのまま退席したということで、「AIのリスクに対処し、透明性に関する作業を継続する」ことなどが盛り込まれた共同声明には、日本や中国、フランスなど60の国と地域が署名した一方で、アメリカとイギリスは署名しませんでした。
■世界中から研究者が集まり AIが描く未来の姿について語る
サミットが目標とした、歴史的な合意に至ることはできなかった一方で、会場には世界中から研究者などが集まりAIが描く未来の姿があふれていました。
【原佑輔記者】 「サミットの会場ではあのようなステージがいくつも用意され、周囲では多くの人が意見交換をしています」
■目が不自由でも読書を楽しみ、景色を認識できるアプリ
ナイジェリアのスタートアップ企業のブースです。 ここでは、目の不自由な人の生活をサポートするアプリを紹介していました。
【原佑輔記者】「こちらのアプリを使って写真を撮ると、目の前の景色を解析し、音声で伝えてくれます」
【アプリの音声】「ここはとても広く、装飾が施された展示場、おそらくパリのグラン・パレのような歴史的建造物の中だろう」
このバイシス(VISIS)というアプリには、目が不自由でもスムーズに読書が出来るようにと、文字を認識して読み上げる機能が備わっています。
加えて、撮影した写真から自分自身がいる場所の周囲の情報まで音声で伝える機能も開発しました。
【オラデジ・トリオラCEO】「ケニアなどナイジェリア国外にいるすべての視覚障害者にも、このアプリを利用してもらい、本を読んだり、周囲の風景や物を認識できるようにしたい」
■アフリカが抱える「言語の壁」をAIで乗り越える
また、AIを活用してアフリカが抱える「言語の壁」という課題を乗り越えようとしている人にも出会いました。
チュニジアの大学で教授を務めているハダドさんは、およそ2000あるアフリカの言語のデータベースを作っています。
現在は40の言語をカバーしているということですが、背景には少数言語を話す人たちゆえの苦悩がありました。
【ハテム・ハダド教授】 「チャットGPTにはアフリカのデータはごくわずかしか含まれていません。アフリカの言語は0.01%しか含まれていません。アフリカのほとんどの政府にはAI戦略やビジョンもありません。今日解決すべき他の問題を抱えていて、AIどころではありません。」
ハダドさんは、「言語の壁」を乗り越えることが、さまざまな分野のイノベーションにつながると考え、アフリカの発展に貢献したいと考えています。
【ハテム・ハダド教授】「データを母国語で収集することで、言語のギャップを埋めるソリューション(課題解決の方法)が生まれます」
■AIのリスク“不当な差別”や“虚偽の情報”
一方で、AIのリスクに向き合う必要があると話す人もいます。
【ピーター・スラテリーMIT・研究員】 「現在、中国と米国の間で見られるような競争力学は、AIの開発を加速させ、他のリスクを引き起こします。AIを最初から安全なものにするために、十分な時間と労力、リソースを投入する必要があります」
アメリカの名門校の一つMIT=マサチューセッツ工科大学の研究グループに所属するピーター・スラテリーさんです。
スラテリーさんのグループは、AIによってもたらされる“不当な差別”や“虚偽の情報”などに関連した1000以上のリスクを特定して公開しています。
【ピーター・スラテリーMIT・研究員】「より多くの人々にAIのリスについて知ってもらい、皆が共通の理解を持つことができるようにしたいと考えています。私たちは皆、AIとともに良い未来を築くために考え、行動することができます」