価格高騰に歯止めはかかるのでしょうか。
コメの価格高騰が続く中、農林水産省は14日、政府が保管する「備蓄米」21万トンを放出すると発表しました。
いわゆる“消えたコメ”の問題が指摘される中、卸売業者はコメを手放すのか。取材すると意外な事実が見えてきました。
■“消えたコメ”問題 投機目的で売り渋り?
価格高騰が収まらない“コメ”。
【記者リポート】「こちら大阪市内のスーパーなんですが、コメを見てみますと、全て税込みで4000円超え、中には5000円超えのものもあります」
こちらのスーパーでは、去年の夏に比べ5キロのコメの価格が1000円ほど上昇。
農林水産省によると、コメ5キロあたりの平均店頭価格は3688円と、これまでで最も高くなっています。
この値上がりの背景にあると指摘されているのが、“消えたコメ”問題。
去年の全国のコメの収穫量は、前年より増えているにもかかわらず、JAなど主な集荷業者が集めたコメは、およそ21万トン減っています。
収穫時にはあったはずのおよそ21万トンは、投機を目的とした一部の業者が抱え込んで売り渋り、その結果、市場に出回るコメが品薄になって、価格が上がっているのではというのが、いわゆる“消えたコメ”問題です。
■「流通を安定させる目的」では初 政府備蓄米の放出が決定
この問題の解消のために、14日、江藤農林水産大臣が発表したのは、政府が保管する「備蓄米」の放出です。
【江藤拓農水相】「(備蓄米の)販売数量は21万トンとします。これはいわゆる流通が滞っている、スタック(停滞)しているこの状況を、何としても改善したいという強い決意の数字だと受け止めていただきたい。正直なところ上昇した価格が落ち着くこと、それは当然期待しております」
「流通を安定させる目的」としては、初めてとなる政府備蓄米の放出。
異例の措置をとった背景には、コメが投機の対象になることへの政府の危機感が表れています。
【江藤拓農水相】「このままの状態を放置すれば、これから先も主食であるコメが、マネーゲーム・投機の対象になってしまうかもしれない」
備蓄米は3月半ばに引き渡しを始め、早ければ3月下旬にはスーパーの店頭に並ぶということです。
■「国が本気を出してきたな」と専門家
21万トンの備蓄米の放出を専門家は、どう見ているのでしょうか。
【宇都宮大学農業経済学科 小川真如助教】「かなり大きい数字だなと思って、国が本気を出してきたなと思いました。売り渋っている業者がドンと出してくるかに、全てがかかっているかなと思います。もうちょっとヤバいなとなれば、『早めに利益を確定させよう』とか、『損切りしてでも早くコメを手放したい』という業者が出てくるのではないか」
■中小の卸売業者を取材 「コメは絶対売れるから、買えるときに買わんと」
備蓄米が放出され、売り渋っている業者はいわゆる“消えたコメ”を市場に出すのか…。そもそも消えたコメは一体どこに?その行方を探し、取材班が向かったのは兵庫県にある中小の卸売業者。
今回、会社名を明かさないことを条件に取材に応じてくれました。
この卸売業者は、農家から直接コメを買い、飲食店や個人などに販売しているといいます。政府が把握する「主な集荷業者」には、該当していません。
(Q.ここがお米の倉庫?)
【兵庫県内のコメ卸売業者】「そうですね、はい」
倉庫にあったのは、高く積まれた袋。およそ600トンのコメです。
(Q.去年の同時期と比べて米の量はどうですか?)
【兵庫県内のコメ卸売業者】「入荷した量は、今年度のほうが1.5倍くらいは多い…」
今年度は例年よりも多くのコメを集めたという男性。 その理由は何だったのでしょうか?
【兵庫県内のコメ卸売業者】「去年の夏場からコメがなくなって、値段も高くなって、コメがないと商売にならないから、だからそれなりのコメを仕入れた。余ったら余ったで、コメは絶対売れるから、買えるときに買わんと」
この卸売業者は、「投機目的」で買いだめしているわけはではなく、取引先に定期的にコメを納められるようにストックしているといいます。
■政府の“売り渋り”指摘について「あくまで取引先のため」 卸売業者は「JA離れ」を指摘
政府が卸売業者の“売り渋り”を指摘することについては…。
【兵庫県内のコメ卸売業者】「言い方悪くしたら、“売り渋り”になってしまうんやけど、夏場、売るコメがなくなったりしたら、商売できへんから」
(Q.備蓄米放出で値段が下がるかと思われ、高い時に売った方がいいと思うが…)
【兵庫県内のコメ卸売業者】「一気に出すことはしないと思う。去年みたいな(コメがなくなる)ことになったらえらいことやから」
買いだめはあくまで取引先のためで、「コメが高い時期に売ることはしない」ということです。
そしてコメの価格高騰の背景には、「主な集荷業者であるJAが、中小の卸売業者に買い負けている」ことが原因と主張します。
【兵庫県内のコメ卸売業者】「今年度はJAの寄りが悪かったみたい。(農家に提示した)値段が安かったんですよ。JA離れっていうのもあるし、JAの買い取りの仕組みもあるやろうし」
■「JA離れ」についてJAを直撃 「卸売業者の買いだめが要因」と回答
「JA離れ」は本当に起きているのか。JAの担当者に直接聞いてみました。
【JA京都 田中義隆営業部長】「JAとしては、農家さんのご希望に応えるために、最大限の努力して買い取り価格の設定をしている。全国的にも農家さんへお渡しする価格は上がったと思っています」
しかし買取価格を上げたのにも関わらず、今年度のコメの集荷量は、例年に比べ2割ほど減少。その理由をどうとらえているのか聞くと。
【JA京都 田中義隆営業部長】「JA以外の中間業者さん、ブローカーさん。この方たちがコメをストックされている可能性はある」
あくまで、卸売業者の買いだめが要因だと答えました。 高騰が止まらない中、ついに決まった備蓄米の放出。
■政府の放出決定に米卸売業者は「そのためのストックです」
取引先のためにコメを確保していた卸売業者は、14日。
(Q.政府の放出で買いだめしているコメは?)
【兵庫県内の米卸売業者】「放出はしません。新米がとれるまでの、従来からの得意先用のコメですので、それを切らすことは絶対できない。そのためのストックです」
今後、お米の価格はどうなるのでしょうか。
■「コメ関係者にインパクト。価格が下がることにつながる」と専門家
備蓄米21万トンの放出決定について、江藤農水相は、「強い決意の数字。価格が落ち着くことに期待」と話しています。
3月半ばに集荷業者に引き渡しが行われ、3月後半~4月に店頭に並ぶということです。
価格はどうなっていくのか、宇都宮大学農業経済学科の小川真如助教は次のように話しています。
「今回の決定はコメ関係者に非常に大きなインパクトを与えた。価格が下がることにつながるだろう」
「“売り渋っている業者”がどれだけ米を出すかが一番のポイント」
「一方で、大量に米が出回ると価格の下げ幅が大きすぎたり、乱高下する不安がある」
これまでコメ価格の高騰が続いてきたので、下がることは消費者にとってはありがたい動きだと考えられます。
■「新しい時代のコメ政策が必要」と専門家
小川助教はいま起きている「令和のコメ騒動」で、コメの流通の課題が浮き彫りになったとも指摘します。
「実は30年ほど前(=コメ流通の自由化が行われた時期)から、いつでも起こり得る話だった。“コメを誰でも扱えるの”が原因」
気候変動などでコメの収穫が減ったり、インバウンド需要によって消費が増えると、投機目的でコメを集める人が出てきたといいます。
そして小川助教は、「新しい時代のコメ政策が必要になる」といいます。
食卓に欠かせない主食であるコメ。どのような政策が必要になってくるのでしょうか。
【亀井正貴弁護士】「かつては統制経済で利害関係者が、生産者・消費者・JAの三者だけだったので、他のサプライヤーは入ってくる余地がなかったんです。これを市場原理に任せてしまったら、投機する人も出てくるし、いろんな関係者が入ってくるわけです」
【亀井正貴弁護士】「だけどお米はそれではすまない。例えば子供食堂とか、本当に必要にしている人もいる。国民生活の基本の問題です。それからすると完全市場原理ではなく、やはり政府が消極的にでも、ある程度介入する余地を残さざるを得ない。為替と同じかなと思います」
また人口が減り、食生活も変わってきている中で、コメの需要がどんどん減っているという問題もあります。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「備蓄米放出で、今回は落ち着くかもしれません。でもことし秋以降、またどうなるか分からないです。これまで人口が減って、コメ離れが進んでいく中で減反政策を進めてきて、供給量を抑えてきたんです。この農業政策が本当に良かったのかどうか。一度立ち止まって、考え直すタイミングかと思います」
価格が下がることは、消費者にとってうれしい面はありますが、農家の方にとっては厳しい面もあります。
今回、備蓄米の放出が市場に与える影響について、十分注意してみていく必要があります。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年2月14日放送)